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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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587 「戦略研究所第二回報告会(2)」

「特に質問もないようですので、今年7月から始まる日米対決に至る経緯をかいつまんでご説明していきます」


 そこで挙手。龍也叔父様だ。


「念のため確認するが、現状とは違うんだな?」


「はい、違います。それに現状では、日本とアメリカが戦う未来はどうやっても見えてきそうにありませんので」


「了解した。だが、蒋介石が賭けに勝っていたら、違っていたと解釈すれば良いのか?」


「それも少し違います。可能な限り現実には即しましたが、あくまで日本とアメリカを全面戦争に追いやるのが目的の想定作りです。ですが、あえて申し上げれば、外交上でのサイコロの目が常に低い数字しか出ない状況だとでも御考えください」


「最悪の想定、というわけか」


「恐らくは、最悪の一歩手前くらいですね。最悪の想定は、通常は起こり得ませんから」


「確かにそうだな。続けてくれ」


 「では早速」そう言って一応は資料を手にしつつも、別の手には指示棒を持ち、黒板の一角に書かれた「支那内戦」という文字を指す。


「今回の想定は、今年の春に完成したものです。そこでは、7月から始まった内戦と似た状況が発生すると予測しました。ただし、通常の想定を積み上げても、中華民国の勝利しかありません。覆るとしたら、ソ連が一気に全面参戦する場合くらいでした」


 「つまりソ連参戦が今回の想定か?」。

 誰かがそう言ったけど、その言葉に『軍師』は首をゆっくり横に振る。そうすると、不精気味でやや長髪だから髪が少し揺れている。


「ソ連参戦は、ほぼ確実に日ソ戦争へと発展します。流石に無理筋な想定だろうと、その案は不採用となりました。そこで今回は、今の状況と重ね合わせると、蒋介石閣下が賭けに勝ったという想定になりますね」


 「実際は大負けだがな」「普通、戦争吹っかけないでしょう」。小声でそう言い合っているのは、貪狼司令と涼太さん。声色だけなら、ただのボケツッコミに聞こえなくもない。

 他にも数カ所で、現実に対する厳しい言葉がチラホラ。

 それに対して『軍師』は、最初に聞き流してもと言った通り、気にせず話を続けていく。


「さて、時間も惜しいかと思うので進めますが、大陸での内戦は短期間の激しい戦いの後に、蒋介石勝利、張作霖の満州亡命となります。そして蒋介石が勝利宣言するより早く、張作霖が満州独立を宣言。日本が全面支援する形で、事実上の二国間の戦争へと発展します」


 誰かが「ちょっと無理があるだろ」とは言ったけど、確かに1928年から37年へと一気にジャンプしたような歴史展開だ。

 けど、何か一つで一つの流れに一気に傾くという状況は、有り得ないとは言い切れない。

 ただし現状では、これだけで日本がアメリカと戦争に向かうには材料が少なすぎる。だからだろう、その後も私達も想像した事あるような悪い想定が重なっていく。


 事実上の日中戦争勃発、満州の分離独立、日本単独による張作霖政府の抱え込み状態などで、英米との関係が急速に悪化。短期間で、日本が大陸の利権の多くを一人で牛耳った形になってしまう形になる。

 また一方では、蒋介石を支援するソ連との関係は、それ以上の速度で悪化。互いに満州国境に、大軍を積み重ねあう。


 しかも蒋介石が勝った事で、英米は実利を得るべく勝ち馬の蒋介石に乗り換えてしまう。

 そして日本国内では、張作霖を勝たせるべく自分が前に出る形となる。事実上の準戦時体制への移行が急速に進み、さらには本格的な戦時体制への移行までが進んでいく。


 そうした中、欧州ではドイツが本格的に暴れ始め、再建した軍事力を背景に近隣諸国への恫喝外交を展開。英仏との対立を激しくしていく。


「ここまででご質問は? 無いようでしたら、続きを進めます」


 質問がないのは、あくまで淡々と話を進めるので、歴史的事実を述べているだけのように見えるせいかもしれない。

 そして淡々と、架空の世界の日本が奈落へと落ちていく。


 日華の戦争となったけど、簡単に二色には色は塗り分けられない。主な原因は、共産主義。

 蒋介石側に共産党が属しているので、アメリカは国内世論の関係で中華民国支持には動けず。英仏は、自分たちの大陸利権が侵されない限り関心は薄い。


 当然、蒋介石側は次の一手を打つ。

 今までは華北だけだった戦争状態が、蒋介石軍の攻撃により上海に波及。上海で日華の大激戦となり、これにより各列強の日本への風当たりが本格的に悪化し始める。


 そして日本が戦争に対応する為に巨大な軍備を揃え始めると、ソ連が大きな脅威と認識するようになる。1年で200万の軍隊、しかも機械化の進んだ軍隊が湧いてきたら、ビビるのは当然だ。

 けど彼らの想定では、赤軍大粛清が実際よりマイルドなので、ソ連は日本との対立を激化させてくる。

 そして大陸国家らしい過剰反応は、簡単に戦火へと繋がる。


 1939年春に日本とソ連が、満州国境で激突。ソ連の蒋介石支援に業を煮やしていた日本の強硬論もあり、そのまま戦火が拡大して日ソ間の戦争に発展。

 日本は満州にも大軍を送り込み、極東各地を空爆。戦火は満州、ソ連極東地域へ波及する。ソ連も欧州からの増援を次々に送り込み、全面戦争の様相を呈する。

 だがこれで、日本は中華民国への大規模な攻勢が出来なくなってしまう。


 その後戦争は、補給の負担の差もあり日本側の優位に進み、日本軍がソ連極東の要所を占領。けど地形の為、また戦時体制の未熟の為、日本はそれ以上進む事が出来ず。

 一方のソ連は、大陸国家ゆえの恐怖心から、日本側のかなり権高な和平案に応じる気配なし。日本側も戦争はやめたいけど、世論が強硬なので矛を収めるに収められず。

 大陸共々、戦闘は膠着状態に陥る。


 その最中、ドイツとソ連が突如不可侵条約を締結。ソ連は後背の安全を確保した事になり、日本との対立をさらに深刻化。

 独ソが手を結んだことに世界は騒然。大陸の事はともかく、ソ連との戦争自体は英米はむしろ支持する。


(あー、これは独ソ開戦で強制枢軸ルートってやつかな? まあ、現状からだと、それくらいしか日米対決は難しいよねえ)


 私はすぐに答えに到達した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまでしないと日米開戦が想像できない。 此処まで行った主人公に敬意を
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