【中里雪菜視点】勇者
「ほら、雪菜、ミスコン1位の登場始まっちゃうよ!」
「う、うん!」
私は詩織と今日高校の商店街のイベントに来ている。
今日は彩春と茜ちゃんが、Rinoと写真が撮れるかもしれないくじ引き屋の模擬店を出店し、莉乃愛ちゃんのミスコン発表があり、アークさんのOPEX講座と、ただの商店街のイベントとは思えないぐらいイベントが盛りだくさんだ。
だから結構前から予定を調整して、今日は配信をお休みにして詩織とイベントに来ることにしていた。
が、もうやばい。
こんな人だかりこの駅前で見たことないんだけど…。
駅の改札を出た瞬間、ここはテーマパークかと思うぐらいの人の多さにびっくりした。
しかも、いる人の種類が本当にバラッバラ。
あっちでは携帯ゲーム機で何かゲームをやってる男子の集団があり、こっちは見たこともない制服の女子高生。
毎年あったけど、普通に地元の人が、いつもよりちょっとだけ多いぐらいじゃなかったっけ…。
てか先週も商店街コーナーはやってたけど、その時はそんな感じだった。
今日は全てのイベントが集中いているので、恐らくそれを目当てに人が来ているんだろうけど、そんなもう異空間と化したいつも使っている駅前だった。
「りのあちゃんが11時からで、その後は雪菜の妹の所で写真撮るんだっけ?」
「うん、そう聞いてる」
「それで、15時から、雪菜と一緒に大会出てたアークさんのOPEX講座か」
「うん、でもOPEX講座は無理かな…」
「そうなの?」
「事前の希望者で300超えてるみたいで、ホールのMaxが150らしいから、12時から並べるようになって12:30~先着順でパンと一緒に渡される引換券と整理券を交換する形で入場できるみたい」
「やばすぎ…」
「すごいよね…」
私と詩織はそう話しながら、莉乃愛ちゃんが登場するホールに向かった。
するとホール前にはすでに、男の人たちが大勢集まっていた。
皆手には、不思議な形のパンを持っている。
「やばいじゃん…整理券に並ぶために待ってんじゃん……」
私達はその男の人達を避けてホールの中に入ると、今度は女子中高生が溢れかえっていた。
「こっちもやばいじゃん…」
「彩春達のSNSで、ミスコン1位だったから発表もあるよって告知してたからね…」
「それにしても…」
皆、来る途中で買ったのかタピオカミルクティーみたいなものやお洒落なコーヒーみたいなものを持っている。
先週そんなの売ってなかったと思うんだけど…。
座る席はもうなかったので、私達は後ろの方で立ち見することにした。
「今回動画変えたんでしょ?」
「うん。私の事、一般の人が知らないからね」
「まぁそれもそうか。あっちなら知ってる人いそうだけどねぇ」
「どうだろう…。あっちはもしかしたら外の男の人たちの方が知ってるかも…」
「確かに(笑)」
私と詩織が話していると、彩春のスマホ越しに見ていた、莉乃愛ちゃんの高校の放送部の二人がステージに出てきた。
司会1:「皆さん初めましてー! 東野高校放送部でーす!」
司会2:「今日はよろしくお願いしまーす!」
司会1:「さてさて、例年と同じイベントとは思えないほどの盛り上がりを見せている今日!」
司会2:「そうですねー! まさかこんなに多くのご来場者の、しかも同年代女子9.5割の空間に放り込まれるとは思ってませんでした!!」
司会1:「えー一応説明しておきますと、東野高校の文化祭では毎年ミス&ミスターコンテストが開催されております!」
司会2:「はい! そこで1位に輝いたミス&ミスターに毎年このイベントにも出演してもらっています!」
司会1:「ですが! 東野高校のミス&ミスターコンテストは格好いい人綺麗な人の1位を決めるのではなく、普段のその人とのギャップの大きさで勝敗がきまります!」
司会2:「なので、その前提をお忘れなきようよろしくお願いします! なんですが…」
司会1:「これはミスターの人が可哀そうですね…」
司会2:「そうですね…。あまり溜めるとよりきつくなるので早速行っちゃいましょう!」
司会1:「そうですね! それでは東野高校ミスター1位!! 3‐5神原さん!! 神原さんは昨年東野高校の生徒会長も務め学業優秀という絵にかいたような優等生です!」
司会2:「それを頭に置いてご覧ください!!」
司会1:「では、よろしくお願いします!!!!」
そういうとホールの照明が消えた。
そして文化祭の時と同じ動画が流れた。
司会2:「それでは神原さんご登場ください!」
そういうとホールのステージ脇から、文化祭の時と同じようなタンクトップ短パンの男子生徒が出てきた。
司会1:「それではアピールタイムお願いします!」
そういうと、男子生徒はマイクを受け取らず、
「ジーーーーーーーーーーーーーーーーーザーーーーーーーーーーーーーーーース!!!!!!!!!!!!!!!」
と叫んだ。
いや本当、「おお神よ」だよね…。
これ文化祭の時の100倍辛いよね…。
こんな女子しかいない空間…。
その後しばらく放送部の人たちと押し問答を繰り返し男子生徒はステージ脇に消えた。
会場は少し乾いた感じでパチパチ…みたいな感じだった。
「いや、彼は頑張った」
詩織は腕を組んで頷きながら言った。
「本当にね…これ本当きつかっただろうね…」
私はしみじみと言った。
司会1:「東野高校ミスター1位神原さんでした!」
司会2:「本当彼は勇者だと思います」
司会1:「はい、僕神原さんに何か奢ってあげたいです」
司会2:「やり切れたことに感動すら覚えます!」
司会1:「それでは! 皆さんお待ちかねだと思います! 次は東野高校ミス1位、菅谷莉乃愛さんです!」
司会2:「皆さんにはRinoの方が伝わりますかね?!」
司会1:「是非普段学校にいるRinoを見てみてください!」
司会2:「では菅谷莉乃愛さん! よろしくお願いします!」
「お、いよいよじゃん!」
「今回もすごいから見てみて」
私は既に動画を見ているが、実際の会場で見るのは初めてだから、少しワクワクしていた。
今回は私じゃないけど、あの瞬間を見てみたい。
今回、動画が変わってどうなるかは本当ごく1部の人しか知らない。
詩織にも文化祭と違うことは伝えたが、どう変化するかは教えていない。
莉乃愛ちゃん、きっと今回も本気でやるんだろうな!
楽しみだ!
私はそんなことを思いながら、ワクワクした気持ちでステージを見た。




