直人の計画
そして俺は家に帰り部屋に戻ると直人に電話した。
「あいよー、俺が事業計画に悩んでいる時になんだー」
「あーうん、ちょっと聞きたいことがあって」
「なんだー?」
「直人が社長の動画配信者の事務所って、別にバーチャルでもいいんでしょ?」
「あー、うん。まぁでも暫くはアーク中心にゲーム実況系かなぁ」
「別にそうじゃなきゃいけないわけじゃないでしょ?」
「んー? そりゃそうだが、お前ゲーム以外何かできるん?」
「無理だよ。あ、そうだ、全然別件だけど、りのあとRinoチャンネルと陰陽幼馴染チャンネルもよろしくってりのあが言ってたよ」
俺がそう言うとしばらく直人は沈黙して、
「なんでそんな重大なことを早く言わないんだお前はぁぁぁぁ!!!!!」
「あ、ごめん。忘れてた」
「お前……てかそれガチ?」
「うん、直人なら変なことにはならないだろうからそれでってりのあが言ってたよ」
「おわぁぁぁ!!!! 嬉しいが! 嬉しいんだが!!! ここまで考えた事業計画が一気に0に戻ったぁ!!!!!」
「あぁ、会社だもんね」
「次からこういうことはもっと早く言え!」
「ぜ、善処するよ…」
「んで、電話の件はこのこと?」
「いや本題は全然違うことで、ここだけの話にして欲しいんだけど、ナナイロの社内が今ゴタゴタしてる」
「そうなん?」
「うん、詳しいことは言えないけど、マネジメントの人引き抜けるかも」
「まじ?」
「うん、可能性はある」
「ってかなんでそんなこと知ってんの?」
「色々雪菜さんの相談にのる過程で…」
「まぁいいや、それで俺にどうしてほしいと?」
「正直引き抜けるかどうかは、話してみてもらわないとわからないけど、もし引き抜けたら、社員さんとナナイロのバーチャル配信者が移動する可能性がある」
そういうと直人は再び沈黙して、
「……まじ??」
「少なくとも雪菜さんは動くと思う」
「それ大丈夫なん?」
「わからない。日向ゆきはでは無理だろうから、再び転生的なことをすることになるだろうけど。告知もできないだろうけど…」
「そこまでなん?」
「うん」
「まじか」
「それで、正直、法的な問題とか業界的な問題とか色々あるだろうから、もうこれは直人にその気があるなら動いてもらうしかないかと思って」
「確かにな。ちょっと大事すぎて、俺等だけじゃ流石に危険しかない。しかもどんだけ金かかるんだそれ」
「わからないけど、もし直人の会社でバーチャル配信者をマネジメントするとなると、ナナイロと同レベルを視聴者さんに求められると思う」
「うわー。もうわかんねーわそれ。てか、それ次第でまた変わるじゃん……! 俺がちゃんと計画立てて進めようとしてんのに、なんでこんなにポンポン物事が知らないところで進んでいくんだぁぁ!!!」
「人徳だね」
「お前は俺を殺したいのか…? まぁただ、やるべきことはとりあえずわかった。親父に相談してみる」
「うん、わかったら教えて」
「りょうかーい!」
そう言うと電話が切れた。
そして暫くすると、直人から再び電話がかかってきた。
「めちゃくちゃ興味あるって」
「そっか」
「んで、詳しい状況聞きたいから一回直接話が聞きたいって」
「俺はいつでも大丈夫だけど、既に雪菜さんは困ってきてるから早めが嬉しい」
「あーんじゃ、このまま電話で話しちまうか、ちと待ってて」
そして暫くすると、電話が生活音を拾うようになりスピーカーのような感じになった。
「あー、親父、とりあえず早めがいいって新が言うから、もう電話で」
「湯月くんこんばんわー」
「こ、こんばんは」
「直人から聞いてるよ! アークさん所属してくれるみたいでありがとう!」
「あ、いえ…直人には中学から色々とお世話になりましたから…」
「こいつもたまにはいいことするもんだなー! それで直人から軽く聞いたんだけど、ナナイロさん本当なの?」
「はい、本当です。もし直人に興味あるようであればと思ったんですが、流石に事が大きいので親父さんにもご相談しようと」
「いや、興味はそりゃあるというか興味しかないけど、どういう人を引き抜ける可能性があるの?」
「えっとですね、マネジメント部門の責任者だった人が3月末で異動したそうです」
「それは……」
「あと、その人に紐づいていたというか、その人の考え方を支持していた方々もあるかもしれません。後はその人たちにマネジメントされていた動画配信者もあるかもしれません」
俺がそう言うと、先ほどの直人と同様に親父さんは沈黙して、
「えっと、予想より大分社内が揉めてるみたいだね…」
「そうみたいです…詳細は僕もわかりませんが、どうしようもないとお話しされてました」
「なるほど…ちなみに、どういう揉め方してるの?」
「すごい簡単に言えば、お金の稼ぎ方の違いでしょうか。一方は配信者のストレスをなくし登録者を増やし広告売上を増やす。もう一方は案件等を積極的に実施して売上を増やす。こんな感じです」
「あーー。なるほど、ありそうな話だね。それでその異動になる方はどっち側だったの?」
「一番上の責任者だった方なのでどっち側と言うことはないのかもしれませんが、スタンス的には前者でしょうか」
「なるほどねー。ちょっと上手くやらないといけないけど、一回紹介してもらえるかな?」
「わかりました、それでは先方に話してみます。ちなみにご都合的に難しいタイミングはありますか?」
「あるにはあるけど、最優先事項として調整するから、基本先方に合わせるで大丈夫だよ」
「わかりました、ありがとうございます」
「んじゃそういうわけだからー! あ、一応俺も話聞くときは行くぜー」
「あ、うん、了解」
そう言うと電話が切れた。
そして俺はそのまま太田さんに電話をした。
「太田でーす! アークさんさっきぶりだね!」
「先ほどはありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。雪菜さんにはできる限り迷惑が掛からないように、私達も頑張るから!」
「あ、はい、それでちょっとご相談なのですが、今社内ですか?」
「今日はもう家だよー!」
「あのですね、芸能事務所のエンゲージってご存じですか?」
「あー、あの夏川りささんとかが所属してるところでしょ?」
「あ、はい、そうです。実はそこの社長の息子が僕の親友でして」
「へぇーすごい人脈だねそれはー」
「それで実は、そいつが今度動画配信者の事務所の社長になれと親父さんに言われて、子会社で事務所を立ち上げるみたいなんです。俺もそこに所属することになるんですが、エンゲージは動画文化のマネジメントに長けた人がいないみたいなので」
「ので?」
「小平さんを引き抜いて、バーチャルもマネジメントしないか打診しました」
「な、なんと…そ、それで?」
「非常に興味があると」
「ま、まじか…でもそれ大丈夫なの?」
「そこは逆にプロである親父さんの社長さんとかの方がわかってるかと思いますので…」
「な、なるほど…」
「すいません、全てではないですが勝手に内情を話してしまって」
「あ、いやいや、業界内でもあそこの会社はどうだとかそう言う話は出回ってるから、もはやうちの今回の話も遅かれ早かれだとは思うからそれはいいけど…」
「それでもしよければ小平さんと一度話したいと言われておりまして、ご紹介いただけないでしょうか?」
「そ、それは、全然いいけど……その話、私も一緒に聞いてもいい?」
「それはもちろん大丈夫だと思いますよ」
「わ、わかった。一回小平さんに連絡してみるから、そしたら連絡するね」
「よろしくお願いします」
そしてその日の夜のうちに、太田さんから『一度話を聞きたいと小平からもらいました』とメッセージが届いたので、直人に連絡し日程を調整した。




