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親子

暫くすると直人が3人の男の人と共に会議室に戻ってきた。


すると、凜香さんが元座っていた席から端の方の席に移動し、入ってきた3人が俺達の対面に座った。




「初めまして。エンゲージ法務部の神月です。こちらは弊社顧問弁護士の、三津屋先生と石渡先生です」




そう言うと、隣の二人の人が会釈した。




「概要は社長の方から伺っておりますので、今回は先生方にご助力頂こうと考えています」




神月さんがそう丁寧に話すと莉乃愛は、




「よろしくお願いしまーす!」




と元気に挨拶した。


物怖じしないというか、いつも通りと言うか…。


すると直人の親父さんが、




「ははは! 莉乃愛ちゃんはいつも通りだね! 今回はアークさんから状況聞いた感じだと、結構分が悪いんだけど、先生方に任せておけば大丈夫だから心配しないでね」


「えー! 分が悪いんですか?!」


「り、りのあ…。一旦は話聞こうよ…。分が悪いのは俺もわかってるから…」


「そ、そう…。あっくんがそう言うなら、お願いします!」




莉乃愛はコロコロ表情とテンションを変えつつそう話した。


すると弁護士の人が話だした。




「弁護士の三津屋です。今回本件をメインで担当しますのでよろしくお願いします。ちなみに莉乃愛さんは、既に18歳を過ぎているという認識でよかったでしょうか?」


「はい! 18歳です!」


「りょ、了解しました…。既に成人済みと…。ちなみに、莉乃愛さんはお父さんとどうなりたいという希望と言うか意志みたいなのはありますかね?」




三津屋先生、莉乃愛があまりに元気だからびっくりしちゃってるじゃん…。




「そうですねー! できれば縁を切りたいです! いいことないんで!」




莉乃愛はウムって感じで言い切った。




「わかりました。ちなみに八代社長からは、恐らくお金の問題だろうと言われているのですが、何か借金やそう言うお話は聞いたことありますか?」


「えー? 全くないですね! というか、中学以降一言二言ぐらいしか喋ってないんですよねー」




莉乃愛は目を閉じて昔を思い出すように「むーん」と言う感じで話した。



「なるほど…。そうすると本当何が出てくるかわかりませんね…。現在お世話になっている家で特別養子縁組とかもしていないんですよね?」


「ようしえんぐみ?」




莉乃愛は「ん?」っと首をかしげて言った。


あ、難しいのかそれ!


俺は慌てて、




「え、えっと…湯月新です……。現在りのあが住んでいる家の者……です……。特別養子縁組はしていません……」




俺がそうもごもごと答えると、




「そうですか…。結構厄介ですね…。昨年秋の法改正で18歳以上は成人扱いになってしまっていますし…。とりあえずお会いする際は私も同席させていただいた方がよさそうですね」


「お願いしまーす!」


「ちなみにお金の問題になった場合はどうされますか八代社長?」




弁護士の先生が直人の親父さんを見て言った。




「金額感によりますが、中々難しいですね…。他の所属タレントの建前、一人に肩入れしすぎるのは少々問題があるんですよね…」




直人の親父さんは困ったように言った。


それを聞いた莉乃愛は、




「お金の問題?」




と頭に?を浮かべながら言った。




「り、りのあ…話したじゃん…俺と直人でお父さんが元所属していた舞台俳優事務所で話聞いてきたって」


「あ、うん?」


「それで、お金の問題を抱えてる可能性がありそうだって」


「あ、んんん?」




説明しているんだが、なんだか暖簾に腕押しな感じだ…。


すると華蓮さんが、




「要は、りのあのお父さんがお金の問題を抱えてる可能性があって、それをお金払って解決する代わりにりのあを自由にする的な?」




と、ポンッと手を叩きながら言った。


ハッキリ言うのもあれかと思って伏せて話したのに、スバっと言っちゃったよ…。


しかし当の莉乃愛は、




「あぁ、そういうこと!! いくらかによりますが自分で出しますよ!!」




それを聞いた三津屋先生は、





「あはは、わかりました。とりあえず、どうなるかは話してみなければわからないので、お金の問題になった場合の対処法はこちらでも考えますね」




と、優しそうに笑いながら言った。


俺はそれを聞いて、




「あ、あの…一応親父にも相談しておこうと思いますので……」


「あ、はい、わかりました」


「ええ? なんであっくんのお父さん?!」




と驚いたように聞いてきたので、




「いや親父と言うか、こういうことを母さんに話さず進めると、りのあのこと大好きな母さんが拗ねそうだなって思って…。ほら、昨日怒られたばかりだし…」


「あぁなるほどね!」




うまく話はそらせたな…。


親父から1億までならうちで出すと言われているが、それをそのまま言うと莉乃愛が嫌がって面倒くさくなりそうなので、頭出しだけしておいて後で直人経由とかで伝えようかな…。


そんなことを思っていると、それを聞いていた三津屋先生が、




「あはは、なんか今時の子は勢いがすごいですね(笑)」




と少し笑いながら言った。


すると直人が、




「まぁりのあちゃんが割と秀でて行動的で、対照的にこいつが割と秀でて引きこもり体質なんで、より強調されちゃう感じなんですよね」




と言うと、




「あー! 直人、なんかバカにされた気がする!」


「してないしてない!! 客観的な事実だから!! 新もなんとか言え!!」


「……黙秘」


「お前ぇ!」


「直人、あたしのこともバカにしたってことか!!」


「いや、だからぁ…!!」




そんな俺達のやりとりを皆は微笑ましく見ていた。


そしてその後、後どういう流れで進めるかを、時折莉乃愛の意思確認もしながら、直人の親父さんと三津屋先生で進めた。


とりあえず相手の出方次第ではあるが、相続を整理するための遺言を残してもらったり、今後公的証書類に莉乃愛の名前を使わないことであったり、接触禁止であったり、公正証書でがっちり固める感じにするということだ。


実際に用意周到にやられると、これら全てが揃っていても面倒なことになりえるそうだが、出来る限り莉乃愛の今後に影響がでないようにとのことだ。



俺も法律の詳細は分からないので、途中から「どういうこと?」みたいな感じだったが、莉乃愛にいたってはもう最初からちんぷんかんぷんなようで、理解することを諦めているような感じだった。



しかし、親子って強い結びつきなんだな…。


聞いている感じ細かいところまでわからないけど、色んな法律を引っ張り出して周辺を固めても、真ん中に親子っていう一本の強い芯が通ってしまっている感じだ…。




「では、大まかにはこういう流れで行ければと思います。今回はあくまで個人的な内容になりますので、エンゲージさんではなく、莉乃愛さん個人との契約でよろしいですかね?」


「あ…そこら辺は僕宛にご連絡いただけますと……」




俺がそう言うと、




「だめー! そう言う連絡はあたしにしてください!」




と、華蓮さんが自分の胸をドンっと叩いて言った。




「で、でも、華蓮さん難しいよ……」


「あー! あっくんまで! あたしは莉乃愛のマネージャーになるんだから、それぐらいできるようにならないと!!」




とドヤーッと言った。


た、確かにマネージャーの仕事と言えばそうなのかも?


プライベートなことだけど…。


すると端で話を聞いていた凜香さんが、




「ふふふ! 華蓮ちゃんいい心がけね! それじゃあ、私の方に回してくれれば華蓮ちゃんと一緒に進めるわ! それなら安心でしょアークさん」




そう言いながら俺にウインクしてきた。




「あ、は、はい…そういうこ…」




すると俺の話をさえぎって、直人が、




「凜香さんも変わらないじゃん……」




とボソッとため息をつきつつ言った。


あ、変わらないんだ…。


そうなんだぁ…まぁ確かに、見た感じ莉乃愛や華蓮さんと同じ世界に住んでる人だもんなぁ…。




「直人!! それは言わない約束でしょ!」


「いやだって…とりあえず、契約書類は俺に回してください…。俺と新で確認するんで……。ほ、ほら! 新の個人の契約もあるんで!!」




直人が思いついたようにそう言うと、凜香さんも納得したのかそういうことならと頷いた。



話の流れで、今回で菅谷家の膿を出し切る為に、最初から三津屋先生が出ていくのではなく、最初は俺と莉乃愛で話すということになっていた。


三津屋先生が最初から出ると警戒されて、本題が出てこないかもしれないからだ。


その為俺も、三津屋先生と顧問契約を結ぶことになった。




そして結局直人経由で、俺と莉乃愛の顧問契約を進めることとなり、その日は帰った。



そしてその後、直人は雪菜さんの方の件で忙しすぎるので、細かいところを俺が三津屋先生とメールでやりとりして進め方が決まった。





1.一旦家に帰る日を明確にし、その日しか帰らないと連絡する

2.最初は俺と莉乃愛だけで家に入る。ただし、俺が三津屋さんに通話を繋いでおいて、いつでもかけつけられるように近くで待機してもらう。

3.莉乃愛はスマホで録音しておく。

4.冒頭で俺が同席する旨の了解を先方にとる。

5.話の内容やその場の状況が、持ち帰って考えますってできるような感じであれば、三津屋さんは登場せず、そのまま持ち帰る。

6.もしそうじゃない場合は、りのあが代理人である三津屋さんを呼ぶ




莉乃愛は言われた通りに父親に連絡し、昔の莉乃愛の家に行くのは次の日曜日になった。

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