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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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602 「1937年・年の瀬(1)」

「良いお年を」


 鳳の本邸でも、そう言った言葉が年末には多く聞かれる。主に、正月帰郷する使用人達だ。

 近隣に住んでいる者も多いけど、可能な限り世の中の仕事納めに合わせて休みを取らせる。

 そして屋敷は年末年始モードに入る。


 当然、世の中も年末年始モードで、今年も穏やかにそして賑やかだ。穏やかなのは、日本が戦争当事者じゃないから。賑やかなのは、大陸での大規模な内戦勃発による戦争特需に沸いているから。

 前世の歴史ではどうだったんだろうと、埒もない事を思いそうになる程に陽気だ。


 そんな中、クリスマス明けの26日、満州北部の哈爾濱ハルビンで、第1回極東ユダヤ人大会が開かれた。

 日本が平和でも、世界は平常運転だった。

 なおこの大会、本当は日本で開きたかった。それはともかく、これで鳳が今まで精力的に行って来たドイツなどでのユダヤ人の移民、亡命事業が、見える形で日本政府に引き継がれた事になる。


 中心になっているのは、陸軍の樋口季一郎ら。それに日本の外務省と、松岡洋右が総裁をしている満鉄。満州臨時政府も一枚噛んでいるし、ソ連が気に入らない中華民国政府も形だけ加わっている。

 勿論だけど、鳳も引き続いて加わり続けて人も金も出していた。

 また、既に亡命しているユダヤ人達も多数参加していた。


 そして、日本政府全体でドイツとは一線を引いてる上に、陛下が人種差別政策に心を痛めているという話も漏れ伝わってきている事もあり、日本は全面的に動いていた。

 早速、ドイツが文句を言い始めていたけど、馬耳東風で聞き流している。


 このユダヤ人脱出ルートは、シベリア鉄道ルートとも呼ばれ、シベリア鉄道のオトポール駅から満州里に入り、上海租界へ。さらに上海租界から、アメリカなどを目指す。

 勿論、日本も可能な限り受け入れている。特に満州政府では、知識や技術を持った移民という点で、無制限状態で多くの受け入れを表明していた。大陸からの流民よりユダヤ人移民の方が、ずっと価値は高いという事になる。

 また満州では、農業移民としても受け入れていた。


 この農業移民や労働移民としては、ポーランド在住の人も移民対象としていた。なにせポーランドには、ドイツの数倍の数のユダヤ系がいる。ただポーランドでは、以前からユダヤ系を迫害していた。去年春には、虐殺騒ぎも起きたほどだ。

 そして戦争が起きると、ホロコーストの主な舞台となる。

 そうなる前に少しでもと、私からも以前から色々と働きかけていた。


 そして早ければ、来年3月くらいにはルートが本格的に動き出す予定だった。

 これで、鳳が船便で西欧か北大西洋ルートでアメリカを目指させていたものも日本政府に引き継がれ、現地の鳳グループの関係者は一息つける予定だった。


 そんな、少しは明るい話題もあるせいか、鳳の屋敷内も穏やかな空気だった。

 その屋敷に残るのは、一族の人間と他に帰るところのない側近達と使用人、加えて屋敷の護衛。

 他には、短い間では里帰りが叶わない、海外からやってきている人の一部。ただし海外組は、クリスマスを祝う場合もある。それでも大晦日と1日は、大半を休ませている。

 

 そして最小限の使用人でも何とかなるように、一族の人間は生活無能者には育てられていない。

 着せ替え人形にされる事は多いけど、どこぞのラスト・エンペラーのように誰かに毎朝着替えさせてもらわないと何も出来ないお人形さんではない。

 そんなだから、年末年始は静かにそしてある意味のんびりと過ごす事ができる。


 そして私が子供の頃思っていたのと違い、屋敷の中も世の中も、穏やかで落ち着いていた。

 もっとも、屋敷の離れは年末年始でもあまり変わりはない。



「まさか、公爵夫人まで乳母まがいにしてしまうとはなあ」


「乳母じゃないわよ。一緒に赤ちゃん育てるだけよ。それに経験者だから、とても心強いのに」


「乳をやるんだから、似たようなものだろ。だがまあ、双子ってのを聞いた時は、舞を乳母がわりってのは考えていたし、他の乳母候補もそれとなくは探していたから、助かると言えば助かるんだがな」


「そうだったんだ。ご苦労かけます」


 本家と分家になるから、武士の時代ならマイさんが私達の子の乳母に近いポジションは、ありえなくはない。

 軽く頭を下げつつも、そんな事を思う。


「子供は天からの授かりものだ。それに一族の次の長子だから当然だ」


「そうね。それにしても私も驚いたけど、みんなが時期を合わせてすぐに妊娠出来ただけでも凄い事なのよね」


「まあ、普段の行いのお陰だな」


「……私、行い良いのかなあ」


 そう言われると、悪い事ばかりしてきた自覚の方が強いから、複雑な気持ちにさせられる。しかも善業の方も、私個人の感覚では免罪符がわりな事が多い。

 けどお爺様は、意外に本気で言っているっぽい。もっとも、悪役が板についているからではなかった。


「紅龍を通じて、沢山人を救ってきているだろ。それに新薬の開発と普及に始まって、飢饉対策、景気対策、雇用対策、慈善事業、その他諸々。はっきり言って、やり過ぎだろ。普通は、お上がする事だぞ。善業の積みすぎで、多少悪さをしても極楽確定だろうよ」


「お上じゃあ足りないところをしただけよ。それに全部一族と財閥の為よ」


「薬もか?」


「当たり前でしょう。結核に(かか)ったのは、どこのどなた?」


「そう言えばそうだったな。だが、薬のお陰で、日本では死亡率は大きく下がり、平均寿命が短期間で格段に向上したそうだぞ」


「知ってる。胃腸炎、肺炎、結核、その他諸々を治せるようになったんだから、そうでないと困るわよ。それに薬は、赤ちゃんの為でもあるのよ」


「赤子は、下痢で死ぬ事も多いからな」


「それ以上に感染症ね。紅龍先生の発明以後、他にも効果のある薬も随分と登場してきたし、あとは高い薬の普及と予防接種を普及できれば、赤ちゃんは殆ど死なずに済むようになるわよ」


「そりゃあ凄いな。立派な軍艦を作るより、よっぽど凄いぞ。それじゃあ、予防接種も紅龍に?」


「まだの分も、研究・開発は前からしてもらっている。けど、日本人全員に施すとなると、お金と制度、それに体制の問題があるから、もう少し先の話ね」


「内務省の仕事だな。そう言えば、大陸ででかい戦が始まったし、世の中きな臭いからって、衛生局なんかを内務省から分離独立させて、国民への徹底した厚生事業をするって話があるぞ」


「厚生省かあ。紅龍先生に、随分前に提言してもらっていたけど、やっと動き出したのね。けど、何で大陸の内戦が発端なの?」


「そりゃあお前、有事に兵隊を大量に揃えて、健全な肉体ってやつで戦ってもらう為だ。それに加えて、後方での生産力維持の為だな。衛生事業も、国家総力戦の一環だ。龍也に聞いてみるんだな。あいつ、言ってなかったか?」


 首を横に振りつつ思う。良い事を始める動機が戦争準備の為なんて、聞かなければ良かったような理由だった。


「けど、日本で軍の大動員って話は聞かないけど?」


「そろそろ準備を本格化した方が良いって、考えている連中がいるって事だ。あと、うちの保険制度も褒めてたぞ」


 「うち」と言うように、この時代に21世紀のような国が作った健康保険制度はない。

 そして「うち」にはあった。



ポーランド:

ユダヤ系住民が多いが、反ユダヤ主義も強かった。

ポーランドのユダヤ人は300万人とヨーロッパ最大数だった。(ドイツは56万5000人)

そして第二次世界大戦中、多くの強制収用所がポーランド地域にあった。



第1回極東ユダヤ人大会:

日時、大会名は史実と同じ。この世界のものは、規模、内容がかなり違っている。

史実では、この時期のハルビンを中心に、満州には5000人ほどのユダヤ人が住んでいた。(ナチスのユダヤ人政策の前から)



樋口季一郎 (ひぐち きいちろう):

史実でも、第二次世界大戦前夜のドイツによるユダヤ人迫害を逃れた避難民に満洲国通過を認め、「ヒグチ・ルート」と呼ばれた脱出路が有名。

また終戦前後は、ソ連軍に対して現実に即した抗戦を行った。

石原莞爾と同期。



厚生省:

史実では、1938年1月に内務省より分離する形で誕生。

日中戦争(支那事変)勃発による、総力戦体制構築の一環。



健康保険:

健康保険法は1922年制定。

国民健康保険制度で、日本国民が対象となったのは1958年。国民皆保険体制は1961年から。

組合方式では、市町村運営の規模で1938年に始まった所がある。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・極東ユダヤ人大会や樋口季一郎ら何描かれていたところ ・結局は転生直後?からの紅龍先生との出会いと新薬開発が  今の道を切り拓いていたところ [気になる点] そうか、ドイツじゃゲーリングが…
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