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陰キャかな

それから数日後、太田さんから連絡がきた。


耐久配信時にコメントが来なかったことから、ほぼ確定的ではあったが、会社の出社日になっても3人ほど社員が出社しておらず、代わりに辞表が届いたらしい。


暗黙の了解的に、その社員達が関係していると示しており、事務所も今回対象となった配信者達に、元社員が関与している可能性が高いとして謝罪を行ったらしい。


辞表が出てるから、受理しちゃえば元社員でも嘘ではないのか…? わからないけど…。


謝るだけでは済まない問題だと事務所も認識しているようだが、ただ明らかにしようとすると大規模な調査が必要で、配信者の方々に迷惑がかかるからやらないようだ。


しかし、それでは流石に事務所としての立場がないということで、完全に事務所の持ち出しで今回迷惑をかけた配信者全員のグッズを作り、原価で販売するとのことだ。


無料だと今度は転売で炎上するらしい。


視聴者さんには、配信が荒れてしまい終息に時間がかかったことのお詫びとして、今回作るグッズは、原価分の売上も全てその配信者の収益に換算し、事務所の取り分は0になるということを、もう少ししたら発表するようだ。


雪菜さんが言うには、概ね事務所には感謝している人が多いようで、配信者で本件を未だ問題視しているということはないようだ。


とりあえずこれで雪菜さんの件はひと段落だが…。




「お疲れ様ですー」


「アークおつかれー」




俺はgoodさんから招待された、ダマスカス運営のディスボチャンネルに入った。




「アークさんお久しぶり! この前はgoodありがとね!」


「いえいえ!」


「でもやっぱりナナイロさんは凄いねぇ」


「いや、本当。まさかこのタイミングでチャンネル登録者数が再上昇すると思わなかったわー」


「そういうことなんで、アークさん機会またあったらお願いねぇ。本当は他のメンバーにしたいけど、うちのメンバーは喋りが汚いやつ多いからなぁ」


「確かに、ゆきはさんなら何とかなるかもしれませんが、それ以外の人だと俺もどうにもできないかもしれないですねそれは…」


「あはは(笑) まぁよろしくね!」


「はい」


「それで今度の大会なんだけど、実況はうちのチームのメンバーがやって、解説はアークさんて感じなんだけど大丈夫かな?」


「はい、ちゃんとできるかわかりませんが大丈夫です」


「配信してるみたいな感じで大丈夫だよ!」


「はい、わかりました」


「ただどうやって出ようか? アークさんバーチャル体とかある?」


「いや、ないです」


「んー試合中以外は実況会場を映す予定なんだけど、最悪いつも配信で使ってらっしゃる立ち絵を上からのせておく?」


「あ、あの、一つご提案があるんですが、いいですか?」


「んー? なになに?」


「俺も会場行きましょうか?」




するとディスボは沈黙した。




「え? アーク会場きてどうすんの?」




とgoodさんが聞く。




「いや、普通に実況の方の横とかで」


「え? 顔映るよ?」


「はい」


「え? いいの?」


「大丈夫ですよ。別に顔隠したかったわけじゃないんで」




そういうと再び沈黙しカッキーさんが、




「アークさん本当?!」


「あ、はい。ちょっと理由がありまして…」


「理由?」


「はい。ゆきはさんの耐久配信の時に、俺のマイクから女の人の声が入ってしまったのご存じですか?」


「あぁ、切り抜きとかもあるよな」


「はい。それで、放っておけば忘れられるかなと思っていたんですけど、全然ほとぼり冷めなくて…」


「あぁ、確かに。なんか声の主の女の子予想とかまで投稿されてたの見たわ」


「そうなんですよ」




そうなのだ。


ほとぼりが冷めるのを待っていたのだが、全然冷めない。


しかも性格や予想絵は、微妙に莉乃愛の特徴と言うかギャルっぽい雰囲気になっており、ゲーム実況者に肯定的なギャルと言う感じでなぜかより盛り上がってしまっているのだ。




「それですね、実は彼女、幼馴染なんですが、彼女の家庭環境がはちゃめちゃで、今うちで居候してもらってるんですね」


「幼馴染だったんか」


「はい。それでですね、もし彼女が特定されると、現状の彼女の生活環境を問題視するネット民が現れる可能性がありまして」




俺がそう言うとカッキーさんは、




「養子縁組とかしてないの?」


「してないんです。父親がどこにいるか不明でして…」


「ありゃーーー。そりゃ確かにネットの餌食になる可能性があるねぇ」


「はい。なので、別の話題で塗り替えようかと」


「なるほどねー! うちとしては全然いいというか、話題になりそうだしありがたいけど、いいの?」


「あ、はい、大丈夫ですよ。別に隠したかったわけじゃなくて、そもそもゲームを見たいはずなんで顔とか興味ないでしょ? って思ってただけなんで」


「そ、そう…」


「えー、アーク来るなら俺実況やろうかなぁ」


「goodどん欲だねお前…」


「いやだって、チャンスでしょどう考えても」


「まぁそうだけど(笑)」




その後、大会の仕様やルールについて話し合いがあり、週明けに募集開始の告知が出ることとなった。



あの後色々考えたのだが、SNSを俺なんかが制限することは出来ないし、アークとして何か発信しようものなら火に油になってしまうかもしれない。


かといってこのまま放っておいて莉乃愛を不安にさせておくのも嫌だ。


そうなると別の話題で、現状の話題を塗り替えるしかない。


そうして俺が思いついたのはアークの実写配信だ。



そして、どうせなら目立った方がより話題を塗り替えやすくなるので、解説で出る大会で実写をお願いできないかと考えていたのだ。




こうしてダマスカス主催の大会でアークの初実写が決定した。



俺の実写は、うまく盛り上がらせようということで、告知するのではなく、アークのSNSに当日使用する機材の確認とかの画像をあげていって、SNSでジワジワ話題にしていく方向性となった。


俺の実写にどれほどの効力があるかはわからないが、これでアークの中身にまつわる現行のSNSの噂を書き換えることが出来れば、莉乃愛の方の注目度が相対的に下がるだろう。



注目度が低いことを取り上げる人は少ないから、そうなれば特定までは至らないはずだ。



これでうまく話題がそれて、声の主の追及が立ち消えてくれればよいのだけど…。





打合せが終り、俺はイヤホンを外して莉乃愛の部屋に向かう。



ドアをノックして返事があったので中に入った。


ベッドを背もたれに、なんか鏡を見ながらやっている莉乃愛に、




「りのあ、一応ネットのやつ、少し対策するね」


「おお! あれなんかすごいよね! なんか微妙にわたしっぽくてまじですごい!」




とりのあは片目の瞼を持ち上げながら言う。




「俺今度さプロゲームチームが主催するOPEXの大会で解説頼まれてるんだよ」


「へぇ」


「それで、その時俺実写するから、それで話題塗り替えるよ」




と俺が言うと、莉乃愛は化粧みたいなのをやめて言った。




「いいじゃん! そしたら服もちゃんとしなきゃだし、初売り行こうぞ!」




とニコッとして言った。


初売り…。


忘れてたよ…。




「そう言えばそんなことも言ってたね…」


「じゃあ週末ね!」


「…了解」




俺はそういうと莉乃愛の部屋を出た。


莉乃愛はモデルで実写になれているから、なんにも反応がなかったが、結構一大決心だと思うんだけどな…。


陰キャな俺としては…。


陰キャかな俺…。


なんか最近莉乃愛や雪菜さんに引っ張られて、陰キャじゃなくなってる気がする…。


いや別に、陰キャになりたいってわけじゃないから別にいいんだけどさ……。




そんなことを思いながら俺は部屋に戻り、ソロ配信の準備を始めた。

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