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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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633 「大陸戦線・泥沼へ」

 その後、「長沙大火」と呼ばれた街丸ごと1つが焼けた事件の結末は、11月20日にかなり判明してきた。


「蒋介石もえげつない事をするなあ」


 報告を聞いた上でのお爺様の感想がそれ。そしてその感想は、聞いた者の大半の総意でもあった。


「追い詰められた者は、何をするか分からないという事でしょうね」


 同意の言葉を付け加えたのは、少しお疲れ気味の龍也叔父様。


 武漢方面では、陸軍の軍事顧問団の機甲旅団が大活躍し、ソ連の志願という名の強制的に派兵された義勇軍の戦車部隊を壊滅させたのだけど、現地に赴いて直接色々な話を聞いて帰国したばかりだった。

 だから大陸の情報は、他よりも早い最新のものも一部で持っていた。それでも軍事機密で話せない事も多いのだけれど、長沙で起きた大火事に関しては鳳の情報網の方が詳しいと分かった。


 何しろ鳳は、大陸の兄弟達や警備会社という名の傭兵組織により、大陸限定ながら強い情報網を有している。

 事実上のスパイすら各陣営に入り込んでいたり、物資の流れから動きを掴んだりもしている。当然だけど、賄賂などで不正に情報を入手するのは日常茶飯事だ。

 そして龍也叔父様の帰国に前後するように、最新の情報が入手できたわけだけど、「えげつない」事態だった。


 ネタバラシがあったのは、鳳の本邸での最高会議で、報告の為に貪狼司令も加わっていた。

 そして得意の移動式黒板には、色々と詳細が書かれている。それが「えげつない」事態の結果だった。


「それで、共産党の次の頭は誰になる?」


「毛沢東でしょう。前から根回ししてたと思うけど」


「総研の分析でも、同じ回答です」


 お爺様の質問に私が即答し、貪狼司令が頷く。

 そしてそう言ったように、今までの中国共産党の主席だった博古の行方不明、つまり死亡が既に確認された。場所や僅かに焼け残った衣服や持ち物から、本人と判断された。

 それに1週間経っても行方不明では、死んだと考えるしかない。

 また、博古に同行していた他の幹部も似た感じ、というのが今のところの情報。

 一方では、毛沢東など前線指揮官達は長沙にはおらず、どこかの前線拠点にいた。


「他の人の安否は分かる? 政治局の委員とか、かなり巻き込まれたんでしょう」


「まだ詳細は完全ではありませんが、政治局の委員も随分と集まっていたのは間違いありません。ただ、黒焦げの遺体が多く、滞在場所や僅かに分かる特徴、所持品などからの推測も多いという状況になります。しかも市中はいまだ混乱中。死んだか、火事から逃げて彷徨っているか、どこかで隠れているのか、当の共産党ですら困っている様子」


「実は身代わりが丸焦げになって、ほとぼりが冷めるまでか、正式に後釜を決める会議が開かれるまで雲隠れしているかもって?」


「はい。何しろ、現状の行方不明者を額面通り受け取ると、相当数の重要人物が死亡した事になります」


「それなのに、蒋介石達だけでなく広州政府の面々も一人も死んでないとなると、この後が色々大変そうね」


 推測込みの答えを聞く前に、ちょっとトオイメになる。

 何が「えげつない」のかというと、大きく二つ。

 一つ目は言うまでもなく、街丸ごと1つ犠牲にして共産党幹部を暗殺しようとした事。もう一つが、蒋介石がギリギリで広州政府に計画を伝えて逃し、共犯者にしたてた事だ。


 これで汪精衛は、蒋介石と一蓮托生。中国共産党を滅ぼすその日まで、地獄の底までお供しないといけなくなる。そして恐らくだけど、張作霖と和解してもまずは共産党殲滅に移るだろう。

 それが「えげつない」の結果であり当面の予測だ。


 そしてまんまと嵌められた共産党だけど、自分達も似たような事を考えていたにしては油断しすぎだ。まるで日本の共産主義者並み、とすら言える。

 けど、大陸の共産党がそんなに間抜けな筈がない。


 だから共産党の中にも共謀者か、知らぬ振りをしている人がいそうな気配だった。

 何しろ主席の博古は、極左で現実的な行動はしないので、昔から前線指揮官などからは嫌われていた。

 今回の一件は、粛清劇の一環とも考えるべきだ。


「まあ、取り敢えず聞いとこう」


「ハッ。現在死亡もしくは行方不明なのは、政治局委員の博古、周恩来、中央秘書長の鄧小平。それに、政治局候補委員が数名。有力者である劉少奇の遺体は確認済みとの事です」


(うわーっ。『ぜ、全滅じゃないけど』って言いたくなるなあ。それよりもっ! 周恩来に劉少奇、それに赤いチャイナの孔明枠の鄧小平って、仮に赤いチャイナが誕生したとして誰が支えるの? 実務をまとめる人ばっかりじゃん!)


「フム。玲子の夢にはなかった情景か」


 私の顔を確認してお爺様が、まずは最初の感想。

 あまりの惨状に、コメントを挟める人は少ない。けど、まだ未確定だからか、龍也叔父様は淡々としていた。


「だが、将来実権を握るのが毛沢東というのは、夢見に出ていたんだったね」


「はい。けど今回の事件は、将来毛沢東を支える重鎮になるかも知れない人が犠牲者に複数含まれています。だから私は、隠れている人が多いと考えます」


「そうだな。流石に全員じゃあないだろ。街が全部丸焼けじゃあ、詳細が出揃うのももう少し先の事だろうな」


「ですがご当主、この間に長沙以外にいた幹部が権力を掌握する可能性は高いでしょう」


「もしくは、混乱に乗じて生きてる奴を本当に表舞台から降ろしてしまうかもな」


 お爺様ならやりそうだと少し思うけど、口にしたのは別の事だった。


「これで同盟、じゃなくて合作は崩壊かな?」


「するだろ、普通」


「どうでしょうか。ソ連もしくはコミンテルンから指令があれば、共産党は従いますよ」


「それもそうか。ソ連の目的は、日本の目を大陸に向けさせておく事だからな。じゃあ次は、話せる限りでいいんで現地の事を聞かせてくれ」


「分かりました」


 龍也叔父様がそう返し、話し合いはその後も続いた。

 なお、予想した通り、中国共産党と蒋介石らの合作は解消されなかった。長沙の大火自体も、焦土戦術の一環と対外的に発表された。


 一方で、中国共産党のトップだった博古の「戦死」が発表された。他数名も、傀儡政府(張作霖率いる中華民国政府)との戦いで壮烈な戦死を遂げたと発表された。

 けどその後、周恩来、鄧小平の名は聞かなくなり、共産党の次のトップには暫定的という形ながら、各委員からの支持を集めた毛沢東が就いた。


 そして大陸での内戦自体は、降伏も講和もなく、中華民国政府が金と補給で息切れした事も重なって、泥沼の様相を見せるようになる。


周恩来 (しゅう おんらい):

中国共産党の重鎮中の重鎮。中華人民共和国の初代首相で居続けた。

この人がいないと、首相と外交は他に誰がするの? なレベル。

あとは、書籍やネットの海を調べてみて下さい。



劉 少奇 (りゅう しょうき):

中華人民共和国のナンバー2にまで上り詰めるも、文化大革命(文革)で失脚。非業の死を遂げる。実務の人。



トウ小平 (しょうへい)(トウは登におおざとへん)

毛沢東ら建国時の重鎮が死去してから、長らく中華人民共和国のトップに君臨。

文革(文化大革命)で、周恩来が何としても守った人物の一人とも言われる。

また、彼から習近平より前の政府トップ(江沢民、胡錦濤など)は、彼が存命中に指名していたとも言われる。この点から見ると、まるで孔明のようだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、本人が死んでても同じ名前の別人が途中から入れ替わってても不思議でないのが共産党だし…
[気になる点] これ吉田と岸が居ない自民党と同じレベルって事か。地獄だな。ソ連にすら牙を向けそうだ。
[良い点] 更新を継続して頂いたこと [気になる点] 共産党の実務家3人死亡とは! いくら創作物たる小説とはいえ、作者様大胆! さてさて、コレで張作霖、溥儀、川島芳子らによる新たな世界線の 大陸支配が…
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