【中里雪菜視点】少し羨ましい
「それじゃあ皆さん見てくれてありがとうございました! 今日の配信はここまででーす、とうっ」
エンディングに切り替えて、エンディングの終了後動画配信を終わった。
私はイヤホンを外して、椅子に座ったままむーんと考え出した。
どうしようかなー。
別にポイントが下がるのはそこまで困るわけじゃないんだけど、視聴者さん達が過剰に反応しちゃうからなぁ…。
ここ最近、OPEXのランク配信をしていると、ゴースティングしてくるチームがある。
あまり私自身の生活リズムは変えたくないし、ゴースティングされてるからと言ってOPEXの配信を辞めたらそれこそあの人たちの思うつぼだろう。
目的は不明だけど、まぁ死体撃ちとかもしてるし、完全な愉快犯な気がするなぁ…。
どうしようかなぁ…。
運営にも通報しているが、視聴者さんの話を聞く限り、対策はされないだろうとのこと。
そうすると後は、どっちかが諦めるのを待つのみだ…。
そんなことを考えているとスマホが鳴った。
「あ、はい!」
「ゆきはさん今大丈夫ー?」
「はい、大丈夫ですよ!」
「ゴースティングどうしようか?」
「そうなんですよねぇ…」
「ゲームの中の話は私達も何もできないからさぁ」
「単純な愉快犯だと思うんで、一時的だとは思うんですけどぉ」
「それだといいけどね」
「はい」
「とりあえず、なんかったら相談してね?」
「はい、ありがとうございます!」
「あ、後、配信が荒れた詫びグッズだけど、ゆきはさんはJK衣装の時につけてる猫のピンバッジでいいんだよねー?」
「はい!」
「了解! じゃあ、また連絡するね!」
そう太田さんは言うと通話が切れた。
ゴースティングに困ってはいるけれど、どうすることもできないし…。
私はそう思い、まだ起動したままのパソコンで日向ゆきはのSNSを見て、そのまま他の配信者さんのSNSやチャンネルを覗いた。
そしてRinoチャンネルも見る。
2週間ほど前かな? なんとりのあちゃんが動画配信を始めたのだ。
メイクや洋服や食生活のこと以外にも、クラスでの様子なんかも投稿されていて、2週間ぐらいでなんと登録者が3万人を超えている。
りのあちゃんすごい!
RinoでSNSを持っていたことがよかったのかもしれないけど、ちゃんと毎日動画もあげているし、回を追うごとに編集がうまくなってる。
そして時々出てくる華蓮ちゃんも可愛い。
メイクや洋服のことは普通になるほどなぁと思うことがあるし、日常のクラスメイトとの動画も見ていて面白い。
それにりのあちゃんの性格的に、言いにくいこともズバッと言っちゃうし、すごく前向きで性別なんて関係ない感じが出ていて、女の私から見てもすごく好感が持てる。
りのあちゃんって、人の良いところ見つけるのがうまいんだよなぁ。
私の意志の弱い感じだって、りのあちゃんに言わせれば人の意見を聞ける人だもんなー。
本当明るくてポジティブだ。
しかしあの、韓国アイドル踊れる説は面白かったなぁ
だって、皆「え?」って顔のまま、わけもわからず踊るんだもん。
そんなことある?(笑)
あのクラスの人たちならありそう(笑)
と笑ってしまった。
そしてつい先日公開された、この動画とこのチャンネル。
なんとアークさんの実写とRinoの二人で幼馴染チャンネルということらしい。
陰キャなアークさんと陽キャなりのあちゃんだから、陰陽幼馴染チャンネルだそうだ。
なんかりのあちゃんが勉強してアークさんが教えるという企画を相談しているようだが、もうその打合せがいつものアークさんとりのあちゃんのやり取りを見ているみたいで面白かった。
アークさんはものすごく頭がいいうえに回転が速い。
しかしりのあちゃんは考えるよりも行動タイプだから、アークさんの常識を超えていく。
本当いつもの二人だ。
これからも不定期で動画をあげていくらしい。
りのあちゃんすごいなぁ。
このまま、あっという間に有名動画配信者になっちゃいそう!
私も顔出しが出来ればアークさんと一緒に動画出れるのかな…。
いや、アークさんとはいっぱい一緒に動画出てるんだけどさ…。
りのあちゃん…少し羨ましいな…。
で、でも!
私もアークさんと一緒にいっぱいゲームやれてるし、あれもこれもはよくない!
今はそれよりもゴースティングだ!
するとスマホにメッセージが届いた。
『ゴースティング大丈夫ですか?』
湯月くんからだ。
Rinoチャンネルにどこまで関わっているのかわからないけど、きっと忙しいだろうに、私のことも見ててくれたんだ…。
そう思って、ちょっと嬉しくなってしまう自分に、ダメだダメだと言い聞かせて、
『私は大丈夫なんですが、視聴者さんが過剰反応しちゃうんですよね…』
『でしょうねぇ…』
『愉快犯な気がするんで、時間の問題かなとは思うんですが』
『そうですねぇ、もしあれだったら対策しましょうか?』
『そんなことできるんですか?』
『少し通話しても大丈夫ですか?』
『大丈夫です!』
するとスマホに着信が来た。
「あ、おつかれさまです雪菜さん」
「おつかれさまです! 見ましたよ幼馴染チャンネル!」
「あはは…お恥ずかしい限りです…」
「面白かったですよ! 特に大喜利じゃないってところ(笑)」
「勝手に大喜利始めるんですもん…」
「あはは(笑)」
「あ、それでゴースティングなんですが、確実じゃないですが一つ方法ありますよ?」
「え? 本当ですか?」
「はい。ゆきはさんのアーカイブ見た感じ、愉快犯だと俺も思ってるんで、ああいうのは矛先変えればすぐ落ち着きますよ」
「矛先を変える?」
「どこかで俺と一緒にOPEX配信しませんか? そこでゴースティングのこと相談してもらったら、俺淡々とあいつらのこと煽りますよ」
「え?」
「そうすると、きっと顔真っ赤にして俺に矛先変えてくると思うんですよね」
「で、でもそれだとアークさんが…」
「あ、いいんです! プレー見る感じ、ギリミスリルぐらいかなーって感じなんで負けないと思いますし、あと最近俺プログラム結構やってて、配信不定期にしようかと悩んでたところだったんで」
「そうだったんだ…」
「やっぱりプログラムは楽しいんですよねー」
「ふふふ、なんか没頭して徹夜するのをどうにかしないとって、りのあちゃんに前相談されました(笑)」
「わざとじゃないんですけどね…。まぁそういうことなんでどうですか? 俺は全然いいですよ?」
「えっと…どうしよ。アークさんに迷惑かけるのも嫌だなぁって…」
「俺は雪菜さんが楽しくできていないのが嫌ですよ?」
「っ……そ、そっか…ありがとう。じゃあ、お願いしてもいい…?」
「はい! では実行できそうな日わかったら教えてください!」
「了解です!」
そういうと通話は切れた。
そして私はベッドにダイブして枕に顔をうずめた。
もーーーー!!!!!
あの天然たらしはまた無自覚にあんなことを!!!
嬉しいけど!
もー!
私はそう思いつつ、仰向けになって首に下げたネックレスをつまみ上げた。
今の私になれたことも、湯月くんやりのあちゃんや華蓮ちゃんと仲良くなれたことも、全部日向ゆきはのお陰だ!
折角アークさんが助けてくれるって言ってるし、本当にいつもいつも助けてもらって申し訳ないけどお言葉に甘えちゃおう…!
私はそう思い、『今度ゴースティング対策でアークさんと配信することになりました』と太田さんに連絡した。




