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言わせておけばいい

『当日使用する機材の確認で、ダマスカスの事務所にお邪魔しています』




俺はアークのSNSに、パソコンの写真付きで投稿した。



先週解説としてアークが参加するということがダマスカスから発表された。


まぁそれ自体はそこまで話題になるようなことでもないので、たまに配信中にコメントで聞かれるぐらいだった。



そして今日、一応本当に機材の確認でダマスカスの事務所に行くので、その風景を撮影して投稿した。



果たして、皆さんと相談したような結果になるだろうか…。


そうなるといいんだけど…。




その後、当日goodさんが実況をやるそうなので、どんな感じで進めていくかを打合せした。




「んじゃ、アークそんな感じで行こうか」


「オッケーです」


「しかしお前あれだな、意外にイケメンでびびったわ」


「そうですかね…。俺、本来リアルの人と全然話せない陰キャなんですが、goodさんだと思うとアークだと思えるみたいで話せてよかったです」


「あ、そうなん? リアルを知らんから全然違和感なかったわ」


「それはもう…。中高一貫の6年間で友達1人しかいませんから」


「筋金入りだな(笑) ってか、アークのSNSどう?」


「あ、ちょっと見てみますね」




俺はそう言うとスマホを出してSNSを確認した。




『え? 機材の確認?』

『アーク会場行くの?』

『どういうこと?』




と、俺は当然オンライン参加だと思っていた視聴者の皆さんからコメントが来ていた。


goodさんにもそれを見せると、




「おぉー! 概ね予定通りだな!」


「そうですね。この後小出しにしていって、来週当日会場で実写ですって言えばいいんですよね?」


「おう! 頼むわ! まぁ既に大会を実施できるぐらいの応募者は来てはいるんだがな。盛り上がってるってわけじゃないから」


「了解です。ではまたご連絡します」


「おう、頼んだよ!」




俺はそう言って席を立ち、事務所を出て家に向かった。


平日の昼間にこうやって外を歩いているのはなんか新鮮だ。




俺の通う四谷高校は、受験に向けて1月の始業式の翌日から完全自由登校になっている。


もちろん1度も行っていない。



この前センター試験もあったが、受けていない。



俺は大学に行かないことを決めていた。



プログラムの勉強をしていく上で、大学で基礎をしっかり学んだ方がいいという側面があることはもちろん理解しているが、大学だと他の教養科目なんかも勉強しなければならない。


俺はプログラムだけを勉強したいから、学問で言えば、数学、物理、情報処理この辺りしかやりたくない。


だから、1年独学で好きなようにやってみようと思い大学は受験しないことにした。



もし、それで壁にぶつかったりしたら、来年再度受験してみようと思っている。




小さい頃から勉強だけはやってきたのが良かったのか、現状大学レベルの参考書を買いまくってはいるが、独学で何とかなっている。


もちろん教えてもらうよりは時間がかかるのだろうが、自分の頭で理解していく分、わかることが増えてくるとどんどん加速度的に理解できる範囲が広がっていく。




今日みたいな特別な予定がない日は、朝起きて夜ごはんまでプログラム。


夜ご飯を食べたら配信をしてという生活スタイルも確立できてる。



莉乃愛はまだ学校があるので日中は学校に行っているが、夜には帰ってきて、配信が終った俺に動画配信をこんな感じでやりたいとか、色々相談されている。



最近はスケジュールソフトに夜ごはんの時間を登録して、時間の30分前と10分前に強制的にパソコンの画面の最前面にポップアップさせる仕様にすることによって、莉乃愛の色んな音シリーズも行われていない。



よかった。


あれ、本当ドキッとするんだよな…。




「それでさ、あっくん、お勉強系どう思う?」


「りのあがいいならいいんだけど、それでもRinoのイメージ崩れない?」


「えー!!! でもさ、動画で喋るとなるとさ、わたしがバカなことなんてすぐわかるくない?」


「どうだろう…」


「だって頭いいこととか言えないよ?」


「まぁそれはそうかもね…」


「だとしたら開き直った方がよくない?」


「まぁ確かに変に隠すよりはそっちのほうがいいのかな…でも、ネットだと普通に否定的なコメントしてくる人も多いよ?」


「例えば?」


「バカすぎとか、下手すれば体しか武器がないとかりのあだったら言われかねないよ?」




と俺が言うと、莉乃愛はニヤーっとして、




「えー? あっくんわたしの体そんな風に見てたのー??」




と言った。


俺は慌てて、




「いやいや! 例えだから!! そんな風に見てないから!!!」


「えー、でもあっくん、わたしが寝転がってるとよく背中とか谷間とか見るじゃーん」


「いや、あれはもう不可抗力だって…。むしろりのあがもうちょっと気を付けてよ…」


「まぁあっくんならいいんだけどね! でも、そういうコメントはわたしガン無視できるよ?」


「それならいいんだけど」


「うん! だってモデルとしてでも色々言われてるよ?」


「そうなの?」


「うん! 編集者の人と寝てるとか、良く着るアパレルメーカーの社員に枕してるんじゃないかとかー!」


「そ、そうなんだ…」


「別にそんなことしてないけど、そんなの気にしてたら何もできないじゃん? 言いたいやつには言わせておけばいいんだよ! わたしが悪いこととか卑怯なことしないことが重要!」




莉乃愛は親指を立てて言った。


すごいな…俺も個人勢女性配信者キラーとか日向ゆきはの彼氏とか、色々言われてきたけど、そこまで完全無視はできない。


でも、そうなんだよな。


どんだけ気を付けても、一人もマイナスな意見を持たないなんてことないんだよな。


え? そんな発想? 逆にすごいね?! みたいなことだっていっぱいある。




「まぁそれならいいんじゃないかな。そしたら、美容とか洋服中心に、勉強系をシリーズで入れていく感じでやればいいんじゃないかな」


「わかった!」


「でもなぁ、勉強ってなると答えが必要だよねぇ」


「え? 問題集って答えついてるじゃん」


「あ、いや、答え合わせだけだと、多分すぐ飽きちゃうから、なんかうんちくみたいなのも入ってたりするといいと思うんだよね」


「うんちく?」


「例えば、社会の教科書で織田信長は大うつけ者的な扱いになっているけど、一次資料を使った最近の研究では、別にうつけでもなんでもなくて、ただやるべきことを淡々とドライにこなしていったおじさんってだけっぽいとか」




俺がそう話すと、莉乃愛はポカーンとして、




「今の日本語?」


「え? む、難しかった?」


「織田信長は知ってる!」




ドヤっと言う莉乃愛を見て、俺は沈黙した…。




「ま、まぁそういうのも少しあった方がいいと思うんだけどねぇ」


「さっきのは無理! わたしと華蓮だよ??」


「まぁそれはしょうがないか」




すると莉乃愛が閃いたように言った。




「あっくんが出ればいいんじゃん!」


「えぇ」


「あっくんならできるでしょ?」


「いやいや、流石に調べないと無理だって!」


「調べたらできるの?」


「内容によっては…?」


「んじゃそれでいいじゃん!」


「いやいや、待って!」


「だってあっくん今度顔出しするんでしょ? だったら別にいいんじゃないの?」


「いやまぁそれはそうなんだけど、俺と一緒に出ちゃったら、もう今回考えた意味ほとんどないじゃん!」


「ええ? どゆことー??」




莉乃愛は首をかしげている。




「と、とりあえず、その件はできるかちょっと考えてみるから、初回は別の内容で!」


「わかったー!」




そういうと莉乃愛は部屋から出ていった。



俺と一緒に動画に出たら、もうそれこそ懸念していた生活環境を自ら告げるようなもんじゃん…。


もう……しょうがないなぁ…。



俺は一人で苦笑いしながら、莉乃愛のお勉強配信について考え出した。

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