624 「お披露目」
双子ちゃん達の首が据わった頃、7月14日に生後100日で「お食い初め」を、鳳の本邸の離れで行った。
本当はちょうど100日目の13日にする予定だったけど、100から120日で良いらしいので、多少のズレは気にする事でもない。
そして同じ月の18日には、マイさん達も同じようにした。ベルタさん達も月末の31日にする予定だ。
そしてようやく、子供達はとりあえず鳳の本邸住まいの人たちにお披露目となった。
世の中は、学生達が夏休みに突入しようという頃だ。
もっとも、瑤子ちゃんや虎士郎くんは、入院している時から時折会いに来ている。一方、同世代の外での寄宿舎組は、律儀にお披露目を待っていた。
「玲子さん、晴虎さん、改めてお子様のご誕生、誠におめでとうございます」
居間にハルトと一緒に双子ちゃん達を抱いて現れると、勝次郎くんがピシリとお辞儀を決める。
「ご丁寧な挨拶ありがとう、勝次郎さん」
「ありがとう。けど、そんなに畏まらなくても良いわよ。お祝いも一杯頂いたし」
「そう言って、俺を無礼者にさせる気か? やはり、親しき仲にも礼儀ありだろ」
「僕も似た事を言われたよ」
「俺も。でも、こういうのは大事だよな」
昨日の夕方にそれぞれの寄宿舎から戻ってきた玄太郎くんと龍一くんが、私に半目を向けてくる。
「でも、やっと赤ちゃんらしくなってきたよねー」
「最初に病院で見た時は、本当に小さかったもんね」
そんな私にとって少し微妙な雰囲気を、虎士郎くんと瑤子ちゃんがフォローしてくれる。子供の頃から変わらない風景だ。
違うのは私達だけ。慣れるのはもう少し時間かかるだろうけど、これがしばらく先の穏やかな情景って事になるだろう。
そして今日の昼間は、寄宿舎で外住まいな同世代への顔見せなので、他の人達は最小限だ。
もっとも今は、マイさん、ベルタさんと一緒に子育て中だから、あとで顔を出してくれる事になっている。
何せ翔子ちゃんと紅輝くんが、おやすみ中だ。私達も双子ちゃんが目を覚ましたから、やっと連れて来れたところだった。
「今は二人とも体重が6キロまで増えたのよ」
「生まれた時は?」
初めて見る男子三人が双子ちゃんに一番近くにいて、やっぱりというか龍一くんが聞いてきた。
「2500グラムくらい。普通より500グラムか、それ以上小さかったの」
「双子だからか?」
「出産は予定日より1週間くらい早かったみたいだけど、多分そうね。それにね、生まれてから大きくなるのは普通より早いから、生まれた時小さかったのは私の負担を減らしてくれたんじゃあないかなあ、って」
「そうか。良い子だな。ただ、一言言って良いか?」
「どうぞ」
「玲子、早速親バカになってきているぞ」
「良いでしょう、別に」
「うん。全然構わないが、玲子も人並みの母親なんだなあって思った。そういうところは、母上と同じだ」
「お腹を痛めて産んだ子供なんだから、そりゃあ同じよね。お母様も、麒次郎と麟子の時は大変だったって言ってたし、初産で双子はさぞ大変だろうって、玲子ちゃんを心配してたもの」
「うん。直接も言われた。それに双子出産の先輩だから、幸子叔母さんからは色々話も聞かせてもらった。ただ、親バカついでに言わせてもらえば、私の出産は楽な方だったみたい。実感としては比較しようもないから、実際は分からないんだけどね。それよりも、抱いてみる?」
「そうだね、誰かどうだい?」
私達の会話を隣で静かに聞いていたハルトも、抱いていた麟太郎を軽く掲げる。そうすると、遊んでいると思ったのか麟太郎があどけなく笑う。
私の腕の中の麟華は、初めて見る人達に順番に目を向けていて、相手の反応に応じた表情を向けていた。
「おっ、もう歯が生えたのか?」
「そうよ。首も据わったし、抱いても大丈夫よ。皆んなは、自分ちの下の子達で慣れているでしょう」
「まあな」そう返して、龍一くんが私の腕の中の麟華を、慣れた感じで抱きかかえる。
龍一くん達の双子はこの春から小学生だけど、たまに遊びに行く私と違って赤ちゃんの頃はよく抱いていたので、慣れたものだ。
そして「僕もお願いして良いですか」と、玄太郎くんがハルトから「どうぞ」と麟太郎を受け取る。こっちも一番下の龍三郎くんが1931年生まれだから、抱くのは慣れたものだ。むしろ私の方が、まだ抱き慣れていないかもしれないくらいだろう。
そうして珍しく物怖じした感じで、勝次郎くんが順番を待つ。
「どう、私の子は?」
「どうと聞かれても、赤子は皆可愛いものだろ。ただ、似てない方の双子なんだな」
「一卵性の方がお気に召した?」
「玲子ならあり得そうだが、男女で一卵性はないだろ。それで、男子の方が長子と聞いたが?」
「うん。そうらしい。といっても、1時間の差だけどね」
「そうか。だがなんにせよ、母子ともに無事で何よりだった。これで玲子は、鳳の一族としての大任を果たしたわけだな」
「そうなるけど、まだ産むわよ」
「そうなのか?」
「うん。兄弟姉妹を増やしてあげたいし、今年も来年も結婚する組みがいるから、私達みたいに同世代の子がいた方が良いでしょう」
「そうか。そういうのは、やはり少し羨ましいな。それに俺は実質一人っ子で、従兄弟もこうして会う機会は殆どないから、玄太郎達より腰が引けてしまうよ」
「見てて分かった。ホラ、どっちか、次は勝次郎くんに抱かせてあげて」
「そうだな。ホラ、隣の家のおじさんだぞ、麟太郎」
「お、おう。ち、ちょっと待ってくれ。玄太郎達と違って、俺は抱き慣れてないんだぞ」
「私が教えてあげる。うん、そう。あ、そこはこうして」
瑤子ちゃんがサポートしつつ、勝次郎くんが麟太郎をぎこちなく抱いていく。そして手ぶらになった玄太郎くんが、今度は私の側になった。
「今の話、本当か?」
「子供をまだ産むってやつ? 本当よ。何かご意見でも?」
「いいや。賑やかなのは良いんじゃないか。それにご本家が多い方が、一族全体の安定にも繋がるだろう。けど、あれだな」
「あれ?」
「毎年子供産むとなると、本当に玲子がマリア・テレジアみたいになっていきそうだな」
ずいぶん昔、小さな頃にそんな話をした事が玄太郎くんの言葉で思い出される。けど、私には違う意見があった。
「だから、私的にはエカチェリーナ2世よ。子供を産み終えてから、年齢的にも大人として最前線に立つのよ」
「なるほど。つまり、それまでは平和って事か?」
「その話は、今はしないで。けどまあ、日本は当面は何とかなると思うわよ」
「悪い。それに、ずっと穏やかなままが一番だな」
そういって穏やかに笑みを向けあったところで、「何のはなしー?」とそれまで双子ちゃんを交互に笑わせていた虎士郎くんがこっちに来た。
「玲子がマリア・テレジアかエカチェリーナ2世かって話だよ」
「ああ、子供の頃にそんな話してたね。決着ついたの?」
「玲子が何人産むかだな。あんまり産みすぎると、太りやすいって聞くから程々にな」
「うわっ、玄太郎くんデリカシーに欠けてるわよっ!」
「で、でりかしー?」
「そうよ!」
「そうだよ、お兄ちゃん。けど、玲子ちゃんは、いつまで経っても綺麗なままだと思うよ。鳳の女の人って、お年をめしても綺麗でしょう。紅家の瑞穂大叔母さんみたいに」
年長者でも自然体で綺麗と言い切るのは、いつもながら虎士郎くんらしい。
それに瑞穂大叔母さんは子供が3人いた筈だけど、今でも細身で姿勢もしっかりしている。それに、善吉大叔父さんのお相手である佳子大叔母さんも、確かに体型は崩れていない。
そんな鳳の女性の特徴の話は私も聞いているし、かなり強く期待していた。
それはともかく、しばらく玄太郎くんに女子との会話でのNGを教授していると、扉の側で控えていた輝男くんの声。
「奥様。舞様、ベルタ様が、お子様を連れられました」
「ありがとう、輝男くん。良かったわね、みんな。翔子ちゃんと紅輝くんにも会えるわよ」
世界情勢は徐々に暗雲立ち込めるという感じだけど、鳳の一族は私の知るゲーム世界とは違い、少なくとも今は穏やかだった。




