クリパ
「あ、あっくん、直人お帰りー」
俺が直人と一緒に学校から帰ってくると、リビングから出てきた莉乃愛が言った。
「あ、うん、ただいま」
「りのあちゃんこんにちはー!」
「雪菜がもう少ししたら来ると思うから、パーティールーム集合ねー!」
「あ、うん…」
するとリビングから母さんも出てきて、
「あ、直人くん! この前は新も莉乃愛も海ありがとね~」
「あ、いえいえ! 八代直人です!」
「あら~、新と違って礼儀正しくていいわね~! 新と莉乃愛の母です~」
「あ、これつまらないものなんですけど…」
と、直人が持っていたうちに来る途中に買っていた紙袋を渡した。
「あらー、いいのー?」
「はい!」
「全然いいのに~。でもそれじゃありがたくいただくわね~」
「はい!」
「ま、とりあえずあがって~」
と母さんが言うと直人が靴を脱いで、玄関をあがった。
「とりあえず、俺の部屋でいいでしょ? こっち」
と言って、直人の前を俺が歩き、直人が後ろからついてくる。
そして俺の部屋に入り、
「やっぱり直人は完璧だな」
「だろー? 自分で言うのもなんだが、俺親受け超いいからな」
「だろうな」
「しっかし、お前の部屋って感じだわ」
「今ちと汚いけど」
「んー、なにやってんだ?」
と、床に落ちていた紙を一枚直人が拾った。
「んーーー、代数だな。んー、この部分、前投資の計算お前とやってた時に似たようなのあったな。らー、りー、るー…ルーマンの定理!」
「流石、その部分はそれが一部使われてる」
「なに、またなんか投資で新しいことでもやるん?」
「あ、いや、最近プログラム独学してて」
「あぁ、そういうこと。俺はプログラムには詳しくないけど、確かに代数とか関数とか結構複雑なものが必要そうな雰囲気ではある」
「んーまぁそうだね」
「てかこんなん大学レベルだろ? やるなら大学行けば?」
「他のことやりたくない」
「まぁなぁ…。でもこういうのは、基礎ちゃんとやっておいた方がよくないか?」
「んー、それはわかるけど、こういうのって結果でしょ? 独学で基礎を学んで結果が出たら、それはそれでいいのではと」
「まぁそう言う考え方もあるわな~。ま、好きにしなよ。こういう効率的にとか、体系的にとか、そういう分野においては天才的なお前の頭の中は、俺にはわからんよ~」
「うん」
というと、直人はゲーミングチェアに座った。
最近プログラミングの勉強を始めた俺は、原理の理解のために必要そうな参考書を買い漁ってる。
簡単なホームページを作るぐらいはもうどうにかなるのだが、何かを分析したり結果を導いたりするために必要になるものは、正直高校レベルの教科書では原理が理解できない。
いや、何となく計算過程とか処理のプロセスとかを見ているとわかるのだが、今までの経験上、大体こういう状態になると公式的なものが既に存在する。
わざわざそれを導き出すのは、時間の浪費なので、そう言う状態に陥ったら参考書を買うようになった。
そうなったのも、直人と「どっちがお金を稼げるか勝負」を始めて、それが「どうやったらもっと効率良く稼げるか議論」に変わったあたりで、直人とあーでもないこーでもないと投資の予測を計算しようとした結果、そうか公式があるのか! と2人で行きついた。
あの勝負? も無駄ではなかったということだ。そう思いたい…。
その後、直人と暫く雑談していると、スマホに莉乃愛から『来ていいよー』と連絡がきた。
今日はOPEX講座のイベントの翌週の放課後、少しの時間うちのマンションのパーティルームを借りて、海に行ったメンバーでちょっとしたクリスマスパーティーを開くことになっていた。
クリパって言うらしいよ。
初めて知った。
雪菜さんはボイトレの頻度が大分減ったようで、この日なら放課後行けるということで、今日になった。
俺と直人がパーティルームに行くと、ちょっとしたお菓子なんかが置いてあり、女子5人が食べながら話をしていた。
「いやーしかしイベント凄かったね!」
と彩春ちゃんが言った。
「本当、菅谷先輩ありがとうございますー」
と茜ちゃんが言うと、
「いいよいいよー! わたしも楽しかったし!」
「でもアークの方もすごかったんですよね?」
「そうだねー。田原がぶっちぎりで売上勝ったって言ってたよ!」
「ベーカリーTAHARAのところだけ異様に男子多かったもんね(笑)」
と華蓮さんが笑いながら言った。
「あ、直人くん、動画すごくよかったよ」
と雪菜さんが直人の方を向いて言った。
「俺も会場で見たかったけどー、親父に仕事頼まれてたからいけなかった…。」
と直人はかなり残念そうに言った。
「確かに女子で溢れかえってたよ。ホールも模擬店も(笑)」
「だよねー」
アークのOPEX講座もRinoの写真撮影も大反響で、どちらもSNSに多くの写真が投稿されていた。
そして、アークのSNSには色々なところから、イベント参加してくれないかと連絡が来てた。
あぁ、goodさんこういうことですね…。
と、俺はものすごく反省した。
莉乃愛の方は、どうやって見つけたのか個人のSNSアカウントに多くの申請が来てしまい、個人のSNSアカウントは普通に友達もいっぱい映っているので、急遽モデル名のアカウントも作り、個人の方を申請をバックせずに非公開アカウントにした。
「いやー、まさかモデル名のアカウント作ることになるとは思わなかった!」
と莉乃愛は両腕を組みながら言った。
「まぁ個人名の方はあたしらも、めっちゃ載っちゃってるからねー。あたしはいいけど、嫌な子いるかもしれないしね!」
と華蓮さんも同じく腕を組んで、「うんうん」と頷きながら言った。
「なんか今回集客が凄かったみたいで、うちの担任の先生に、毎年このレベルでやってくれないかって商店街の人からお願いされたらしいですよー」
と彩春ちゃんが言う。
「今年はちょっとRino+アーク+ダマスカスでちょっと異常事態だったからねぇ無理だろうね」
と直人が苦笑いしながら言った。
俺はそんなリア充たちの会話を、一言も発さず聞いていた。
聞いていたというかついて行けてなかったとも言うが…。




