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当面の目標

とりあえずまずは現状取り組んでいる動画の圧縮プログラムの完成を目標にしよう。


少しずつ理解できるようになってきて、プログラミングに割く時間が増えてきているが、なんかこう凄く遠回りしている気がする。


世の研究者やプログラマー達が切磋琢磨しているこういう世界に置いて、たった一人だけで解決に導くのは時間がかかる。


しかしプログラミングは日進月歩の世界で、一度開発されればそれは既存の技術となってしまい、更に進んだものが開発される。


一度精魂込めて完成させたものが、ずっと守られるなんてことはない。


もちろん、スキームや革新的なアイディアによって特許とるという手段もあるが、もうそんなもの大きな企業が全部抑えているのであろう。




最近は公開されている論文なんかも読んでいるが、断片情報や部分情報が多く、網羅できないので、結局自分で考える範囲が非常に多くなってしまう。



俺はそう思いネットで調べて、つい先日見つけたのだ。




『情報処理学会 – 春季シンポジウム – @オンライン』




なんと今回のシンポジウムに帝工大の斎藤教授が、『圧縮加工ファイルにおける解像処理』というタイトルで特別講演するらしい。


どうも概要を読んでみると、圧縮して落ちた画質の解像度を上げて読み込むような感じの方法だ。


アプローチの方向は違うけど、向かっている先は同じ気がする。


これは何としても聞かなくてはならない。




しかも学術学会なので、誰でも参加していいのだ。




今週の週末、4月最初の土日にシンポジウムは開かれる。


一番聞きたいのは斎藤教授の基調講演だが、他にも色々興味のある発表もあった。


もうこの週末はシンポジウムに浸かってしまってもいいかもしれない…。





そんなことを思いながら、俺はエディタを立ち上げると、スマホが鳴った。




『新、頼む助けてくれ』

『なに。今忙しいんだけど』

『どうせプログラムだろ?』

『そうだけど…』

『ちと通話いいか?』

『いいけど…』




すると直人から通話がかかってきたので、机に置いたまま応答する。


最近部屋で電話を受けるときは、スマホを持つのが面倒くさくて大体スピーカーで受けてる。




「どうしたの」

「新、大変だ。助けてくれ」

「なに」

「俺、動画配信者の事務所の社長になることになっちまった」

「へぇおめでとう」

「全然おめでたくねぇ!」

「そうなの?」

「だって社内で出来るやつがいないからって、親父が無理やり決めちまったんだぞ?」

「そっか。頑張ってね。じゃあ切るね」

「待て待て待てー!!!!!!」

「なにさ。会社なんて俺に手伝えることないよ」

「ある! 頼む! 事務所立ち上げたら、アーク所属してくれ! 有名な人がいないと他の人が集められない!」

「あぁ…。なるほど」

「な、頼む!」

「不定期配信でもいい?」

「いいぞ」

「プログラムが基本優先だからね?」

「わかった」

「それならいいよ。直人には色々お世話になってきたし、アークで貢献できることがあるのなら」

「おおおおおおお! 持つべきものは親友!!!」

「そう…」

「んじゃ詳細決まったらまた連絡するから!」

「わかった」




そう言うと通話が切れた。


直人、動画配信者の事務所の社長になるんだー。


大学の入学式もまだだと言うのに、随分と忙しそうだなそれは。



大学通えるのかな…。


まぁ直人だしうまいことやるんでしょう。




ん。待てよ。


アークが事務所に所属すると、幼馴染チャンネルはどうなるんだ?


流石に莉乃愛達と事務所の人がやり取りするなんて不可能じゃないか?


ようやく動画の撮影と編集と投稿のサイクルが出来てきたばっかりなのに。





俺はエディタを閉じて、莉乃愛の部屋に向かった。


部屋をノックすると、返事が聞こえたので部屋に入ると、莉乃愛はテーブルの上にノートパソコンを載せて、前髪をぴよんと一つに結んで、何やらマウスで動かしてる。




「編集中だった?」




俺がそう聞くと、莉乃愛は息を吐いて、




「ぷはぁ! そうだよー! 慣れてきたけど大変だよねこれ!」


「いや、息はできると思うんだけど…」


「えーなんかこのバーのさ、いいところでサムネイル切りたいじゃん? なんかこう微妙に動かすのに息するとさ?」


「あぁ、それ…ちょっと貸してみて」




俺はそう言って莉乃愛の横からマウスをもって、シーケンスバーを拡大した。




「これでコンマ1秒レベルをこの尺度で動かせるよ」




俺がそう言いながら莉乃愛を見ると、唖然とした莉乃愛はしばらく沈黙し、




「なぁーーーぜーーーだぁーーーー!!!!!!!!!!! あっくんなぜもっと早く教えてくれなった!!!!」


「え、あ、いや、気付いてるもんだと…」


「華蓮と二人で、息止めるのが大変ってこの前話してたのにーー!!!!!」


「華蓮さんもなんだね…」


「あっくんーーーーーー!!!!!」




莉乃愛はそう言いながら、俺の肩をガクガク前後にする。




「う、ご、ごめんね? なんか困ったことあったらいつでも聞いてね」


「あ! そしたらさ! 前幼馴染チャンネルの動画編集してもらったじゃん? ゴーカートのやつ」


「あ、うん」


「あれってなんであんなテンポいい感じなの? なんか同じような中々できない」


「あぁ、あれはリアクションや莉乃愛や華蓮さんの動きがあるときは画面を割ってて、それ以外は音声だけでゲームって構成にしたからかな。動きのない実写って、見てると必要以上に遅く感じるから」


「なぁるほど!!!」




そう言うと莉乃愛はスマホに何かメモしだした。


莉乃愛も華蓮さんも一生懸命やるから、こうやってメモとるんだよな…。


本当俺とは大違い。


先生に好かれそうだ。


あ、でも勉強は嫌いなのか…。




「あ、りのあ、それでね、俺から一つ相談があるんだけど?」


「なんでございましょー」


「俺ってかアークがなんだけど事務所に所属することになったんだよ」




そう言うと、莉乃愛は俺を驚いたように急に見た。




「ま、まさかナナイロ?!」


「いやいや、俺にバーチャルなんて無理だから」


「そ、そっか」




莉乃愛はそういうとどこかホッとしたような表情をした。




「えっとね、直人が親父さんに命令されて、今度動画配信者の事務所を立ち上げるらしいから、登録者数多い人が欲しいってことで」


「あぁ、直人か、いいんじゃない!」




莉乃愛、直人の扱い雑だなぁ(笑)




「これから立ち上げるみたいだから、直ぐってわけじゃないみたいなんだけど、所属することになったら幼馴染チャンネルどうしようかと思って」


「続ければいいんじゃないの?」


「そうすると、りのあか華蓮さんが事務所の人とやり取りすることとかが出ちゃうかもしれないんだよね」


「えーー! なんか難しそうだからヤダ!」




と莉乃愛は口をとがらせて言う。




「そう言われても…」




すると莉乃愛は今度は閃いたように、大きく口を開けた。




「あ、そしたらわたしもそこで! これで解決! あ、華蓮もだよ!」


「え、そんな簡単に決めていいの? モデルもあるでしょ?」


「いいんじゃない? 直人の所がどこか知らないけど、あっくんもいて変なことにはならないでしょ!」




と、莉乃愛はドーンっと胸を張って言った。




「えぇ…」


「んじゃそういうことで! 直人に言っといて! RinoとRinoチャンネルと陰陽幼馴染チャンネルと華蓮もよろしくって!」


「まじ?」


「うん! あああああああああああああああ!」




俺が莉乃愛の決断力に驚いていると、今度は莉乃愛が大きな声をあげた。




「わたしも相談あるんだった!!!! この前お父さんから連絡来たんだった!」


「え? お父さん?」


「そう!」


「なんて?」


「『話があるから家に帰ってこい』だって」




そう言いながらLimeの画面を見せてきた。




「なるほど」


「とりあえず前にチャットで戦うなって言われたから、無視してたら、動画忙しくて忘れてた!」


「そ、そうだったんだ…。本当だね2週間も前だ…」


「どうしたらいい??」


「え、ちょっと待って。考えるからそれまで返事はしないで」


「了解! よろしくねあっくん!」


「あ、うん」




俺はそう言うと莉乃愛の部屋から出て部屋に戻り考えた。




莉乃愛の父親からの連絡なんて、いいこと起こる気がしないんだよなぁ。


だって、これまで何の連絡もなかったのに、今更話なんかあるわけないじゃん…。


どう対処するといいだろう…。




そう思いつつパソコンを見ると、ゆきはさんからディスボにメッセージが届いていた。




『湯月くん、今日ディスボで話せるタイミングありますか?』

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