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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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628 「大陸戦線・再始動」

 お盆のお墓参りで、青山霊園の曾お爺様やご先祖様に麟太郎と麟華を見せにいった。そうして、お盆が過ぎてしばらくすると、大陸が慌ただしくなり始める。

 揚子江中流域の武漢、この時代は武漢三鎮などと呼ばれる地域の攻略を、中華民国が開始したからだ。


 その手前の共産主義者のテリトリー殲滅に時間を取られたので、予定を大きく後ろ倒しとなったけど、数万の共産主義者の殲滅には成功したので後顧の憂いはなく、戦意も高い。

 兵力差は、中華民国軍が公称200万に対して、蒋介石の南京政府軍は公称100万。けど蒋介石側は、実際はその半分もいない。しかも装備も悪く、士気も低い。実際の戦力差は、5倍以上という有様。


 蒋介石が首都を疎開させた武漢地域を守れる可能性は限りなく小さく、南京同様に徹底抗戦できるだけの戦力すらもない。

 要するに、多少の時間稼ぎの戦いをしたら、さらに奥地に逃げるしかない。


 しかも武漢の近くの共産主義者は先に殲滅され、主力は沿岸に近い方の江西省、福建省の山の中。徹底抗戦を唱えているので、蒋介石の頼もしい味方なのに何の役にもたってない。

 頼みの綱の広州臨時政府は、蒋介石がいつまで経っても講和しない影響で分裂状態。中心となる広東省を押さえる汪精衛は講和と停戦を求める姿勢で、さらに奥地の広西軍閥は全方位に対する自衛状態に入りつつあった。



「それで、蒋介石は貴陽に逃げ込むの?」


「最終的にはそうなるだろう。まずは武漢の南の長沙。平野部はここで実質終わりだから、兵士の供給と兵糧、戦費を考えたら、ここで止めたいだろうがな」


 お爺様が子供達の様子を見に来たついでに、私の仕事部屋の応接セットのソファーでちょっとしたトーク中。

 防音がしっかりした屋敷だから、隣の部屋で赤ちゃん達が盛大に合唱してても殆ど聞こえない造りだ。


 けど、大合唱はさっきまでで、私もベルタさんとメイド達と奮闘してきたところだ。今はベルタさんが見守っててくれているけど、赤ちゃん達は寝るか大人しくしている。

 だからこうして、お爺様とコーヒーを飲みつつ生臭い話も出来るというものだ。

 これから数年は、こんな感じで進んでいくのだろう。


「今更でしょう。それよりも、南昌に逃げる可能性は? 長沙より共産党の支援を受けやすいでしょう?」


「無理やり和解させられただけの相手だぞ。お前だったら、気に入らない奴の隣に逃げ込みたいか?」


「絶対いや。けど貴陽だって、さらに奥地は雲南軍閥、北は四川軍閥、南は広州政府から半独立状態の広南軍閥。どん詰まりじゃない」


「まあ、普通なら手のあげ時だな。長沙から広州政府の方に逃げても、広州自身が両手をあげる準備中だ」


 お爺様が言っている間に、「地図」と言って控えている側近に大陸の地図を持ってきてもらう。そしてそれを見つつ、軽くため息が出てしまう。


「武漢が落ちたら、実質『詰み』よね」


「まあな。だが、長沙が維持できるなら、3つの勢力の交通網は辛うじて維持できる。王手飛車取り程度だろう」


「張作霖は、武漢を落とせても、それ以上攻める金がないの?」


「衣食住が現地調達で小銃を持っているだけの昔ながらの軍隊とはいえ、貧乏国が200万も兵隊を動かせばな」


「じゃあ武漢攻略は賭け?」


「張作霖は、日本などに船を寄越せと言っている。それで兵隊を運んで、広東を落とすそうだ。そうなれば広州政府を追い詰められるだろうし、ドイツやソ連の船をあらかた締め出す事も出来る。だから政府も、短期貸し出しや義勇兵扱いで船を出す方向だ」


 「なるほどねー」そう言いつつコーヒーに口をつけ、地図を見ながら少し考える。もっとも、この内戦で私に出来ることはもうない。

 大陸の兄弟達や八神のおっちゃん達に、戦場以外で日本を攻撃しようとする共産党や蒋介石の秘密警察を、しらみ潰しに消してもらうだけだ。

 私としては日本に飛び火しなければ、それ以上は望まない。


 もっともそのせいで、鳳は大陸の共産党の皆様から熱い視線を注がれているそうだ。けど、私が前世の知識で知る共産党と比べると、この世界の共産党は今のところ全然ザコだ。

 別の一隊を組織して、農村の名主を村のはみ出し者のゴロツキに殺させて支配する浸透部隊も、最近ではかなりの規模で潰させている。


 こっちも金で村のはみ出し者のゴロツキを使っているけど、こっちの方が払いが良いので圧倒的優勢って奴だ。

 さらに、共産主義者を死体でもいいので証拠付きで寄越せばという条件で賞金を賭けておいたら、落ち武者狩りよろしくな感じでどんどん駆り立ててくれている。


 そして大陸の人は、主義より金で動く。主義だと、他者から奪ってからでないとお腹が膨れない。しかも主義を唱える連中が上に座るだけだ。

 こっちは、中華民国政府の紙幣である法幣だけでなく外貨も使う。そしてさらに自分達は中華民国政府の工作員で、成功すれば中華民国政府が取り立てると言って回っている。

 これで錦の御旗はこっちのもの。しかも最後の払いは、張作霖に押し付ける事だって出来る。あとは、彼が履行するかしないかだけで、こっちの懐は痛まない。


 それ以前に、昔から共産党のネガティブなプロパガンダはずっとしてきたので、共産党の浸透自体があまり進んでいない。

 ついでに私の前世がらみで言えば、大陸内での内戦に過ぎないからイデオロギーとかナショナリズムとかで共産主義者がイキれない。


 その証拠に、『長征』をしていない共産党は、張作霖の支配領域の華北に全く浸透していない。そして華中からも駆逐されつつある。

 さらに、張作霖が揚子江流域を支配したら、蒋介石よりも共産党殲滅に力を入れるのも確実視されていた。

 その辺りの事情を考えれば、蒋介石が共産党嫌いを我慢しなくても、南昌に逃げる理由は薄い。


 とにかく、武漢の戦いは結果が火を見るよりも明らかなので、今後の政治的情勢次第だ。


(あと軍事的に気になると言えば……)


「日本の義勇軍は?」


「軍事顧問団な。安徽省の共産党の殲滅戦では、空爆と重砲で参加した」


「それだけ?」


「武漢方面に、ドイツ軍装備の戦車隊とソ連軍装備の機械化部隊を見つけたという偵察報告があるから、陸軍は随分と張り切っている。場合によっては、増援を送り込む算段まで始めた」


「ソ連軍装備って、志願兵という名目の実質ソ連軍でしょう。大丈夫なの?」


「規模は限られている。こっちは増強編成の機甲旅団。それに上空援護付きだ。対して向こうは、規模も小さいし装備も限られている。加えて増援や補給がままならん」


「それでも、戦えるだけの戦力はあるわけね。どっから湧いて出たのかしら」


「揚子江と香港あたりは海上封鎖したが、福建省の小さな港町すら陸揚げに使っている。それにドイツは今は大人しい」


 ドイツという言葉で、別の事が思い浮かぶけど、今はそれを棚上げする。


「日本の軍事顧問団は、戦車はうちのやつよね。勝てるのよね?」


「ドイツ製は、『Ⅰ号』という訓練用の豆戦車と2サンチ砲を載せた『Ⅱ号』偵察戦車。露助の主力は、スペイン内戦でもいた『Tー26』とかいう軽戦車だ。だが1個中隊ほど、露助の新型が到着したという噂がある。写真も見たが、確かに新型だ」


「どんなやつ? 最近だと、私資料とか見てないのよね」


「『Tー26』を少し大きくした感じの中戦車。こっちの『九五式中戦車』の改良型に匹敵するやつだ。もっとも、足回りが『Tー26』の発展型だと、機動性ではこっちが上だな」


「こっちの重戦車とは?」


「火力、装甲、機動力のいずれも圧倒と、現状の情報では言われている。顧問団の戦車の半数は『九五式重戦車』だから、龍也も問題はないと言っていた。そもそもこっちは諸兵科連合。向こうは戦車隊単独だそうだ。その上、兵力全体で圧倒している。攻防戦を始めるくらいだから、制空権もほぼこっちのもの。負ける要素はない。これで安心したか?」


 色々と専門用語を並べて言い切って、最後にニヤリと笑みを浮かべる。私が心配そうな顔をしていたんだろう。

 だから小さく両手を上げる。


「ハイハイ、安心しました」


「うん。陸軍は『九五式重戦車』の良いお披露目になると考えるくらい楽観的だ。もっとも、話した龍也は苦笑してたがな」


「龍也叔父様なら当然でしょう。慢心が一番危険だって分かっているわよ」


「だから増援を送り込む算段まで始めたわけだ。まあ、攻防戦は秋にかけて続くだろうから、今からでも間に合うだろ」


 そう言ってお爺様が話を締めたけど、大陸での内戦の推移はほぼ言った通りになった。




武漢三鎮などと呼ばれる地域の攻略:

史実の日中戦争では、1938年8月下旬から10月下旬にかけて、日本軍が武漢地域を攻略。

大規模な戦闘が行われるが、これで日本軍の進撃は事実上の打ち止めとなり、蒋介石は奥地の重慶に疎開。以後、戦争は本格的に泥沼化する。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大陸情勢は戦場に同行しているアメリカメディアが反共・鳳側であることが心強いですな。魔王がどれだけ笛を吹いても民度の低いチンキー共のドン引き蛮族ムーブにはラストフロンティアへの幻想も醒めるで…
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