実写アーク
『来週開催されるダマスカスさん主催のOPEX大会に解説としてお邪魔します。アークとして初めての実写となりますので、もしよろしければご覧ください』
俺はアークのSNSに投稿した。
まさかの莉乃愛の動画配信からの、一緒に配信しようという流れで、もはやこれが意味があるのかわからなくなってしまったが、goodさん達にお約束してしまっているししょうがない…。
投稿からしばらくすると投稿した内容にはいくつものコメントが書かれていた。
『mjk』
『ちょっと興味ある』
『隠してたわけではないんか』
『今後は実写配信?』
goodさんから先ほど来たメッセージでは、ダマスカス運営のSNSの方には、アークは覆面なのかとかバーチャル体なのか等の問い合わせを頂いているようだ。
まぁとりあえず、皆さんに興味は持ってもらえてるようで良かった。
そうしてジワジワとSNSで盛り上がってきたダマスカス主催、一般参加を集めたOPEX大会の日となった。
大会は19時からなので、俺はそれまでプログラムを勉強することにした。
この前のナナイロの時に思ったが、目的があった方が圧倒的に進捗する。
その経験を踏まえて、何か自分のモチベーションの乗る目的はないかと考えていきついたのが動画の圧縮だ。
俺がプレイするOPEXは、結構綺麗にマップが作られていて、銃の細かいところまで作りこまれてる。
これまでに様々カスタムしてきた俺のメインPCだと、迫力もあり綺麗なのだ。
しかし、配信をしたり動画投稿しようとすると、どうしても容量や通信速度の問題で画質が落ちてしまう。
なんか視聴者さんにも、もっと臨場感ある映像を見せれたらいいのにな、と思い動画圧縮の仕組みを作ってみるという目的となった。
とりあえずもう少しわかってきたら、論文を読んでも理解できそうだ。
そのうちオンラインのシンポジウムを聞きに行ってもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、物理の参考書を読んでいると、スマホのアラームが鳴った。
行く時間か。
あっという間に夕方だ。
流石にダマスカスのイベントに遅れるなんてできないので、俺は急いで準備は始めた。
バタバタと準備をしていると、部屋の扉がノックされたので返事をした。
すると莉乃愛が部屋に入ってきて、
「あっくんこれから行くの?!」
「うん」
「じゃーん!」
そういう莉乃愛の手にはヘアワックスがのっている。
「わたしがセットしてあげるー!」
「別にいいのに…」
「えー! 動画に映るのに少しぐらいちゃんとしようよ! あ、服はー」
と言って、クローゼットを開けて選び出した。
もう、自分の部屋かのように…。
慣れてるけどね。
「これとこれ!」
「了解です…」
「はい、着替えたら座って!」
そう莉乃愛は仁王立ちしている。
「いや、りのあ着替えられないんだけど」
「え? 男子でしょ? 別にいいんじゃないの?」
「え? そうなの?」
「うちのクラスの男子とか普通に着替えてるよ?」
「え? そうなの? え? もしかしてりのあも?」
俺が陽キャの世界の常識について行けず聞くと、莉乃愛は少し顔を赤くして、
「そ、そんなわけないじゃん! 女子の下着を見るなんて犯罪だよ!」
「そ、そうだよね…びっくりした…」
俺がホッとした感じでそう言うと、
「あ、あっくんなら別にいいけど…」
とさっきよりもう少し顔を赤くしていった。
「む、無理です…」
「もう! ほら早く着替えて!」
莉乃愛はそういうと、部屋から出てドアを閉めた。
着替え終わり、莉乃愛に声をかけると、ベッドに座らされ髪の毛をセットされた。
完成形アーク実写版になった俺は急いで家を出る。
そして電車に乗りながら、アークのSNSをみると、『実写楽しみ』みたいなコメントがいくつか来ている。
楽しみにしてもらうようなものではないと思うのだが、とりあえずアークの配信に入った声の主は誰だは、実写をにおわせ出してから一気に少なくなった。
とりあえず視聴者の皆さんの注意が逸れたようで本当によかった。
俺はそんなことを思いながら今日の会場となるスタジオに向かった。
スタジオに着くと、既に大会仕様に実況席と解説席がセッティングされていた。
俺はそんな会場を横目に、控室なる所に入ると、goodさんとカッキーさんがいた。
「お疲れ様です」
「おーっす。アーク今日はよろしくなー」
「よろしくお願いします」
「アークさんよろしくね! しかし今日はこの前よりなんかシャンとしてるね!」
とカッキーさんが俺を見ながら言った。
「幼馴染が動画に映るんだから少しはちゃんとしろと」
「あー! いい子でよかったねー!」
「もう完全な陽キャなのでいつも圧倒されてるんですがね…」
「あはは(笑) アークさん陰キャだって言ってたもんねぇ」
「そうなんですよ…」
そんな話をカッキーさんとしているとgoodさんが、
「それより、今日は応募数が結構すごくて、競争率が10倍超えちまったんだよな! しかも運営の配信は既に800人ぐらい待機してくれてるみたいだし、いい感じだぞ!」
「おぉ、それはよかったです…。実写初なんで少し緊張しますが…」
「まぁいつものアークでよろしく頼むわ」
「了解です」
そうしていよいよ大会開始時間となった。
大会が始まるとオープニング動画が流れて、goodさんのプレーを切り取って繋げた紹介動画が流れた。
「皆さんこんばんは! プロゲーミングチームダマスカス所属のgoodです! 本日の大会の実況をつとめさせていただきます! 実況難しそうですが頑張るのでよろしくお願いします!」
その後、俺の操作するアークのプレーの切り取り動画が流れた。
そして、
「皆さんこんばんは。アークです。初めての実写になりますがしっかりと解説できるように頑張ります」
俺がそういうと、goodさんと俺の間に置かれた大会の配信画面が見えるパソコンでは、
『アークが意外にイケメンで草』
『アーク普通に顔出しできるレベルやん』
『てか、サングラスとかもなしか』
と次々にコメントが流れた。
「本当はサングラスぐらいはしたかったんですけど、弾筋見えなくなっちゃうんでちゃんと解説するためにやめました。よろしくお願いします」
「えーっとそれじゃあ、早速1試合目の参加チームを一つずつご紹介していきます!」
そうしてgoodさんが参加チームのチーム名と意気込みコメントを読み、俺がそのチームについて解説する流れで進んだ。
中には同じデスト帯で見たことあるプレイヤーのチームなんかもあって、結構ハイレベルな戦いになりそうだった。
そして紹介の後1試合目が始まり、goodさんが実況しつつ俺が解説して試合は進んだ。
大会は全部で5試合。
チームの紹介等も含めると大体2時間ぐらいの予定だ。
1試合目が終わり2試合目のチームの紹介をしていると、配信画面がざわついた。
『柊まりん:アークさん実写うける』
『日向ゆきは:本当に実写なんですねー』
なんとまりんさんとゆきはさんが運営の動画配信に、公式アカウントでコメントしてくれたのだ。
それに大会の動画配信は大盛り上がりで、
『MSHで出よう!』
『まりんちゃんきた!』
『ゆきはちゃん出てよ!』
『マリンスノーで配信してて、アークが実写してるから面白そうだから見に行こうってことになったらしい』
「おい、アークなんか言えよ」
「えーっと、実写です」
「それだけかよー(笑)」
goodさんがそういうと会場のスタッフさん達が笑った。
「思わぬ大物の襲来でしたが、引き続き5チーム目を紹介します!」
そうしてその後、2試合目3試合目とこなし、
「さぁ最後の試合の最終安地! 残っているのは「やってみんしゃい!」と「ご飯はおかず」です!」
「位置は「やってみんしゃい!」の方が有利ですが、「ご飯はおかず」は、デスト帯のreinさんがいるのでどうなるでしょうか」
「さーここでreinが飛び出した! そして全員出てきたー!」
「reinさんうまいですね。次元で安地外耐久しにいきました」
「さー、ここでreinが戻って…勝利ー!!!!!!」
これまで通り優勝チームのインタビューをして、goodさんとまとめを話して、俺はダマスカスの大会の解説を、無事かわからないけどなんとか終えれた。




