577 「二次会?(1)」
世の学生達は夏休みに入った。
私には関係なくなった、最初の夏休み。
私の方は、私生活ではセレブな新婚生活を満喫しつつ、仕事では主に大陸方面の情報収集と対策検討に力を注いでいた。商人なので、商売の方も手は抜けないけど、この夏は例外だ。
私の新たな日常の方も、同じくらいに再始動した。
新婚旅行から帰って1週間は、私にとっては半ば休暇状態だったからだ。
大陸情勢は、くすぶった状態ながら動きはなく、全ての陣営が本格的な状況到来の準備って感じなだけで過ぎていった。
そして次の週が明けると、私達が新婚旅行に行っている間から研修に出ていたマイさんが戻ってきた。
結婚式に出席していたアメリカからの客も、ぼちぼちと日本各地の観光を終えてビジネスの話をし始めるようになった。
そして1学期の終業式を終えると、お芳ちゃん達学生組の側近を私の時間に合わせて仕事を手伝わせる事が出来るようになる。
とはいえお芳ちゃん以外は、相応に勉強もしないといけないから、今は学業を優先させている。
一方で鳳の子供達は、夏休みに入ると玄太郎くんが屋敷に帰ってくる。同じように勝次郎くんも寄宿舎から戻ってくるから、会いやすくなる。
勝次郎くんは瑤子ちゃんと会うのが目的となるだろうけど、会う機会が増えるのは間違いない。
ただし、夏休みが普通の学生より少ない龍一くんだけ、まだ軍の寄宿舎暮らしだ。
虎士郎くんは音楽学校、瑤子ちゃんは鳳の学校だから寄宿舎などないので、前の日曜日には会って色々と話した。
ただそれまでは、シズとリズ、それに側近達しか話し相手はいない。それですら、みんな新婚の私とハルトを気を使っていたから、こっちから話しかけないと相手をしてもらえなかった。
昼間はハルトが仕事でいないのだから、相手をして欲しいというものだ。シズとリズですら、私達に気を使っていた。
いつも通りなのは、多分輝男くんだけだ。ただ、元から反応が薄く向こうからは滅多に話しかけてこないので、誤差範囲でしかなかった。
それ以外の鳳の本邸内の動きだと、姫乃ちゃん達書生が夏休みに入ると実家に帰っていった。
けど、新婚から私はハルトだけとの食事が多いから、姫乃ちゃんと話すどころか見かける事すら数えるほどだったから、寂しさとかは逆に感じなかった。
そして夏休み最初の日曜日、鳳の本邸の広間に鳳の蒼家の若い衆、特にカップルを中心に集められる限り集めた。
パーティー形式は、人数が一定以上だから立食形式。人同士が交わって色々話すにはこれが一番便利だ。
パーティーの趣旨は、結婚式に出てくれたお礼というのが表向きの趣旨。本当は、私とハルトを話のネタにするべく、周りが集まってきただけだった。
「改めて、玲子さん、晴虎さん、ご結婚おめでとう!」
「「ご結婚おめでとー!」」
3週間開けたけど、私的には21世紀の結婚式で何度か顔を出した二次会って気分だ。
もっとも、気心の知れた新郎新婦のご友人による集まりってのが21世紀の二次会だろうけど、ほぼ親族というのが私達らしい。
そして集まった面子も、私的にはいつもの面子だ。鳳の子供達に、瑤子ちゃんの彼氏ということで勝次郎くんも。それに虎三郎兄弟姉妹とその相方。それに側近達。若者達という事なので、世話をする側もシズ達が中心で、時田ら執事達は少なくとも表向きは関わっていない。
そして側近は、私だけでなくハルトの側近も来た。とはいえ2人だけで、挨拶以上は世間話を少しする程度でしか交流もない。
また、側近だけど書生の輝男くんも参加するという事で、姫乃ちゃんも呼んだらやっぱり来てくれた。こういう物怖じのなさは、姫乃ちゃんらしい。
私的には、もう関わりないという気持ちが強い乙女ゲームの再現の為でもあり、また鳳の子供達の「余り物達」に多少でも男女のお付き合いのチャンスを与えてあげたいからだった。
「本当は披露宴の後にでも、この集まりをしたかったんだけどね。みんなにも、わざわざ来てもらう必要もないし」
「どうしてやめたの?」
何故今と問われたのでそう答えると、一番興味深げなのは瑤子ちゃん。多分、サラさん、ジェニファーさんはマイさんから聞いているからだろう。私もそうだったし、ハルトも小さく頷く。
「マイさんから色々聞いたの。それで、マイさん達以上に大変だろうと思ったし、実際計画してみたら大変だって分かったから、無理はしない事にしたの。ね」
「ああ。実際、明治神宮での式は余裕があるくらいだったけど、披露宴は心身共にってやつだった。殆ど何も食べられなかったし」
「披露宴って、言葉通り見せ物だものね」
マイさんの実感こもった言葉に、サラさんは意外そうに私を見る。
「玲子ちゃんでもそうだったの?」
「ハルト程じゃなかったけど、色打掛着ている間は念のため口を濡らす以上は殆どしなかった」
「なるほどねー。豪華な着物は色々と大変だもんねえ」
聞いてきたサラさんが、ちょっと引いている。
案外気楽そうにしているのは、来年に式を挙げるジャンヌだ。
「サラは教会で式? やっぱりキモーノ着たいの?」
「こう見えて、日本人だからねー」
「リョウさんとジャンヌは、やっぱり教会?」
「うん。僕も洗礼は受けているし、家の近くの教会になるだろうね。あそこには礼拝にも行くから」
「となると、披露宴は別の日?」
「その可能性が高いかな。漠然と、土曜に式で日曜披露宴くらいに考えているけど」
「そうですね。一日で両方するのが大変なのは、マイとレーコで良く分かりました」
私の経験も今後に活かされるらしい。
そしてサラさんまでもが続いた。
「だってさエドワード。私たちも同じ感じにする?」
「そうですね。夏なら、両親や親族も長期で呼びやすいですから、日数をかけても問題ないと思います」
その後も既に予定が決まっている虎三郎兄弟姉妹が、自分たちの結婚式に向けての話に花を咲かせる。
既にゴールインしているマイさん達は、結婚後の生活も含めて相談役だ。
そしてそんな情景を、別のグループが遠巻きに聞いていたり、違う話をしている。この輪に自然に入っていけるのは虎士郎くんと瑤子ちゃんくらいだから、まあ仕方ないところだ。
そして私達は招待側で、特に私と関わりが深い人達だから、話がひと段落したら虎三郎兄弟姉妹は任せてそちらに向かう。
とはいえ側近連中に無茶振りしても仕方ないので、向かうのは私の同世代達だ。




