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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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585 「戦争準備?」

 夏も終わり9月となった。

 私的には、9月1日の夜に体の主が出現するかもしれないと思ったけど、そんな事はなかった。

 本当に私は、結婚その他諸々を自由にして構わないらしい。一応この体を借りているに等しいので、少し複雑な気分がしないでもない。


 一方で日々の生活は、満ち足りていて怖いくらい。健康には今まで以上に注意しているけど、お肌がツヤツヤだ。

 ツヤツヤの原因は別にもあるけど、幸せすぎて黒歴史になりそうな浮いた言葉を羅列したポエムの一つもひねり出せそうな気がする。


 けど、慢心したら即死フラグがあると考える癖が、私の心と体に染み付いていた。染み付きすぎていた。

 だから日本の情勢、世界の情勢、そして大陸の情勢には、常に細心の注意を払うことを怠ったりはしない。


 大陸情勢は、徐州近辺での戦闘がどんどん大規模化していた。

 そして規模が拡大しているという事は、単に戦闘が激化しているだけではなくて、張作霖軍の増援が続々と戦場に到着している証拠だ。

 それはつまり、蒋介石は初手で失敗したと見て間違いなかった。


 蒋介石らの攻勢は、最初の1週間は犠牲を厭わない猛攻を仕掛けた。けど、張作霖軍を撃破や包囲するどころか戦線は動かなかった。

 第一次世界大戦型の戦闘を研究し尽くしていた日本陸軍の軍事顧問団により訓練され、そして陣地を作っていた現地中華民国軍が頑強に抵抗し、劣勢ながら持ちこたえる事に成功したという事だった。

 別の視点で見ると、日本陸軍の戦術が旧来のドイツ軍の戦術に勝ったとも言える。


 そして毎週のように、中華民国軍は師団規模、軍団規模の増援が続々と決戦場の徐州に到着していた。

 蒋介石の軍隊も次々に投入されていたけど、戦力の投入合戦になると中華民国軍が圧倒的に優位で、やはり地力が違っていた。


 蒋介石側には汪精衛(汪兆銘)の広州臨時政府軍がいるけど、距離、自力での補給能力、元来の戦力などの問題から、内陸の鄭州方面しか担当できず、そちらは最初の衝突以後は睨み合いになっていた。


 共産党の毛沢東、朱徳は、目立った動きは見られない。

 龍也叔父様の分析では、紅軍はゲリラ戦を得意とするけど、戦闘が大規模でしかも真っ正面から殴り合う戦闘なので、撹乱の為に敵の後方に回り込む事も難しく、実質何もできていないのだろうという事だった。


 現状での陸軍、それにうちの戦略研の予測では、10月に入って中華民国軍の主力が全て戦場に到着して押し出せば、1ヶ月以内に勝敗は決する可能性が高いという。

 けど不確定要素もあるし、現状では一進一退だしで、まだまだ予断は許さない。


 それでも戦火が日本に飛び火してないので、このまま内乱で突き進んでくれと祈るしかなかった。

 そしてそう思っているのが、私だけじゃなかった。

 なんと日本陸軍も、結構困っているらしかった。


 主な理由の一つは、陸軍全体の近代化計画が中途半端すぎる事。何せ10カ年計画の第二段階が始まったばかりで、装備と編成が違う師団に分かれてしまっている。

 そして、それよりも深刻なのが、実戦経験の不足と有事に際しての将校不足。


 実戦は満州事変で3個師団が出動した事があるけど、半ば進駐状態で戦闘は一部で、しかも小規模でしかなかった。なにせ、実質2ヶ月で戦闘は停止した。

 当然、将兵の実戦経験は、あまり積めなかった。それでも陸軍全体では、動員や輸送、補給、展開、進撃など多くの教訓が得られたらしい。

 大きな軍団は、動かすだけで大変なのだそうだ。


 ただ、満州事変以後5年、殆ど何もなかった。せいぜい、小規模な馬賊の相手くらい。あとは満州国境での、ソ連軍との小さな国境紛争。

 だから、張作霖への軍事顧問を無償で増やし、アカの討伐などで戦闘部隊を実質潜り込ませていたくらいだった。


 戦闘がないのは私的には実に良い事だけど、陸軍は実戦の経験値が稼げずじまいだった。私の前世の歴史だと、満州事変から戦闘は度々起こったし、第一次上海事変という激戦もあった。


 そして出動や海外駐留で、兵士と将校の数が増えた筈だ。陸軍予算が年々増えた理由も、装備を増やすよりも増やした兵隊を維持する為だったと何かで見た記憶がある。

 宇垣さんの大正軍縮で平時編成22万人にまで削減された陸軍は、日中戦争勃発時点で30万人以上だったという記録があった筈だ。


 それはともかく、この世界の日本陸軍はそれなりに平和だ。だからこそ、軍の近代化、機械化を段階的でも進める事ができている。予算が増えたという理由もあるけど、平時の予算増額など小規模でも戦争があれば簡単に溶けて無くなってしまう。

 だから戦闘がないに越した事はない。


 ただ一方で、実戦経験が積めないというデメリットが発生していた。加えて、軍の規模が拡大していないので、有事に際しての将校、下士官の頭数が足りてない。

 兵隊の方は、今まで実質選抜制になっていた徴兵を少し増やせば事足りるらしい。勿論、平時体制の中での話だ。

 

 そして今の日本陸軍は、大正軍縮後の17個師団体制から、近代化による大幅な改変中だった。

 大きくは、各師団を近代化で重装備、火力を増やして兵隊の数をスリム化し、大正軍縮で減らした4個師団を順次復活させる。さらに戦車師団を3つ作り、24個師団体制にするという計画になる。

 もっとも、世の中が平時のままだと、完了は1943年を予定。そして1934年に始まったばかりなので、まだ3年しか経ってない。


 現状の師団のうち、近代化が完了したのは6個師団。そして近代化により余剰となった将兵から、2個師団を復活する予定だけど、それは本年度から開始予定で紙の上の存在でしかない。

 現状では、一部が近代化して強化されたとはいえ、組織的には将校・下士官の大移動中で、陸軍としての能力は低下しているとすら言えるらしい。


 そんな状態だから、関東軍と緊急派遣準備の師団を中心に、予算の許す限りで平時編成内での動員を急ぎ進めている段階だった。


 現時点での関東軍は、4個師団と戦車師団が1つ。近いうちに、極東ソ連軍の増強に合わせて師団と戦車師団を1つずつ増強予定だけど、今の所はそれ以上の追加はない。

 航空隊は満州に400機。内地に200機がすぐに動かせる。けど、大陸中原での戦乱に備えて、内地の分が簡単には動かせない。それどころか、張作霖が負けたら援軍に向かうので、関東軍は実質半減する予定だ。


 そんな状態で、すぐに動かせる師団のやり繰りで四苦八苦している。

 すぐに動かせる師団は4つ。このうち2つを万が一に備えて待機、2つを関東軍が北京方面に移動した場合に満州に移動する。

 このうち1個師団ずつはすでに移動可能になったけど、現状では様子見状態。


 また、徐州での戦闘で南京政府軍が戦車を複数実戦投入しているという情報を、中華民国軍が伝えていた。

 しかもドイツ製の戦車だという。

 ドイツ軍の戦車は、軽戦車がスペイン内戦でも実戦投入され、ソ連軍戦車を有する人民戦線軍の側が戦闘で敗北したという情報も入ってきていた。

 当然、陸軍は過敏に反応している。


 しかも中華民国政府は、日本や他の支援国に対して、戦車もしくは対戦車砲を寄越せと矢のような催促。

 日本政府と陸軍は、とりあえず動かさない師団の対戦車砲、弾薬、運搬用のトラックと燃料を送る事にした。けど、それだけで済まないのが陸軍だ。


 陸軍は、この時点で9個連隊、総数約670両の戦車を編成表の上では保有していた。実際は、生産の遅れや旧式化した車両の廃棄などで1割ほど少ない。

 このうち、満州の公主嶺に駐屯する戦車第1師団が、戦車4個連隊など合計約300両の戦車を保有していた。新設だけど、日本陸軍最強の部隊だ。

 他は、改変した師団の一部と、久留米、千葉にそれぞれ1個連隊が駐留。千葉の部隊は教導、つまり教育部隊だから、即応的にどこかに送り込めるのは久留米の連隊という事になる。


 そして2年前から『九五式中戦車』を、去年から『九五式重戦車』を、今までにないペースで生産、配備しているので、日本陸軍は戦車戦力に少しだけ自信を持つようになっていた。

 だから自分達が戦闘する場合は、トラック移動で自動車化された師団と合わせて、一気に大量投入して勝負を決しようと考えているらしい。

 機械化軍団などという言葉が、聞こえ始めているのだと言う。


 ただ、燃料弾薬含めての移動、特に一気に海を越えさせるのが大変だと分かって、大慌てになっているのだそうだ。

 日本が多少なりとも平穏だった証拠なのかもしれないけど、準備しとけよとツッコミを入れたくなる。


 そして、何かあれば陸軍も運ばないといけないのが、海軍さん。

 その海軍は、万が一に備えて陸戦隊を送り込めるだけ上海に注いだ。陸戦隊自体の強化も進んでいる。

 天津の方も気になるけど、現状で中華民国軍が優勢に戦闘を進めているので、不測の事態が起きる可能性が高い上海に注ぎ込んでいる。


 当然だけど、艦隊の動員も進んでいる。何かあれば、空母を中心とした艦隊を東シナ海に展開し、重巡洋艦を中核とする艦隊を上海に送り込む手筈になっている。

 それどころか、陸戦隊の増援部隊を送り届けた艦隊が、すでに上海近辺に待機していた。


 そして現状では、全てが準備の段階だった。

 そして全てが準備だけで済めばと、思わずにはいられなかった。


また解説だけで終わってしまった。


__________________


戦争準備:

史実での動員開始に相当する。

史実では、1937年の夏前から秋にかけて海外に出ていた人が、帰国したら国内の情景が一変した事に驚いたという記録が残っている。

史実の日本が、支那事変勃発で総力戦に突入した何よりの証だろう。



日中戦争勃発時点:

総数約33万人で、大正時代の5割増しに拡大している。


一方、この世界の陸軍は、下士官、下級将校の供給面で、既に史実と同じ動員は相当無理がある。

史実の世界では、結果的に張作霖爆殺事件あたりから10年かけて、支那事変の準備をしていた形になるのだろう。

 


24個師団体制にするという計画:

史実だと、『二・二六事件』で邪魔者がいなくなったので、1937年度から陸軍ウッキウキの大規模な近代化と増強計画が立てられた。

平時27個師団を基幹とした増強が実施される予定だった。そしてその軍備で、ソ連に対抗するつもりだった。

だが日中戦争の勃発で全部ご破算。以後、泥縄式の増強と拡大が行われた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 九五式中戦車、九五式重戦車がやっと装備されたところと 本邦のミリ成分がマシマシなところ [一言] 黄先生はまだご健在なんですかね?
[良い点] まぁ実戦ばかりだと練度が逆に下がるということもありますし。 訓練で出来ないことは、実戦でもできないわけで。
[良い点] このままで済めば良いと思う。 事が有れば近隣の日本を列強がせっつくからなあ
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