オフィスG
「直人、ちょっといい?」
「いいっちゃいいけど、今大学来てんだよね」
「ああ、そうなんだ」
「まぁ入学式は終わったからいいよ。この後帰って仕事するだけだから」
「あのさ、再び相談がある」
「…なんだよ……まだなんかあんのかよ…」
「舞台俳優の事務所につてある?」
「なんだ急に。舞台俳優なんてお前がよく知ってたな」
「いや、全く知らなかったんだけどちょっと調べてて…」
「舞台俳優の事務所を?」
「うん」
「なんでまた」
俺は状況をかいつまんで話すと、直人は沈黙した。
「お前は俺を殺す気なのか?! なんか恨みでもあるか?!?!」
「そういうつもりはないんだけどね…」
「この死ぬほど忙しいところにー…!」
「とはいえ、りのあの事だし、放っても置けないし、俺はリアル方面では役に立たないし…」
「あぁ、もう! わーったよ! しかしなるほどなぁ。しかしりのあちゃんの両親って舞台俳優だったのか」
「俺もはじめて知った」
「でも、確かにお前の言う通り、いいこと起こる気がしないなそれー」
「そうなんだよ。ただ、そうわかってるなら先手を打ちたくて、せめてなんか情報ないかなと」
「まぁそうなるわなー。ただなー、うちの親父がやってる芸能事務所と、さっき送ってもらったURLのオフィスGってところみたいな舞台俳優専業のところって、もう似て非なるものなんだよなぁ」
「そうなのか」
「もう仕事の仕方も全然違うぞ。多分その俳優さんとかが自分で舞台のチケット売ったりもしてると思うぞ」
「へぇ」
「まぁとはいえ、完全に別ってわけでもないし、もしかしたら親父ならなんかあるかもしれないからちょっと聞いてみるわ」
「頼む」
「あぁRinoチャンネルが加わることで事業計画から作り直しているというのにまた新たな問題がぁぁ!」
「すまん」
「とりあえず親父に聞いたら連絡する!」
「了解」
そしてその日の夜直人から連絡が来た。
『親父に聞いたら、直接は知らないらしいけど、知り合いに聞いてもらったら今のオフィスGの代表の人を知ってるって人がいるって』
『なるほど、仕事の話じゃないんだけど、どっかで話しできる時間とかもらえるかな?』
『どうだろうな、聞いてみないとわからんね』
『聞いてみてもらえる?』
『オッケー。大丈夫ってなったら、いつがいい?』
『直人がいいタイミングで』
『あ、当然のように俺もなのね』
『だって、初対面だし』
『もうそろそろ大丈夫なんじゃねーの?』
『オンラインじゃないと無理だ』
『あーーーーもう…。了解』
直人の親父さんに調整してもらった結果、2日後の夜に直人と直人の親父さんと共にオフィスGの代表の方に会うことになった。
そして2日後、直人の親父さんの会社に行き、親父さんが手が空くのを待ち、親父さんの車でオフィスGの事務所がある神泉に向かった。
しかし、直人まじで忙しそうだった。
車の中では事業計画を話されて、アークとしてこういうことはできるか? と色々話していると、目的地近くの駐車場に着いたので、車を止めて事務所があるらしきところに向かった。
ビルの前で、紹介してくれた人が待っており、簡単に直人の親父さんが挨拶して、中に向かっていった。
うーん…すごい年季の入ったビルだ…。
エレベーターもない5階建ての4階。
そして窓ガラスにオフィスGというシールの張ってあるドアを紹介してくれた人が開けた。
中に入ると、いくつかのオフィスデスクが並んでおり数人の人がパソコンに向かい仕事していた。
すると奥から、
「あーー、三澤さんお久しぶりですー!」
と言って、非常にダンディーなおじさんが歩いてきた。
「お久しぶりですー。昨年のゴルフ以来なんで1年以上ですねー」
「もうそんなになりますか!」
「あ、それで先日お電話でお話しした、こちらが芸能事務所エンゲージの八代さんとその息子さんとそのお友達です」
「あー初めまして! エンゲージさんのような大手事務所の代表の方に、こんなところまで足をお運び頂き申し訳ありません! オフィスG代表の芹沢と申します」
と、名刺を出して頭を下げた。
直人の親父さんって結構すごい人なんだな…。
「あーいえいえ! こちらこそ初めまして、エンゲージの八代です」
と、直人の親父さんが名刺を出して交換した。
「狭いところで申し訳ないんですがこちらどうぞ」
と、手前の打ち合わせスペースみたいなところに誘導された。
「ちょっと椅子持ってきてー」
と芹沢さんが言うと、社員の方? がパイプ椅子を持ってきたので、俺と直人はそのパイプ椅子に座った。
そして全員が座ると、
「こんなところに本当すいません…。言っていただければお伺いしましたのに…」
と芹沢さんが言うと、
「あーいえいえ! 仕事の話ではないうえに、こちらからお願いさせていただいていることですので、そんなお気になさらないでください!」
「あ、は、はい、ありがとうございます。それで何か人を探しているということで聞いていたのですが」
「あ、そうなんです。ただ探しているのは私ではなく息子たちでして、直人説明して」
「あ、はい! 八代直人です。本日はお忙しいところお時間いただきありがとうございます」
「いえいえ、しかししっかりした息子さんですね~」
「あはは(笑) 小さい頃から現場に着いてきてたりしたせいか、本当外面だけは良くて…」
と直人の親父さんが苦笑しながら言った。
「いやいやー、それにむしろ所属できそうなぐらいじゃないですかー」
「いえいえ、自分はもう事務所の人間として生きていくと決めておりますし、そんな恐れ多いです…」
「いやー、すごいしっかりしてる本当ー。それで探しているというのは?」
「えっとですね、菅谷美乃梨さんという方をご存じないですかね?」
「すがやみのりさんーー、んー、ちょっと存じ上げないですねぇ…」
「新、あれ見せて」
「あ、う、うん…」
俺は直人に言われたので、菅谷美乃梨さんの名前が唯一掲載された昔の舞台情報のページをスマホで表示して渡した。
「こ…ここに…」
「こちらに記載がある方で、随分前ですがオフィスGさんの主催とお見受けしまして、ご存じかなと思いまして」
「どれどれ…」
そう言って俺のスマホを拡大したりしながら見た芹沢さんは、
「あーーーー、確かに昔やりましたねーー! ただ私がまだ代表じゃなくて1メンバーだった時なんで………あ、でも! 吉田さーーーん! ちょっと来てー」
と言った。
すると一人のおばさんがデスクを立ちこちらに来た。
「こちらうちの事務員の吉田さん!」
「初めまして吉田ですー」
「吉田さんは、オフィスGでずっと事務員をやってくれてて、なんなら私よりも顔が広いんですよ!」
「まぁ局ですよもうー」
「吉田さんさ、この舞台の、ここにディレクターで記載のある菅谷美乃梨さんって知らない?」
「んー、どれですかー?」
というと、芹沢さんが見ていた俺のスマホを吉田さんに渡した。
「あー、昔ありましたねーこの舞台! 懐かしい! それでー、菅谷さん…」
と、言いながら名前の記載があるところ拡大しているようだ。
「知らない?」
「あーーーーーー!!!!!! この方、からめるスタジオの菅谷さんですね! 確かすっごい美人でしたね! あ、でも、確か昔体調不良を押して仕事して、どっかの現場で倒れてそのまま亡くなられたと…」
「あ…そ、そうなんだ……」
と2人が気まずい感じになった。




