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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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527 「戦略研究所第一回報告会(2)」

「結論から申し上げますと、今後5年以内にほぼ確実に世界規模の戦争が勃発します」


 七三丸メガネの『参謀長』が断言するように言い切った。

 どうやら、この人が話を進めて行くらしい。私は、肘をついた左手にほっぺを載せて、何を見せてくれるのかと視線を向ける。


 この人達、南次郎所長を含め研究所の誰にも、私の『夢』の話はした事はない。そこまでの信頼関係、主従関係、血縁関係にないからだ。

 こちら側の聞き役は、私、時田、マイさん、お芳ちゃん、それに頭脳担当の側近二人になる。私達だけでは女子だけになるから、時田に来てもらったという面があった。また、他にシズと護衛の使用人達数名が付いてきているけど、基本的に人数には入らない。


「理由の詳細については、資料をご確認下さい」


「では、資料以外の事をお話し下さい。その為に、やって来ました」


「はい。勿論です。そこで、こちらから長々とお話しするよりも、皆様からのご質問にお答えしたいと考えております。その為に、報告書の方は事前にお渡しさせて頂きました」


「はい、既に拝見させて頂きました。とても興味深いと思いましたし、幾つか疑問点もありました」


 そこで私達の側から小さく挙手。マイさんだ。


「起こりうる戦争そのものについての報告書はありませんでしたが、いつ拝見できますか?」


「机上演習は、まだ敢えて報告しておりません。その一部については、この質問が終わり次第、お見せしたいと考えております」


「どことどこが、いつ戦うのかについての報告がないのも、皆さんに多少は楽しんで頂ければと考えたからです」


 『参謀長』の言葉に『軍師』がそう付け加えた。

 自慢のおもちゃを見せる子供の顔だ。


「それじゃあ、最初の戦火はどこから?」


「支那です! 最短で数ヶ月以内、最長でも1年以内に大規模な内戦状態に突入すると結論が出ました!」


 元気な『前線指揮官』が、立ち上がって断言してくれた。

 数ヶ月後と言えば、私的には悪夢の七夕が数ヶ月後だ。


「大陸で内戦が起きるとしても、それは内戦であり戦争ではありませんよね?」


 『前線指揮官』にお芳ちゃんがツッコミを入れると、我が意を得たりとばかりに強く頷く。


「はい。ですが、張作霖の後ろには日英米が、蒋介石の後ろにはドイツ、ソ連がいます。スペイン内戦と同じく、そしてスペイン内戦とは違う政治体制の勢力同士による代理戦争となるでしょう!」


「つまり、民主主義的勢力と、権威主義的勢力による戦争の前哨戦だとおっしゃるのですかな?」


 時田が珍しくツッコミを入れた。こう言う場面では珍しいけど、日清戦争から戦争には深く首を突っ込んで来ただけに、戦争という事そのものに敏感なのかもしれない。

 そしてその質問に、『前線指揮官』がさらに答える。


「そうです。スペイン内戦でも見られるように、大陸での内戦の結果、両勢力の溝が深まるのは必然。大規模な戦争はその先に待っていると考えられます」


 言い切ると時田が「なるほど」と矛を収めた。

 けど、私には疑問がある。こいつらが、私の夢の景色の一部に到達したのか気になったからだ。

 そう、『欧州情勢は複雑怪奇』の現象だ。


「今のお話だと、ドイツとソ連が手を組むように思えるのですが?」


 「そうなりますな」とは『スパイ』のお言葉、大人なイケメンボイスなので、ふてぶてしい態度も絵になる。


「独伊枢軸とソ連が手を組むと? スペイン内戦では事実上の敵同士じゃないですか」


「ですが、ドイツとソ連には、共通の気に入らない国があります。それを片付ける為、そして互いの後背の安全を一時的に確保する為、何らかの形で手を結ぶ可能性がある、と結論が出ました。大陸での情勢は、その関係を深める良い機会だろう、と」


 そう答えたのは、『スパイ』の視線を受けた『軍師』。

 ドイツとソ連が手を組むという、普通に考えたらありえない情景を見せることができて、かなり満足そうだ。

 ただ、彼もしくは彼らの望んだ表情や反応を、私達は見せていない。何しろ私の夢の情景は、この場にいる護衛担当以外の全員が一度は私から聞いている事だった。

 『独ソ不可侵条約』。そしてその先の、ドイツとソ連によるポーランド侵攻。それによって半ば連鎖的に発生する、『第二次世界大戦』を。


 そんなんだから、向こうのメンバー達も私達を驚かせ損ねたといった表情を数名が浮かべる。

 そして代表して『軍師』が再び口を開いた。


「お嬢様達は、既に同じ結論に達しておられたのですか?」


「有り体に言うとそうなります。確かにドイツ、ナチスにとってソ連は仇敵です。アドルフ・ヒトラーも自らの著書で、まあ色々書いています。ですが二つの国は敵も多く、どちらも独裁国家です。一時的に手を結ぶのも、可能性の一つだと見ていました」


「つまりお嬢様方は、日米英防共協定と欧州諸国のドイツへの警戒から、同じ回答を導き出したのではないと? こいつは、驚いた」


 大きめのリアクション付きで『スパイ』が驚く。というより、驚くフリをする。

 それには軽く笑みを返しておく。


「歴史を見れば、欧州情勢は何が起きるか分からない。複雑怪奇な歴史的事件も、一つや二つではありません。長い時間をかけての総研などでの研究や分析で、同じ可能性に行き着きました。

 皆さんが、この短期間の研究でドイツとソ連が手を結ぶという予測に至ったのは、正直驚いています。研究所を開いて正解でした」


 「お褒めに預かり恐悦至極」。『スパイ』は優雅な西洋風の一礼でそう返した。それで周りも小さく笑みを浮かべたりする。

 そして一通り静まるのを待ち、私は言葉を再開する。


「それで皆さんの予測では、ドイツとソ連がポーランドに侵攻した時点で、世界規模の戦争が勃発すると?」


 「勿論、大陸情勢とポーランド問題だけが原因ではありません」とは、『主計係』の言葉。

 このメンバーの中では一番陰キャっぽいけど、髪に隠れた広いおでこは頭の良い証拠だろう。


「ドイツかソ連の膨張外交ですか?」


「はい。両方考えました。ですがソ連は、大規模な政治的粛清が開始されたので、不確定となりました」


「なぜ? スターリンが独裁体制を強め、内政の安定を得て一気に外に押し出す可能性は高まるのでは?」


「その点は我々も考慮しましたが、政治家の粛清だけでは軍との関係が不確定です。ですが、軍にまで大規模な粛清を実行すると、軍の機能回復が行われるまで膨張は難しくなります」


「道理ですね。当面は大人しいと?」


「ソ連に関しては、大人しい可能性が高いでしょう」


「ドイツが膨張に転じる理由は何でしょう? 今はドイツ国内は好景気で、政権も安定しているように見えますが?」


 そう聞いたのはマイさん。

 マイさんもドイツの偽装国債、メフォ手形の事は既に周知され始めているけど、そこにはあえて触れずに切り出したわけだ。


「はい。ですがドイツには、領土問題があります。領土の回復、奪回もヒットラー政権は目標にしています。軍備増強がある程度進んだ段階で、軍事的恫喝に出ると考えられます」


(その線で来たか。確かに、普通に見ればそれが正解よね。メフォの事があったとしても、まさかインフレを避ける為の国丸ごとの強盗目的とは普通は思うまい)


「お嬢様は何か?」


 私の顔を斜めに見つつ、『スパイ』がそう問いかけてくる。向こうのメンバーの中では、一番人を見ている。


「いえ、ポーランドだけでなく、チェコスロバキアとも領土問題を抱えていたと思ったのです。チェコスロバキアも、西欧諸国が守るのではないですか?」


「はい、その通りです。また我々は、ドイツ民族という点、イタリアとの関係改善により、オーストリアに対しても何らかの行動に出るとも予測結果が出ました。もっとも、オーストリアは戦争理由にはならないでしょう」


「そうですね。では次に、ラインラント進駐でもフランスはドイツに戦争を仕掛けませんでした。ポーランドやチェコスロバキアで問題が起きても、イギリス、フランスは動かない可能性は高いのでは?」


「ラインラントはドイツ領内、オーストリアはドイツ民族の国、係争地域を持つとはいえチェコスロバキア、ポーランドとは条件が違います。この辺りの件は、次の報告書で詳細をお伝えいたします」


 「分かりました」と返した相手は『参謀長』。この場で無駄な長話は、あまりする気はないというサインも含めて言葉を返しておいた。

 そして改めて幹部達に視線を向けてみると、そろそろ本題に入るって雰囲気だった。



悪夢の七夕:

1937年7月7日、「盧溝橋事件」。

日中戦争の発端とされる事件が起きた日。

実際は、その後共産主義者の非道なテロが続き、第二次上海事変が本格的な発端。

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鳳戦研の幹部級メンバーは銀英伝モチーフかな・・? 軍師はヤン・ウェンリー 参謀長はムライさん 前線指揮官はビッテンフェルト 主計係はオーベルシュタイン スパイはシェーンコップ と予想
[一言] 盧溝橋もどきとアンシュルスまでは予測できた感じですね ミュンヘン会談がこの世界でどうなるか、歴史通りかチャーチルが頑張って歴史を変えるか辺りが見所でしょうか トンデモルートとしては盧溝橋もど…
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