配信者に寄り添う
小平さんが提示した条件。
1.ナナイロから移動してくる社員がいた場合、待遇を維持することを約束してほしい。
2.もし配信者で移動したいという人が出た場合は、その配信者の1年分の収入の維持を約束してあげて欲しい。
3.配信者に寄り添うという文化を壊したくないので、それは絶対にしないと約束してほしい。
4.こちらから現ナナイロ配信者への勧誘は一切行わないことを了承してほしい。
1、3、4はまぁありそうだし、普通な内容だが、2が正直凄い条件だ。
チャンネル登録者数が0になるとわかっているが、1年分の保証とは…。
それこそ100万人クラスが来てしまったら、それだけですごい金額になりそうだ。
それ以外にもアバターやらなんやらの準備もあり、動く配信者が複数人いた場合の話ではあるが、全部合わせたらそれこそ数億、数十億レベルの話になりそうだ。
それを聞いた直人の親父さんは、
「わかりました、全て頂いた条件で大丈夫です。直人もいいよな?」
「いいもなにも、流石にこんな金額感もう俺が決めれる話じゃねーよ。ただ、小平さんの配信者に対するスタンスとかは俺が作りたい事務所の方向性と近いから、来てくれるのであれば非常に心強いよ」
「そういうことですので、大丈夫ですよ小平さん」
「ほ、本当ですか?!」
と小平さんが驚き、そのまま話した。
「し、正直、特に2つ目の条件あたりはかなり無茶なお話かと思うのですが…」
「そうですね、結構無茶ではありますが、逆に小平さんが配信者に寄り添いたいという気持ちは伝わります」
「し、しかし、いいのですか…?」
「そうですね、うちの会社で過去最大規模の投資になりそうですが、直人がやる気になっていてアークさんが来てくれて、小平さんが来てくれるかもしれないこの機会を逃すと、正直参入できる気がしないってのもあります」
「な、なるほど…」
「うちのマネジメントの人間とかがマネージャーやっちゃうともう、あれはダメこれはダメってなっちゃって…」
「確かに芸能人の方ってそうだと伺います」
「なんで今の延長線上で、動画の視聴者の若い方々に受け入れられるのは不可能だと私は思っています。だからこその投資です」
「しかし、業界的にもというか、最悪ナナイロともめることが予想されますが……」
「そうですね、配信者の方が、それこそ2人以上動いたら100%揉めるでしょうね」
「それがわかっていてもですか?」
「そうですね、悪いことなら正直渡りたくない橋ではありますが、我々がやるべきことは配信者の方々とその向こうの視聴者さんに寄り添うということだけです。その結果必要なことはやります」
「なるほど」
「それに、直人も先程行っていましたが、私も所属タレントに出来る限り寄り添うことが大切だと思っていますので」
「そ、そうですか…」
「ただ、ちゃんとやらないと、無用な争いに繋がりそうですからうちの弁護士いれますね。もちろん古い芸能事務所の顧問弁護士達ですから、権利やそう言うのに関しては有名でめっぽう強いですから安心してください」
「は、はい、なるほど…」
「いかがですか?」
そして小平さんは暫く、「うーん…」と悩み、顔をあげて、
「よ、よろしくお願いします。一緒に配信者に寄り添う事務所を作らせてください」
と、親父さんと直人を順に見て言った。
直人の親父さんはそれを聞き、
「それは良かった! よろしくお願いします!」
と、手を差し出し小平さんと握手した。
「あ、私も同じタイミングでお願いします!」
と太田さんが手を差し出したの、直人の親父さんは太田さんとも握手をし、
「もちろんですよ太田さん、こちらこそよろしくお願いします!」
と言った。
すると小平さんが、
「正直どうしようか迷ってたんです。ナナイロは立ち上げ初期のころからマネジメントで携わってきた会社でして…。でも、こうなってしまってはどうしようかと…」
「そうだったんですね」
「他の事務所に行こうにも、その事務所のカラーがありますから、私が目指したい配信者に寄り添って伸び伸びと自由に活動してもらうっていうスタンスがあうかどうかとかも…」
「確かに既存のところだとありえますね」
「なんで、丁度悩んでたんですが、よかったです。こうなったら社長と一緒に私が思い描く、最高の動画配信者のフィールドを作ります!」
と、決意した感じで言った。
そしてその後、直人がどういう事務所にしようと思っていたかをざっくり話して、小平さんと太田さんがそれだと難しいからこういう感じはどうだ? と提案されたりしながら話を進めていった。
暫くすると、太田さんが席を移動してきて、
「ねー、アークさん、ゆきはさんどうしましょうか?」
「そうですね、後で俺から伝えますよ」
「ごめんなさいね…配信者の皆に迷惑かかっちゃうのわかってるけど、やっぱり今の方針には私は到底納得できないから…」
「そうなんですね…。でも、なんか小平さんが作りたい方向性と直人のの方向性が一致してよかったです」
「本当…もうああいうのは勘弁…」
「ちなみにゆきはさんはほぼ確実に動くと思いますよ」
「だよね…でも凄い条件だよね…」
「そうですね、直人の親父さんも結構勝負なんだと思います」
「また頑張らなくちゃ…。でも少なからず視聴者さんに迷惑かけちゃうのは嫌なんだけどなぁー」
「まぁそこは、もしゆきはさんが移動するのならば、真摯に丁寧にゆきはさんに対応してもらうしかないですね」
「そうだね…あぁ、なんかこの半年ぐらいずーっともやもやしてたけど、なんかすっきりした! よーし頑張るぞ!」
と言うと太田さんは両手をこぶしにして、ウンウンと言う感じになっている。
そして、後日弁護士を交えて話すということでその日は22時過ぎに終わった。
早く帰って寝ないと、明日の朝からのシンポジウムに参加できない!
普段夜型な俺なら、寝ずに参加することもあるが、頭の動きが悪い状態は流石に嫌だ。
俺はそう思い、家に帰りすぐ風呂に入って、直ぐに寝た。




