グループ2
そして次の日の午前中、俺は太田さんに電話した。
「太田でーす! アークさんどうされましたか?」
「あ、お久しぶりです。今少し大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよー!」
「えっとですね、所属の件で少しお話がしたく…」
「おっ! えっ! んー…そうですか…」
と、なんだか予想していた反応より、勢いがない。
「それで一度近々で、どこかでお会いできませんか?」
「え、あ、えー、うん、それは大丈夫ですよ」
「ご都合のよろしいタイミングはいつになりますかね?」
「えーっと、近々だと今日の17時以降か、明日の13時~15時の間ですねー」
「えーっとでは、今日の18時でもよろしいですか?」
「大丈夫ですよー!」
「場所はー、ナナイロの事務所はあれなんで、近くのカフェとかでもいいですか?」
「いいですよー!」
「では今日の18時によろしくお願いします!」
「はーい、アークさんよろしく!」
そう言うと電話が切れた。
雪菜さんの予定はあらかじめ聞いていたので、大丈夫なはずだ。
『太田さんに電話しまして、今日の18時にナナイロ近くのカフェでということになりました』
『了解です!』
『場所は俺の方で探すんで、最寄り駅で待ち合わせしましょう!』
『はい、わかりました!』
そう雪菜さんに連絡した後、俺は家を出るまでプログラミングをやる。
今日の配信はお休みでいいだろう。
スケジューラーが起動したので、俺は私服に着替えて部屋を出ると、リビングから莉乃愛が出てきた。
「おー、あっくんどっか行くの?」
「あ、うん、ちょっと」
「なになにー?」
「え、いや、ちょっと事務所の人と話そうかと」
「直人??」
「あ、いや、雪菜さんがちょっと困ってるみたいで…」
「へぇ…。雪菜も色々大変だねぇ」
「それを言うならりのあもだけど、本当美人って何やっててもなんか起こるんだね」
俺はため息をつきながらそう言うと、莉乃愛はパッと下を向いて、
「ま、まぁ、頑張ってきてね!」
「あ、うん」
そういうと、莉乃愛は部屋に足早に戻っていった。
俺はそのまま、母さんに外出する旨伝えて、駅に向かい、ナナイロ事務所の最寄り駅に向かった。
そろそろ帰宅時間で、大勢の大人の人が行きかう駅の改札を出ると、文化祭で莉乃愛が雪菜さんになった時に着ていた、サロペットワンピースを着た雪菜さんが立ってた。
ここが繁華街の駅だったらナンパすごそうだな…。
「お、お待たせしました」
「あ、いえ! 私も今着いたところだったから!」
「そ、そうですか…」
「それじゃ行こ!」
と、雪菜さんが駅の出口に向かい、俺はその後ろをついていった。
「しかし、雪菜さんどこにいても注目されますね…」
「なんかもう慣れちゃったんだけど、そんなにかな? りのあちゃんとかもっとなんかこうオーラある感じじゃない?」
「ま、まぁりのあはなんというか、不明にドヤーってオーラがありますね…」
「あはは(笑) 確かに」
「あ、カフェは太田さんに連絡しておきました」
「あ、ありがとうございます! 私達も行こう!」
「うん、こっちかな…」
そう言って俺と雪菜さんは、太田さんと待ち合わせしたカフェに向かった。
ちょっと早めに着くように行ったので、先にカフェに入り、中で待ってますと太田さんに連絡した。
そして待ち合わせの18時を少し過ぎた頃に太田さんがカフェに入ってきて俺を見つけこっちに向かってきた。
そして近くまで来ると、
「え、ゆ、ゆきはさん?!」
と、驚いた感じで声を出した。
「あ、はい」
「あ! ご、ごめん! 雪菜さん!」
「あ、はい、すいません、驚かせてしまって」
「あ、い、いえ、だ、大丈夫ですけど、アークさんこれは? あ、うーん、湯月くんか」
「所属の件でとお伝えさせていただきましたので」
と俺が言うと、
「なるほどーーー。湯月くんが所属する件ではなく、所属している人の件についてかーー! やられたーー!」
「なんか騙すような形になってしまって申し訳ございません」
「あーいえいえ、大丈夫ですよ。まー何の件かもわかったので、こういう形じゃないと私だけと話すってのも難しいもんね」
と、雪菜さんを見ながら太田さんが言った。
「は、はい…」
「とりあえず私はアイスコーヒーでいいや。二人は?」
「あ、もう頼みました」
「了解!」
と言うと、太田さんは店員さんを呼びアイスコーヒーを注文した。
「それで話と言うのは、例の記念ボイスについてかな?」
「それもあるんですが、それだけじゃなくて…」
「太田さん、単刀直入にお伺いしますが、社内で何か起こってますよね?」
と俺が言うと、ギクッと言う感じでばつが悪そうな顔をして、苦笑いしながら言った。
「流石に内情知ってるからわかっちゃうかー」
と諦めた感じで話してくれた。
「正直何かが何かは全くわかってないですが、雪菜さんに何かをやってもらうなら押しても意味のないことは、太田さんならわかってると思いましたので」
「わ、私も、記念ボイスは、やらなきゃいけないなぁとは前々から思っていたんですが…」
「そうだよねぇ…他の在籍歴が長い配信者も、なんか変だなーってはなってるみたいではあるんだけどー、流石に社内事情まで知る配信者はいないから、そこまで言及されなかったんだけどー」
「あ、他の人もなんですね…」
「グループ2の人かと思ったんですが、雪菜さんにメールの署名見てもらった感じそうではなかったんですが、何かはあるだろうと思いまして」
「んー流石湯月くんだね…。これからお話しすることは内緒にしてくださいね」
と太田さんは何が起こっているのかを話してくれた。
年末年始の荒らし事件の後、明言はされないもののグループ2の人が3人辞職し、更にはそれを機に荒らしもなくなったことから、グループ2に残っている人たちへの社内からの風当たりは相当厳しくなったそうだ。
グループ2をまとめている人は荒らしのことは全く知らなかったようで特に処分等はないが、やはり社内の風当たりの厳しさから対策をとらざるを得なくなった。
そこでグループ2をまとめていた人は、外部のコンサルみたいな人を連れてきてナナイロの社長に紹介した。
そしてナナイロの社長さんがそのコンサルの人をいたく気に入ったようで、マネジメント部門全体の外部コンサルとして契約してしまったとのこと。
それから、社内の様々な会議にその人は出席し、グループ2の方向性へ意思統一を図ろうとしてきたらしい。
もちろん太田さんや現グループ1に在籍している方々は反対したが、それを会議で伝えても小平さんに伝えても、先に社長に根回しがされてしまっており、小平さんではどうにもできないと。
そしてついに、ナナイロは上場企業じゃないので、社長の決定でスピーディーに決まってしまうため、3月末で小平さんが別の部署に異動すると2月中旬には発表されたらしい。
そして第2グループをまとめていた人が、新しく4月からマネジメント部門の責任者になると。
それから、新しく責任者になる人とコンサルの人の元、社内から人材が集められて、グループ2の方針が浸透するようにと、グループ1の配信者達のマネジメントにその人たちが追加された。
それからは雪菜さんに聞いていた感じで、その新しく来た人たちが主導するようになった。
太田さん達も最初は抵抗していたそうだが、ことあるごとに、そのグループ2の責任者の人やコンサルの人が出てきて、更には社長まで抑えられてしまっているので、最近は諦めムードになっているとのことだ。




