何もできることはないかと
ベーカリーTAHARAの商店街イベントをこなし、クリスマスプレゼントの交換が終わり、世の中が本格的にクリスマスを迎える。
うちは特に何がってわけではないが、クリスマスイブには夕食がちょっとしたクリスマスメニューになり、クリスマスプレゼントという名のお小遣いがもらえる。
中学からずっとクリスマスプレゼントはお小遣いだ。
今年は例年と違い、莉乃愛がいるので、少し母さんが盛り上がったようで夕食が豪華だった。
莉乃愛が「お父さんいつもありがとう~」って言いながら、親父にお酒を注いで、親父は嬉しくなって気分良くなったのか、どんどん飲んでしまい潰れた。
母さんが「こんな年になって潰れるなんて…」と、呆れながら親父を寝かせたりしていると、「あっくんもしかしてわたしやりすぎた?」と莉乃愛が聞いてきたので、「りのあが悪い度合いは0%だよ」と話しておいた。
その後、親父を動かすのを手伝い、俺は部屋に戻り、ゆきはさんのクリスマス配信をチラ見して、いつも通りOPEXの配信を行った。
『安定のアーク』
『流石』
『クリスマスイブなのに予定ないのか』
とコメントを貰いつつ、
「俺がクリスマスに予定があるような感じに見えますかーー。まぁ皆さんもないみたいですけどね」
と話すと、
『いや、隠してるだけ』
『今忙しい』
『これから予定があるような気がする』
というようなコメントを貰い、そのままOPEXの配信を行った。
次のクリスマスは、ただの休日なので、朝から勉強して配信して勉強してと繰り返した。
そして次の日も同じく勉強して、今日は個人勢の方とコラボ配信なので、その前に少しネットでも見てるかと、色々見ているとゆきはさんが配信していた。
頑張ってるなーと思い配信を開いてしばらく見ていると、いつもと雰囲気が少しが違う。
なんだか、コメント欄がいつもより少し殺伐としている。
『うぜーやつきてる』
『最近多いな』
『ゆきはちゃん無視だよー』
とコメント欄が言ってる。
ゆきはさんは無視して、今日はメインクラフトの配信なようで、
「そろそろ物資が少なくなってきたなぁー。今度配信外で準備しておかなきゃー」
なんて話しながら、変なコメントは無視して話してた。
そのうち、事務所の方が監視していたようで、該当ユーザーのコメントが、『削除されました』と表示された。
しかし、しばらくするとまた別のアカウントで、同じように『足なめたい』だの『声がおかず』だの、ギリギリNG設定になってなさそうなコメントをするアカウントが再び登場した。
そうなのだ、それこそ今週辺りから、ゆきはさんだけではなくまりんさんや、他にもチラホラとナナイロ所属のバーチャル配信者のところに、こういうユーザーが訪れて、少し配信が荒れているらしいのだ。
俺はリアルタイムで見たの初めてだけど、SNSでなんかそういう発言のスクショとかが出回ったりしていて知った。
本当ネットの世界はいつもこんなんが出てくるよな~、だからネットの世界に変な偏見持たれるんだよな~と思っていた。
ゆきはさんの配信は暫くすると、再び事務所の方が削除したようで、その発言がなくなったが、また再び違うアカウントでコメントがされた。
いたちごっこだな…。
と思っていると、
『rino:キモ』
『rino:ウザ』
と、えらく攻撃的なコメントが流れた。
rino…ま、ま、まさかな…
と思いつつも、もしそうだったら…と思い、急ぎ莉乃愛の部屋に向かった。
ノックも忘れて莉乃愛の部屋のドアを開けると、ベットに寝ころびながら莉乃愛がスマホをいじってる。
「り、りのあ」
「ん? どうしたのー? あっくんがノックしないんて珍しいー」
「ま、まさかとは思うんだけど」
「うん?」
と、莉乃愛は起き上がりこっちを向いた。
「まさか、ゆきはさんの配信でコメントしてないよね…?」
「え、した」
「やっぱり…」
と、俺は頭を抱えた…。
「え、なんでわかるの? あっくんエスパー?」
「いやいや、rinoって莉乃愛でしょ…」
「え、うん」
「名前と発言内容で容易に想像できたよ…」
「そういうもん?」
「そういうもん」
「そんでそれがどうしたの?」
「コメント書くのやめた方がいい」
「なんで!」
「コメント欄が殺伐としちゃって、ギスギスしちゃうからさ」
「えー、雪菜頑張ってるのに、なんか顔が見えないからって好き放題してくるのムカつくじゃん!」
「いや、まぁそうなんだけどさ、ネットの世界にはネットの世界の対処の仕方があるんだよ…」
「そうなの?」
「そう、コメントとかチャットで戦うと、顔が見えないから止まることなく誹謗中傷が続いていくことになっちゃう」
「でも、可愛そうじゃん!」
「ほら、今事務所の人がそのコメント消してるからさ…」
「でもさ~、こいつらさっきからずっと来てるじゃん」
「ま、まぁそうだね…」
「リアルタイムには消せないみたいじゃん! それだと結局そのギスギスにはなっちゃうじゃん!」
と莉乃愛が言う。
めちゃくちゃ感覚的だが、それはその通りなのだ。
いくら消せると言っても、リアルタイムは無理だし、削除までの間表示されていることで、やっぱりコメント欄の空気感は変わっていってしまう。
「それは…そうだけど……でもりのあのやり方だと火に油だからさ…」
「わかった! じゃあしない! あっくんなんとかしてあげてよ!」
と莉乃愛が言う。
なんとかするって言ったって…。
「えぇ…でも、俺ができることがある領域ではないと思うんだけど……」
「でも、雪菜頑張ってるのに!」
と言う莉乃愛の顔は真剣だ。
もう本当真っすぐで素直だな…と思いつつ、
「わ…わかったよ…何ができるかはちょっとわからないけど、考えてみるから、コメントで戦うのはやめてね。ゆきはさんの為にも」
「うん、わかった! もうしない!」
「う、うん…わかってくれて嬉しいよ」
「じゃあ、後はあっくんに任せた!」
というと莉乃愛は再びベットに寝ころびスマホを見だした。
俺はとりあえずよかったと思いつつも、なんとかするって一体何をどうやって…と思いつつ部屋に戻った。




