陰と陽

「一応いろいろ買ってきたけど、どれにするー？」

莉乃愛はそう言いながら問題集を出した。

そして俺は沈黙した…。

「こ、これ高校3年生用だよ？」

「そうだよ？　わたし高校3年生だもん」

莉乃愛はどやっとして言った。

「いやいや、これやってないでしょ？」

俺はその中の一つの数学の問題集を手に取った。

センター試験用の数ⅡBの問題集である。

「え？　なんで？　わたし高校3年なのに？」

「高校3年とはいっても、学校や学科によってやる範囲は違うんだよ…」

「えー！！　華蓮知ってた？」

「知らん！」

「だってこれ意味わかんないでしょ？」

俺は問題集をパラパラめくって微分の例題を見せる。

「なにこのlim」

「そうだよね…」

「わかった！　ライム！」

「いや、もちろん違うよ…」

「リメンバー！」

「どういうことそれ…。これ数学だからね…。しかもRememberはRだからね…」

「ロリイズム！」

「そんな卑猥っぽい言葉が教科書にのるわけないじゃん…」

「あー！！　わかったーー！！！　リングだ！」

「もうmでもないね…」

「えーー！！　らー、りー…」

「いや、大喜利やる為の物じゃないからねこれ…」

俺は呆れながらそう言うと、華蓮さんが大爆笑した。

「いやーー、めっちゃうける！　むしろ勉強のうんちくじゃなくてこういう方がいいんじゃない？　陰キャと陽キャな感じめっちゃ出てるよ？」

「いや、これはやろうと思ってできないよ…」

「ふふふ、こんなこともあるかと思いまして！　カメラ付きっぱ！」

華蓮さんはドヤーっと言った…。

まじかぁ…。

「華蓮ナイスすぎじゃん！」

「でしょ！　これ絶対面白いよ！」

「もうこの路線でもいいから、早く何かやろうよ…」

「えーでもさ、これ全部高校3年のやつ買ってきたから全部わからなくない？」

「だと思うよ…」

「勉強って難しい！　なんで学校の科目にアンスタとかないのかなー？」

「何勉強するのそれ…」

「アンスタの使い方！　だってみんな使ってるよ？　むしろちゃんと使い方教えた方がよくない？？？　ネット社会なんだし、アンスタの誹謗中傷で自殺しちゃう人もいるぐらいなんだから」

さっきの華蓮さんの様にドヤーッという莉乃愛。

考えたこともなかったけど、確かにその側面はある。

なんか急に本質ついてくるんだよな…。

学校の授業がそうなることはないけど、確かに皆感覚的に使い方を学ぶインターネットだが、起こりうる問題をしっかり最初から認識していれば、起こらなかった事件もあったのかもしれない。

「まぁ、確かにネットはね、学ぶ場所がないからね…。でも、学校の勉強も大事だよ」

「でもこのリングマーク使わなくない？」

「リングマークじゃないけどね…。リミットだよ」

「あぁーー！　リミットなんて出てこない！」

「極限って言われるもので、ある数値に限りなく近く収束していく場合に、まぁその数値と見なすっていう考え方だね」

「はい？」

「惑星軌道計算とかこの数式ないとできないんだよ？」

「へ？」

「あ、えっと…ほら天気予報とかで衛星写真です！　みたいに言うやつの、衛星が地球に落ちてこないようにするの！」

「あー！」

「ちょっと違うんだけどね…」

「でもさ、それ使わなくない？」

「まぁ日常生活では…」

「それいるの？」

「そうだなぁ。俺自身使わない人はいらないんじゃないかと思ってる派だから何とも言えないけど、すごく頭のいい人達が将来凄い発明をするためのステップにはなるよ」

「んー難しい！　でもどうする動画？」

莉乃愛はそう聞くと華蓮さんが、

「幼馴染チャンネルはこれとか繋ぎ合わせて動画にするとして、Rinoチャンネルの方にアークのテスト勉強会あげたら？」

「あぁ、あのマジックね！」

「そう！　あれ普通にみんな知りたいんじゃない？」

「それいいね！」

「幼馴染チャンネルこれでいいんだ…」

「この話し合いを経て、アークのテストの解き方すごいから！　ってやつでいいじゃん！」

「そっか…」

そしてその後、追加でRinoチャンネル用のテストの解き方を教える動画を撮った。

全部やると長くなるので、とりあえず今回は国語だけだ。

国語って公式がないから、一番インパクトあると思うんだよなぁ…。

そして夕方には撮影を終えて、華蓮さんはうちで一緒にご飯を食べて帰った。

そして夜、配信でもしようかと思いパソコンを立ち上げると、ちょうどゆきはさんも配信をしていた。

お、今日はOPEXのランク配信か。

少し見ようかなと思い動画を開くと、この前とは違う感じでコメント欄が大荒れしている。

そしてコメントを読んで何が起こっているのかわかった。

あぁ…ゆきはさんゴースティングされてるんだ…。

ゴースティングは、動画配信者の配信画面を見て全く同じタイミングでランクマッチに入ることで、配信者と同じマッチに入り、そして配信者の画面を見ながら追いかけまわす行為だ。

まぁ場所も武器も物資も全部バレてるので、相手が少しでもうまければすぐ倒されちゃうんだよなぁ。

ゆきはさんはそれほど気にしていないようだが、視聴者さんはそうではない感じだ。

「どうしようかなー。これってどうしたらいいのかな？」

『とりあえず通報』

『どうせ運営は何もしない』

『サーバー変えよう』

「サーバー変えようかー」

『サーバー変えるとき画面見え無くしていいよ』

「なるほどねぇ。しかしこの人達何がやりたいんだろ？」

『ゆきはちゃん有名だから』

『売名』

『憂さ晴らし』

「でもさ、このランク帯の割にうまくない？」

『たぶん、サブ垢』

『わざわざゆきはちゃんゴースティングするために作ったすらある』

「むむむー。サブ垢だったら売名にはならないし、なんなんだろうなぁー。とりあえずサーバー変えるね！　ちょっと待っててね！」

ゴースティングかぁ。

goodさんがゴースティングされてる動画は見たことあるけど、わざわざプラチナ帯のゆきはさんにやるってのは悪質だなぁ。

かといって運営は何もしないんだろうけど…。

ゆきはさん、配信遅延はしたくないだろうしなぁ。

サーバー変更しても、また次ぐらいには追いかけてくるだろうし、さっさと諦めてくれるのを待つしかないが…。

こりゃ大変そうだ…。

俺はそんなことを思いながらOPEXのソロ配信を開始した。