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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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644 「最初の誕生日会、最後の誕生日会?」

 1939年4月4日。私達の双子ちゃん達の最初の誕生日会。そして私にとって、最後になるかも知れない誕生日会。


 後者の方は、悲観論で考えても随分と可能性は下がったとは思うけど、慢心は禁物だ。歴史というやつは、容赦なく現実を突きつけ、修正して来たり、因果を巡らせてくる。

 それに体の主とのゲームが体の主の胸先三寸である以上、私にとって全てが突然終わる可能性は常にある。


 一方で、もう乙女ゲーム『黄昏の一族』との関連については殆ど考えなくなったけど、体の主の3度のループの1回目には追放劇がある。

 現状は全てが違っているとはいえ、役者は揃ったままだ。

 それに、体の主の追放理由の、おそらく一つとされた『闇の巫女』と『光の巫女』がどういう理由や経緯で採用されたのか、その辺はいまだに分からないままだった。

 恐らくだけど、似た状態か同じ状態にならないと永遠に分からない気がする。


 そしてどちらにも、私にとっての『敵』というより、今は『地雷』と言えそうな月見里姫乃がいる。

 ただ姫乃ちゃん、私のシンパまでいかないにしても、かなり好意的。それに、私と対立する主義や思想などにも流されていないどころか、現体制を肯定する向きが強いように見える。

 けどこれは、体制側で順調に人生を歩んでいるから、ある意味で普通の状態でしかない。


 ついでに言えば、いまだ攻略対象達にアプローチをかけるそぶりを見せない。現体制を肯定する考え方なら、身分差を考えるので普通といえば普通の行動だけど、正直拍子抜けさせられる。

 そして攻略対象の男子達も、姫乃ちゃんを優等生の書生という程度にしか見ていない。

 男子達にとって、可愛いとか外見は全く関係ないのは美形なれし過ぎているとはいえ、もうここまでくると内心笑ってしまう。


 そうした事について、出来る限り考えないようにしていた事だけど、双子ちゃん達を産んで以後、特に今年に入ってからは、何か諦観とか達観とかの感情が頭をもたげているのを自分でも強く感じる。

 やるべき事、出来る事はしてきたという自負もあるから、今年の9月1日どころか今この場で全てが終わっても、それなりに納得は出来る気がする。


(いや、せめてこのお腹の子を、現世に無事エントリーさせてあげないとね)


 出来る限りささやかにした誕生日パーティーで、かなり大きくなったお腹を軽くさする。



「どうしたの? 休憩中ー?」


「そんなところ。どんどん大きくなるから、抱いてると腕が疲れるのよねー」


 ちょうど一人になって座ったところに、同じようにピアノの演奏を終えて一人となった虎士郎くんの声。

 パーティー会場とした本館の大広間を軽く見回すと、みんな子供達の相手をしている。

 多くの人が参加できるようにと日曜日に、ちょうどマイさん達の翔子ちゃんの誕生日にこうして集まった。


 もっとも、双子ちゃんと私は4日の夜に、ごく軽くだけど先にお祝いは済ませているので主役とは言い難い。

 それにベルタさん達の紅輝くんも一緒に祝おうという意図の合同誕生日パーティーなので、騒げれば十分だ。

 そして日曜開催だから、大広間だけでは足りないくらいに大賑わいだ。


 そしてちょうど双子ちゃん達が立って一歩一歩歩いたり、尻餅をついたりする様を一喜一憂している。

 来週と月の下旬にも行われる誕生日会も、似たような賑やかさになるのだろう。


「生まれた時は小さかったのに、赤ちゃんって凄いねー」


「ほんと、実感させられる毎日ね。ん? どうかした?」


 話しながらだけど、虎士郎くんが私の顔をじっと見つめている事に気づいた。

 小さな頃と印象が変わらない天使なイメージのままの童顔系イケメンが、意外に真面目に私を見ている。

 その瞳にガン見されると、色々と見透かされているように感じてしまう。


「んー、なんだろう。最近の玲子ちゃんって、穏やかな表情になったなあって。でも、何か穏やかとも違う気もするんだよねー」


「そう? まあ、あれね。人並みの事を経験したせいじゃない?」


「それはあると思うけど、さっきも何か違うところを見ていたでしょう」


「なんだかボーッとしていたとは思うけど、そのせいじゃない?」


 内心を見透かされているだろうけど、軽くとぼけておく。

 そしてお互いの距離感が分かってくれる虎士郎くんは、柔和ないつもの笑みを浮かべてくれる。


「うん。気を抜くのも大切だよね。ボクも張り詰めてばっかりだと、いい演奏が出来ないからね」


「何が出来ないんだ?」


 二人きりは許さないとばかりに、兄の玄太郎くんがフレームインしてくる。


「玲子ちゃんには、気を抜く時間が必要って話ー」


「育児があるし、お腹の子供にも響くからな。それなのに、合間合間に仕事もしているんだろ。もう学生じゃないとは言え、働き過ぎだ」


「家事も料理もしない私は、全然働いてないわよ。育児も半分以上はメイド達がしてくれるし、子供達と接する時間だって世の女性より全然少ないわよ。むしろ問題を感じてるくらい」


「華族だし、今や大財閥の宗家なんだから、それが普通だろ。それなのに玲子は、子育ての合間に働いて。やっぱり、マリア・テレジアじゃないか」


「またその話? 働くって言っても、結婚前と比べたら全然よ。私的には、何もしてないに等しいくらいだし」


「そういう、主観的な感覚は危ないぞ。大勢執事や側近、メイドがいるんだから、ちゃんと周りに見てもらえ」


「はーい。……玄太郎くんもそうなの?」


 私はほぼ接触しないけど、15歳になってから二人ほど側近を持っているのは知っている。

 龍一くんは軍人を目指すからいないし、虎士郎くんは自分から断ったので、私以外で側近を持つのは玄太郎くんだけだ。


「僕か? まあ、そういう事もあるかな? 勝次郎に言われる事もあるけどな」


「俺がどうかしたか?」


 少し離れたところからは、瑤子ちゃんと一緒に主賓達とじゃれあっている勝次郎くんが笑顔で問いかけてきた。

 このままいけば、近所の気さくな小父さんになってくれるに違いない。逆に、一族以外で同世代の知り合いがほぼ皆無な私としては、そう期待せざるを得ない。


「どうもしないぞ。玲子に、自分の考えが主観的にならないように、側近の声を聞いたらどうだって」


「同世代で玲子より客観的な視点の人間は、俺は知らないがな。ただ玲子は、どこか自分の人生を突き放して見ているように思えてならん」


「そんな事ないと思うんだけどなあ」


「自分の為と言いつつ、一族の為、財閥の為、それに今だと家族の為も入るのか? 小さい頃からろくに遊びもせずに、玲子は自分を犠牲にし過ぎだ。もちろん、華族であり大財閥だから、一族の為という生き方は間違いじゃないがな。

 おっと、これ以上は俺が言うべき事じゃないな。あとは、今の話をして晴虎さんに叱られていろ」


 かなりのダメ出しをされてしまった。

 しかも、勝次郎くんにしては珍しいお説教だ。

 だから手を上げて降参するしかない。


「はーい。後で叱られてきまーす。で、勝次郎くんもそうなの?」


「そうとは?」


「我が身の至らなさを、瑤子ちゃんに諭されているかって事」


「勝次郎は、玲子と違って瑤子にお小言を度々もらうような奴じゃないぞ」


 そう言って割り込んできたのは、皿いっぱいに色々と食べ物を載せた龍一くん。士官学校での食事が足りてないのか、相変わらずの腹ペコぶりだ。


「買いかぶりだ、龍一。色々と言われているよ」


「そうなのか? だが、言ってもらえるうちが花だ。精々、言われておけ。玲子もな」


「はーい。けど私、瑤子ちゃんには色々言われてきたから、勝次郎くんとはお仲間ね」


「内容は随分違うだろうがな。ほら、その瑤子が呼んでるぞ。一人で1歳児二人は荷が重いだろう。玲子、行ってやれ」


「はいはい、行きますよ。けどまだ、短時間なら二人抱けるわよ」


「そうかもしれんが、身重なんだから無理はするな」


 「はいはい」と返しつつ、部屋の真ん中でみんなと遊ぶ赤ちゃん達の元へ。そしてその真ん中で、瑤子ちゃんがみんなと遊んでいた。


「瑤子ちゃん、ありがとー」


「あ、玲子ちゃん。麟太郎くん、麟華ちゃん、お母さんよー」


「リンタロー、リンカー」


 呼びかけると「まぁまぁ」などと言いつつ、小さな手を精一杯伸ばしてくる。そして双子なせいか同時なので、一緒に抱くしかない。

 そして私の腕の中ではしゃぐ。

 ただ、マイさん、ベルタさんとローテーションで育児をし、メイド達も世話をしているせいか、私が母親だという感覚をあまり持っていない気がする。みんながママって感じだ。

 むしろハルトの方を先に父親だと認識している節がある。

 でもまあ、懐いてはくれているから、気にはならない。


「で、でも、二人同時はそろそろ厳しいかも。誰か、まだ抱いてない人いるー?」


 抱きつつ辺りを見渡すと、一定数の視線が一人を示す。そしてちょうど目のあった姫乃ちゃんが、手でも示してくれた。


「玲子様、涼宮さんがまだです」


「姫乃さんは、抱いてくれたー?」


「はい。一杯遊ばさせて頂きました!」


 姫乃ちゃん、ニッコニコのお返事。というかこの子、私の側近達と馴染んでいるせいか、日に日に書生というより、同じようなポジションに立ちつつある気がする。

 反発するより嬉しい事だけど、「いいのかそれで?」と心の片隅で思わなくもない。

 けど今は輝男くんだ。


「はい、輝男くん。隅っこに立ってないで抱いてあげて」


「はい。ですが私は、今は護衛担当です」


「じゃあ命令。麟太郎を抱いてお守りしなさい」


「はい。謹んでお受けします」


 命令するやキビキビと移動してきて、「麟太郎様失礼します」とお辞儀までして麟太郎を抱きかかえる。

 たまにこうして側近達ともスキンシップさせているから、麟太郎も嫌がったりしない。

 むしろ麟太郎は、輝男くんに懐いている節がある。そして輝男くんは、無表情のまま麟太郎に顔や耳を弄られるがままになっている。


 そして私の腕の中では、麟華が私の髪の毛で遊んでいる。

 そんな状況の仕上げとばかりに、他の大人達と話していたハルトが近づいてきて、麟華の手から私の髪を優しく丁寧に離させ、自分の顔を遊び道具に提供する。


 他の赤ちゃんの周りでも似たような情景が広がっていて、それを暖かく見つめる大人達と合わせ、幸せで悶絶死しそうなくらいの情景だ。


(この景色を守る為にも、諦観とか達観などしている場合じゃないなあ、と思う私なのだった。てところかな。さあ、明日からも頑張ろう)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 闇の巫女と光の巫女の伏線が回収されたこと 双子ちゃん達もそろそろ積み木遊びかな? 同世代ズにヒロインに輝男くんも久しぶりの登場ですね [気になる点] 大人の世界は、まずは宇垣吉田コンビがし…
[良い点] 玲子様と子ども達と過ごす日常描写があるとほっとします。 [気になる点] 「この映像は鳳家の1939年4月の誕生日会の様子」とかナレーションが付きそう。会話はOFFでもムービーカメラは会場に…
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