記憶の中の幼馴染
そうやってあげはさんと個人女性配信者との同時配信が増えていくと、更に俺のチャンネル登録者数も増え、配信を開始してから10カ月で登録者が10,000を超えた。
あげはさんも、その頃にはソロでゴールド帯にあがり、登録者が25,000を超えた。
しかし、あげはさんがソロ配信でゴールド帯に初昇格した時はすごかったな…投げ銭で30万円超えてたんじゃないだろうか…あげはさんもうれし泣きしてたし…
「ゴールド昇格時すごかったですね」とお話ししたら「家族に焼肉をおごります(笑)」と言っていた。
一時は収益化なんて夢のまた夢と思っていたが、運よくここまでこれたなという感じだった。これもあげはさんを繋いでくれた直人のおかげだな…おれもなんか奢ってやるか…。
ある日の放課後、
「直人、ラーメン奢ります」
「おお? なんだなんだどうした??」
「ついに登録者が1万人を超えまして」
「おーまじか! おめでとう! これで収益化か! ってか収益化してラーメンって!もっといいもん奢れや!」
「いやいや、俺の収益なんて微々たるもんなんで…」
「まぁそうだろうな(笑)んじゃラーメン奢ってもらいますかね!」
「もちろんでございます! それもこれもあげはさんを繋いでくれた直人のおかげですので」
「あーおれもあげはさんと友達だったらもっといいもの奢ってもらえただろうになー」
「まぁそれはそうかもしれんが、おれで妥協しといてくれ」
「ま、ようやくこの前妹に紹介してもらった女の子と遊べたから別にいいけどな!」
「あー俺のコーチングをだしに妹に交渉したって人か」
「ま、それはいいとして、んじゃ早速行こうぜ。個人勢女性配信者キラーさん?」
「なっ…!」
そうなのだ。登録者が増えたのはいいが、増えた要因はどう見てもあげはさんをはじめとする女性配信者さん達のおかげで(多少俺がプレイを頑張っていたのもある)、色んな人とコーチング配信という名のコラボ配信をしていったことで、ネットではそんなことを言われていた。
あげはさんとご一緒する配信者で初めての俺とパーティーを組む方のコメント欄では、
『きた、アーク』
『ついにゆずきちゃんが喰われた』
『おれ達のゆずきちゃんが…』
『アークに狙われた…』
みたいな感じで、女性配信者キラー的な扱いをされており、大体は配信者の方に「私がお願いしてるんだからーーー!」的に訂正してもらっているので、事なきを得ているが割とひやひやする感じなのである。
もう本当、あげはさんの投げ銭とかを半分当事者みたいな感覚で見ていたが故に、本当ファンの人は狂信的にファンなので後ろから刺されないかまじで怖い。
俺が個人勢で事務所のしがらみがなく、最近流行りのOPEXがそこそこうまく、あげはさんを素人からゴールドまでは引き上げた実績があり、あげはさんのリアル知人経由だから素性もしっかりしているという、結構現実的な理由なだけなのに。本当なにもないんだけど怖い…。
そんなことを思いながら、帰りがてら直人に家系ラーメントッピング全部乗せをご馳走した。
「そう言えば、妹はどこの高校に行くの?」
俺は隣でラーメンを食べる直人に話しかけた。
「んー? なんかテニスの先生にスカウトされたらしく、西の方」
「ああ、そうなんだ」
「なんでも、駅を挟んで高校が2つあるみたいで、どっちの高校にも一人ずつ超美人がいるらしい」
「へぇ」
「お前興味ねーの?」
「ないね」
「お前本当に男子高校生か??」
「俺多分一生そういうことに興味出ない気がする。高校にして独居老人確定だね」
「独居老人ってなんかもっとこう、寂しそうな感じだけど、お前が言うとなんかそう感じないな…」
「まぁ好きなことやってるんだろうしね」
「そんな気がするわ」
「まぁとりあえずは、折角動画配信始めて収益化できるようになったわけだし、これで生活できるぐらいをまず目標にしようかな」
そうして二人でラーメンを食べた後、直人は買い物があるということだったので別れて、俺は家に向かった。
収益化できたのはいいものの、ここからどうしていくかなぁ。
あげはさん以外とも、個別にご一緒できないか誘ってみるしかないのかなぁ…。
本当女の人ばっかりなんだよな…。
しかもあげはさんがいるからなんとかなってるけど、これであげはさん抜きでやりだしたら、いよいよネットで叩かれそうだなぁ。
叩かれるのは別にいいんだけど、怖いんだよなぁ。
そんなことを思いながら、最寄駅から家に向かって歩いた。
我が家は、小学校の跡地に作られた低層階マンションだ。
小学校の跡地だから、敷地は広大なのだが、高層階にすればもっと収益性上がったのにと思う。
ただどうも「ゆとりを持った作り」というのがコンセプトだったらしく、広い敷地なのに低層階で広い中庭や平置きの駐車場と言ったなんというか無駄に贅沢な作りになっている。
受付も常駐しており、我が家も4LDKで140㎡ほどある。
まぁ俺が買ったわけじゃないし、エレベーター待ちの時間がほとんどなくて気にいってはいる。
そして、マンションのエントランスホールには、いくつかのテーブルとソファが置いてありウェイティングスペース的な感じになっている。
マンションにこれいるのかなーと昔から思っているが、そんなエントランスホールをいつもの受付の人に会釈し通り過ぎようとしたとき、ウェイティングスペースのソファに座っていた女の子が顔をあげた。
「………あっくん…! 助けて…!」
そう言って泣き出してしまった女の子。
その泣き方を見て、ふと思い出した。
「え…もしかして、りの…ちゃん?」
それは、小さいとき近くに住んでいるからとよく一緒に遊んで、その後疎遠になった、もう記憶の中の幼馴染がそこにいた。




