【中里雪菜視点】耐久配信
ナナイロの事務所で、小平さんと太田さんに内容を話したあと、湯月くんと初詣に行って、腕を組んじゃった…。
我ながら、ずいぶん大胆なことをしてしまったと思う…。
いつも困ったときに助けてくれて、いつもいつもすっごく落ち着いているから、少し困らせてみたいと思ってしまった…。
だ…大丈夫かな……嫌われたりしてないだろうか……。
家に帰った後、そんな自分に恥ずかしがってると、太田さんからLIMEがきた。
『この後社員向けに、状況説明の緊急オンライン会議が開かれます』
『そうなんですね!』
『たぶん何も起こらないですが、一応終わったらまた連絡するね!』
そしてしばらくすると、
『問題なく終了しました。結構びっくりしてた人も多くて、ドタバタしそうですが、絶対迷惑はかけないから、今まで通り頑張ってね!』
『はい!』
社内への伝達が終わったらしい。
でも私達配信者にはまだ何も伝えられていない。
どうしたらいいんだろ…。
今まで通りに配信していいのだろうか……。
そう悩んでると、湯月くんからLIMEが来た。
『太田さんから連絡が来ました。終わったみたいですね』
そうだ、湯月くん、今後のデータのやり取りがあるかもしれないと、太田さんと連絡先を交換してたんだ。
そしてよかった、嫌われたりはしてないみたいだ。
『はい、でも私達はまだ何も言われてなくて…どうしたらいいものかと…』
『あー確かに、配信者の方に伝えられるのはもう少し先になりそうですもんね』
『はい、それにもし違ったら…』
『それは大丈夫かなと思うんですけどね…』
『そうなのかな…どうしようかな……』
『あ、それだったら200キル耐久配信でも一緒にやりますか?』
『え?』
『このタイミングで200キル耐久配信やって、視聴者さんにも問題ないことを見てもらいましょうよ』
『でも…』
『大丈夫です! 俺も一緒にやりますから』
うーん、確かに湯月くんを信じるなら、それはありかもしれない。
このところ、長い配信をできていない。
私だけでなく、他の人も結構そうだ。
事情を内々で知っている私が先陣を切れば流れが変わるかもしれない…。
『お願いしてもいいですか?』
『大丈夫ですよー』
『じゃあ準備したらINします!』
『了解です!』
こうして、急遽アークさんとOPEXの配信をやることになった。
突発で外部の人と配信するとなる問題あるのかもしれないけど…今日はしょうがない!
大丈夫だって視聴者さんに安心してもらわないと!!
それに、きっと他の配信者の方の為にもなるはずだ!!!
そうして私は太田さんに、
『今からアークさんと200キル耐久配信やります!』
とだけ連絡し、配信の準備をした。
でも、200キルってどれぐらい時間かかるんだろう…
そして、
「こんゆきー! あけおめです! 昨日投稿した動画は皆さん見てくれましたか??」
『見た見た』
『あけおめー!』
『よかったよ』
「今日はですね、今年初の配信になるんですが、今年初なんで初めてのことをやります!」
『なになに』
『新ゲームか?』
『アニマルの森か?』
「ふふふ、えー今から始まるOPEX200キル耐久配信――!! ぱちぱち!」
『え、このタイミングで?』
『大丈夫か?』
『耐久は危険では…』
「最近なんか色々ありましたが、なんかそれを気にしすぎてもーとも思うんです! なのであえてこのタイミングですが耐久配信します! そしてー、私一人だと、恐らく一生終わらないのでー、特別ゲストをお呼びしています!」
「こんにちはーアークです。あけましておめでとうございます。今日はゆきはさんの耐久配信に助っ人参加ですので、俺の方は配信付いていませんー」
『アークの耐久値まだあるからな!』
『いいね!』
『頑張れ!』
『大丈夫か…』
「ではとりあえずデュオで一回行きましょうかー!」
「オッケーです! ゆきはさん次元使います?」
「いえ、わたしはスキャンです!」
「たまには…」
「スキャンです!!」
そう言って、二人でOPEXのカジュアルマッチの耐久配信を始めた。
『なんかアークと二人って相当久しぶりだね』
『育成枠やってたからな』
『アークにキャリーしてもらおう』
「キル数キャリーするとしますかねぇ」
「お願いします!」
そして見事、降下場所に5チーム被り、0キルですぐに1戦目を終えた。
「ゆきはさん、1ミリもキャリーできませんでした…」
「あはは(笑) そういうこともありますよー!」
「あ、てか、ゆきはさんもう一人呼んでもいいですか? 外部の方なんですが」
「おお? えーっと、ちょーっと待ってくださいね!」
私はそういうとディスボのボイスチャットをミュートして、メッセージでアークさんに連絡した。
『どなたですか?』
『goodさんです。実は前に講座の参加をお願いした時に、もし機会があればゆきはさんやナナイロの方とご一緒したいと…』
『あぁ…確かに。アークさんだけ特別枠感ありますもんね…』
『そうなんですよ…。なんか打算的ですいません…』
『いいですよ! いつもお世話になってますから! すぐ聞いてきます!』
そう言って私は太田さんに電話した。
「あ、ちょ、ゆ、ゆきはさん! 大丈夫?」
「はい、元気ですよ? あ、今のところ変なコメントは来てないです!」
「そ、そう…。とりあえず耐久頑張ってね。もう少ししたらできる限り私も見るようにするから」
「ありがとうございます! それでですね、アークさんの他にもう一人外部の人呼んでもいいですか?」
「あら、どなた?」
「ダマスカスのgoodさんです!」
「あぁ…まぁいいでしょう! ちょっと特別なタイミングでもありますし!」
「ありがとうございます! その確認でした!」
「了解です! 頑張ってね!」
私はスマホを切ると直ぐに、配信用のイヤホンを装着して、ミュートを解除する。
「大丈夫です! 確認してきました!」
「ありがとうございます! ちょっと待っててくださいねぇ」
暫くすると、
「初めましてー…ダマスカスのgoodです!」
「あ、goodさん初めまして! ナナイロ所属の転生者日向ゆきはです! あけましておめでとうございますー」
「あ、あけましておめでとうございます…。アークもあけおめ」
「あけおめっすー」
「ちょ、ちょっと豪華メンバーですね…いいんですかね…」
「行きましょ行きましょ! 全然大したことないただのプロゲーマーなんで! あ、俺の方配信ついてますけど大丈夫ですか?」
「いや、それたいしてますよね(笑) 配信は大丈夫です!」
「あ、そういえば、俺大会の後ゆきはさんのアーカイブ見て、チャンネル登録してんだよね…」
「え、あ、登録ありがとうございます! 日向ぼっこ仲間にようこそ~!」
「っうわー、聞いたことあるけど本物だ…」
『goodただのファンで草』
『キル数進み過ぎないか?』
『なかなか面白いメンツ』
とゆきはさんの配信画面のコメント欄もおおよそ好意的だった。
そうして私達は3人でOPEX配信を開始した。
「なー、アーク、これ俺どこまで本気でやったらいいんー?」
「そうですね、ほどほどな感じで行きましょう。基本ゆきはさんの後ろついていきますか」
「え、ちょっと、それはやめてくださいーー!」
『ゆきはちゃんオーダーしよう』
『いけるいける』
『まだ0キルだよ!』
「あ、わかりました! じゃあオーダーします! goodさんオーダーしてください!」
「それは、なんて邪道なオーダー!」
「「あはは」」
そんなやりとりもして、goodさんとは初対面だけど結構和やかな雰囲気になった。




