578 「二次会?(2)」
「相変わらず男子ばっかりねー。瑤子ちゃんも大変ね」
「玲子ちゃんが1抜けしちゃったせいよー。なんてね。お兄ちゃん達の面倒は、今日は私が見るから好きにしてて良いよー」
「ありがとー」
「どーいたしましてー」
私がハグしにかかると、瑤子ちゃんはちゃんと受け止めてくれる。結婚しても、これが確認できただけで十分な成果だ。
そしてそんな私を、いつも通り見返してくる面々。
「結婚しても何も変わらないんだな」
「結婚したから変わるべき、の間違いじゃないのか?」
玄太郎くんは私を相手にせず、龍一くんの能天気なコメントにツッコミ入れている。
「ボクは、いつもの玲子ちゃんで、少しホッする」
「そうだな。結婚したからと言ってすぐに変わるわけもないし、私的な場くらいいつも通りで良いんじゃないか」
虎士郎くんはいつも通りだけど、勝次郎くんは一見優しげに思えるけど、何というか少し元気がない。
こうして見ると、私との将来を考えていた幼馴染は確かに勝次郎くんだけみたいだ。ただ、瑤子ちゃんの前で、この状態はダメ出ししてやらないといけない。
他の男子にしても、姫乃ちゃんに関心を向けても良いと思うけど、マイさん達みたいに身分の差を超えてまでってのを、どうしても考えて対象から外すんだろう。
そうした中、今日も側近達の相手をしている輝男くんが、実は女子との距離が一番近い。付き合いの長いみっちゃんともよく話しているし、同じ書生という事で姫乃ちゃんとの相手も自分からしている時もある。
ただ、他の側近達も含めても、等距離に付き合っているというのが、無口無感情な輝男くんらしい。
そんな状態なので、瑤子ちゃんとハグしあいつつ、ジト目で男子どもを見る。
「私のことは別にいいから、男子ばっかりで固まってないで、勝次郎くん以外は女子とも話してきたら? 私の側近達も良い子達よ。勿論、姫乃さんもね」
「……この集まりは、そういうものなのか?」
意外に真剣に龍一くんに返された。側近連中も結構和気藹々としているし、虎三郎兄弟姉妹は言わずもがな。私の言葉に反応しても不思議はない、かもしれない。
「誘う時に言ったように、式に出てくれた年の近い親しい人を誘っただけよ。気にしてたのなら、ごめんなさいね」
「気持ち悪いな。謝るなよ。でもまあ、玲子が早々に結婚とは、数年前には考えてもみなかったな。あっ、多分俺が一番最後だろうから、みんなは気にせず先に結婚してくれよ」
「僕も、大学を出て社会に出て数年してからだろうな。虎士郎の方はどうなんだ?」
「お友達くらいの女性はいるけど、まだまだ分からないなあ」
「それで、龍一は何故自分が最後なんだ?」
勝次郎くんの疑問は、私も思ったのでウンウンと頷くと、さも当然と返された。
「父上のように、若くして相手が決まっていたら別だが、普通の陸軍将校は大尉くらいになったら見合いか親が決めた相手と結婚するのが普通だからだよ」
「お兄ちゃん、それ、前も話してたよね。好きにしたら良いけど、私より後ってのはよしてよね。ねえ、勝次郎さん」
「そうだな。俺も玄太郎くらいの計画だから、それより先の方がこっちは気楽で良い」
「それじゃあ、私の結婚は気楽なの?」
「気楽とか以前の問題だな。玲子は、相変わらず先に進みすぎだ。ただ、競い合うものでもないから、追いついてやるとも言えないしな」
少し挑戦的に勝次郎くんを試して見ると、軽く肩を竦められた。少し元気がない理由は、俺様ムーブが出来ないからという事らしい。
だから、そういう事にしてあげることにした。
そしてその後も、もう少し男子どもを弄ってから、一族以外の塊へと向かう。主に私の側近達と、輝男くんがいるからだろう姫乃ちゃんも一緒だ。
「楽しんでくれている? 交代とはいえ、私の祝いの延長だから遠慮はしないでね」
「勿体ないお言葉、痛み入ります」
真っ先に頭を下げるのは輝男くん。もう散々おめでとうは言われたから、今更その言葉はない。他の子も同じだ。ほぼ例外なのは、特待奨学生の書生である姫乃ちゃんくらいだろう。書生というだけでは、私の式に呼べなかったからだ。
その点側近は仕事で出席に近い状態だったから、その点が輝男くんとの違いになる。
やってきた時にも、「この度はご結婚誠におめでとうございます。また、本日はお招きいただき、ありがとうございます」と、畏まって挨拶されたものだ。
「姫乃さんも、無理に呼んだみたいでごめんなさいね」
「いえ、とんでもありません。ただの書生なのに、このような席にまで呼んでいただき、ありがとうございます!」
そして勢いよく、ほぼ90度のお辞儀。こういうところは、本当にゲームのキャラと同じだ。とはいえ、ゲームで悪役令嬢に頭を下げる場面は皆無だから、内心ではいまだに苦笑してしまう。
もっとも、彼女が鳳の本邸に来て1年以上経つけど、未だに私との対立はない。むしろ関係は良好だ。
ただ、念のため調べてもらったら、鳳学園内での婦人運動の学生版とも言える活動に参加するようになっている。
女性の社会進出の面で、私と同じ方向を向いているからなのだろう。
もっとも、鳳学園内の活動は女性の権利拡大と言っても右寄りだから、史実のように日本が全面戦争に首を突っ込んだ場合、婦人会とかで怪気炎を上げることになるのかもしれない。
私としては、姫乃ちゃんが私や鳳を攻撃しなければ取り敢えずそれで構わないから、左巻きが学園や生徒の周りに近寄らないようにだけ、鳳の警備会社などに注意してもらっている。
そんな婦人運動の事などを姫乃ちゃんと交わしていると、姫乃ちゃんがポツリと妙なことを口走った。
「それにしても、玲子様が大学に行かれないのは、やっぱり残念です。鳳の学園なのですから、制度を変更して通えるようになされても良かったのに」
「私の事はともかく、年齢や職業、結婚など問わずというのは開明的ね。流石は姫乃さん。紅家の方々に、検討出来ないか相談してみたいと思うわ」
「あ、いえ、単なる思い付きなのに恐縮です!」
(けどそれって、現状だと特権使えって言っているようなもんよね。姫乃ちゃんは庶民代表でしょうに、それでオーケーなの? ……いや待って。これってゲームだと、悪役令嬢に感化された闇落ちルートってやつなんじゃあ?)
「あの、何か?」
「いいえ、その調子で今後も頑張ってね」
「ハイッ!」
またピシリと頭を下げるフワフワの髪を見つつ、内心そんな感想が頭を過るほどの言葉だ。
もしかしたら、ゲーム『黄昏の一族』の真逆、体の主のループ中の真逆に姫乃ちゃんが向かい始めているのではと気付かされたのが、鳳の男子どもの朴念仁具合よりも印象的なパーティーだった。




