折角考えたのに…
そして週末。
昨日莉乃愛からは昼過ぎに行こうと言われたので、家で昼食を食べて買い物に出かけた。
今日の莉乃愛は茶色のウエストの位置が高い? 短めのスカートの上に、黒のタートルネックのニットを着て、その上からスカートと同じ長さぐらいの毛皮のコートみたいなのをきている。
「りのあ、いつもいつも思うんだけど、寒くない?」
「寒い!」
「んじゃなんで…」
「えー、このコートにはこのスカートが合いそうだなって!」
優先事項はそこなのか…。
そう思いながら俺は、トボトボとマフラーに首をうずめて歩いた。
そして二人で電車に乗り、新宿に向かった。
「渋谷に行くのかと思った」
「んー、なんか最近派手派手しいのあんまりなんだよね~」
「そうなんだ…」
と、莉乃愛の今日の服装を思い出すが全然わからない…。
「それにちょくちょくお母さんと買い物行っていいもの買ってもらってるから、そっちに合わせようかなーと思って!」
「母さん、りのあとの買い物めちゃくちゃ楽しみにしてるよね…」
「そうなのー! わたしも楽しいし」
新宿に着き、今日は莉乃愛の物を買うと言っているので、とりあえず莉乃愛の後を着いていく。
「ねーあっくんどっちがいいと思う?」
「え…」
「ちょっと着てみる!」
「あ、いや…」
えぇ、聞かれてもわからないって…。
と思っていると莉乃愛が試着室のカーテンを開けた。
「どお?」
「似合ってるかと」
「むー、ちょっと待っててね」
と試着室のカーテンが閉められ、しばらくするとカーテンが開いた。
「さっきのとどっちがいい?」
「……どちらも似合ってるかと…」
「参考にならない! ちゃんと見て!」
「…はい…」
結局莉乃愛にあちこち連れまわされ、意見を求められ、困るというループを繰り返した。
「ねーねー、あっくん、結局雪菜の件は何が原因だったの?」
休憩に入ったカフェで、こんなに寒い中なんか冷たい氷の様な飲み物を飲んでる莉乃愛が聞いてきた。
「んーなんというか、痴話喧嘩に巻き込まれた感じかな?」
「迷惑な痴話喧嘩だねぇ」
と莉乃愛がウンウンという感じで頷いてる。
え、今の説明で納得なの?
ほとんど全然伝わらないような気がするんだけど…
「でももう大丈夫なんでしょ?」
「うん、大丈夫だね」
「あれ結局10時間ぐらい配信してたんでしょー?」
「あれは俺も久しぶりに疲れたよ」
「いや、呪文やってるときもっと起きてたじゃん…」
「ま、まぁ、あれはなんというか別な感じかな…」
「ま、よかった! さーって、では行きますか!」
そう言って、莉乃愛がズゾゾーっと飲み物を飲み切った。
そうしてその後も、莉乃愛の買い物に付き添いつつ、途中で大会に実写で出るんだからと俺の物も見て、いつも通りの大荷物となった。
そんな大荷物を抱えながら莉乃愛が最後に訪れたのは家電量販店。
何か欲しい家電でもあるのかな?
と思っていると莉乃愛はビデオカメラのコーナーに向かう。
「ねーねー、あっくんどれがいいと思う?」
「どれって言われても…何に使うの?」
「動画配信!」
莉乃愛は当然! みたいな感じでこっちを見た。
そして俺は唖然とした…。
「え?」
「だから動画配信だって」
「え? りのあが?」
「そう!」
「え? まじ?」
「大まじだよ!」
「えええええ?!」
「ほら今わたしの声ブーム来てるじゃん?」
「あれはブームって言うのかな…」
「しかも今動画配信者って仕事になるじゃん?」
「まぁうまくいけばね…」
「わたしそう言う道に進むって言ってたじゃん?」
「え、あれ、動画配信者も範囲内だったの?」
「まぁどこかに出るって意味では一緒でしょ!!」
ドヤっとした感じで莉乃愛は言う。
なんて広義な…。
「だからビデオカメラ買おうと思って! あっくんどれがいい?」
「えっと、多分家にあるのと俺が持ってるやつでとりあえずは大丈夫だから、一旦それで初めてみるってのは…」
「おお! それいいじゃん! ナイスあっくん!」
「というかりのあ配信するんだ…」
「うん!」
莉乃愛は俺の方にピースしながら言った。
俺、あんなに頑張って莉乃愛の身バレについて考えたのに…。
身バレはさせちゃうのね…。
まぁでも、家庭環境とかの問題はあるし、一旦アークの方向性はこのままで行けばいいか……。
そして、帰りの電車に揺られていると、
「いやー今日は買ったね!」
「う、うん…」
「でも安かった!」
「そうなの?」
「うん!」
「でもりのあが動画配信するってのには驚いたよ」
「ふふふ! まだJKだし、JK時代に始めた方がよさそうじゃない?!」
と両手を組みながら莉乃愛は言う。
本当感覚的なんだろうけど、それはあってるんだよなぁ。
綺麗な女の人と綺麗なJKでは、圧倒的に後者の方が見てもらいやすい。
ネットってそういうところだから…。
しかも莉乃愛は、商店街イベント時からRinoのSNSアカウントを持っており、そっちはフォロワーが1万人ぐらいいる。
「それはそうだね。Rinoでやるの?」
「そうだねー。Rinoかなぁ」
「それがいいよ。SNSもあるし」
「あ、でもRinoモードではやらないよ?」
「Rinoモード?」
「そう! 丁寧目な言葉づかいで、仕草や動きも小さい感じ!」
「へ、へぇ」
「雪菜モードもあるよ?」
「文化祭の時のやつね」
あぁ、ああいうなりきり設定のことか…。
「そう! でも、あれでずっとは無理な気がするから、通常のこの状態でやる!」
「それがいいよ。無理な設定はどこかでぼろが出るから…」
「だよねー!」
莉乃愛はそう言いながら、電車の椅子に座ってニコニコしながら俺に話していた。
大丈夫かな…。
変なことポロっと言ったりしないかな…。
俺はそんなことが急激に不安になりながら、その話を聞いていた。




