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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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524 「1937年度予算審議前(1)」

 1937年を超えてからの冬は、比較的のんびり過ぎていった。

 それでも結納の諸々を、余裕のある2月に済ませたりはした。これで結婚は、完全に確定路線へと進んだ事になる。


 それでも私としては、世界情勢、日本を取り巻く情勢は嵐の前の静けさと言った気分になる。

 けど、前世の歴史での日本を取り巻く情勢はもっと大変だったと、覚えている資料から知っていた。


(確か、陸海軍の法外な予算を通す為の『食い逃げ解散』とか、宇垣さんが陸軍というか石原莞爾の反対で首相になれなかったのって、日中戦争の前だからこの辺りよね)

 

 ぼんやりと考え事をするけど、この世界との違いが大きくなり過ぎていて、かえって実感が湧き辛くなっている。

 何しろこの世界では、宇垣一成は何年も前から外務大臣、内務大臣を務め、去年の3月からは総理大臣だ。その前に長らく陸軍大臣を務めたし、日本の首相としては満点の経歴とすら言える。


 能力の高さを考えたら、「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」って気がするくらいだ。

 ただし前世の歴史の中で本当に全部しちゃったのが、東条英機。通称『東条幕府』と言われるくらいに大臣を兼任した。歴任じゃなくて兼任なのが、色々と終わっている。

 そして幸いな事に、この世界ではそんな事態は起きそうにない。


 それはともかく宇垣内閣は、第二次ロンドン海軍軍縮条約、日米英防共協定を結ぶなど、私的にはナイスな外交成果を積み上げ、好景気のお陰もあって順調な政権運営が続いている。

 ぶっちゃけ、私は何も心配する必要がないくらいだ。


 陸軍も、事実上の粛清で精神主義的な者達、急進的な者達がほぼ一掃された。政府と二人三脚で漸進的な近代化を図るという、永田鉄山主導の方向で進んでいる。

 私達が頑張って日本の経済力と工業力を育てた影響はあるけど、今までの政治の変化がもたらした結果でもある筈だ。


 そしてここまでくれば、日本国内の事情で極端に暴走して英米に殴りかかるという事態は考え難い。


(普通に考えれば、「勝ったも同然」よね。でも、大陸情勢がなあ。泥沼の戦争だけは、マジやめてほしい)


 そうは思うけど、私の前世の歴史より状況は随分とマシだ。

 国共合作が成立したとしても、大陸全体で見ると張作霖の中華民国政府が、国共合作の前に立ちふさがる。張作霖を倒して中華民国の主権を手にしない限り、日本に殴りかかる意味がない。排外主義という面で、多少の民衆人気を得るのが関の山だ。

 しかも張作霖も日本も、英米側についている。それに引き換え国共合作の方は、バックにいるのはドイツとソ連。グループ分けの予選は済んだも同然とすら言える。


 仮に第二次上海事変のような事件が起きても、日本が叩かれる要素はすごく薄い。そしてここで勝ったら、日本としてはそれで終わりだ。

 南京政府は地方政府、軍閥に過ぎないから、政治的に南京に攻める意味がない。張作霖の中華民国政府に、蒋介石を叩けと言って終わるのが筋だ。


(こうやってぼーっと考える分には、もう日本の破滅フラグは全部潰れたように見えるんだけどなあ。あとは、ドイツが防共協定に加わる可能性だけど、これも望み薄だし)


 ドイツというかリッベントロップが、今も防共協定に入りたいと主にイギリス、日本に働きかけているけど、見事に空回りしている。

 遠くから見ている分には、もはや名人芸級だ。


 日本側は最初に「お前が交渉テーブルに各国を連れて来い。話はそれからだ」と伝えたので、相手にしていない。

 イギリスは、チャーチルがヒトラー嫌いで妙に頑張って反対している。そもそもドイツの防共協定の目的が、欧州大陸へのイギリスの干渉の排除だとバレているから、イギリス自体が好意的なわけない。この点、ドイツの身から出た錆と言える。


 最後の頼みの綱はアメリカだけど、ルーズベルト政権は無事に二期目に入ったから、防共協定への関心を無くしていた。選挙戦に勝つ為のものだから当然だろう。

 ハル国務長官も、ドイツに対してフランスを同じテーブルに連れてきたら考えるとか言っている。けどそれは、イギリスを椅子につかせるより無理ゲーだ。

 ハル・ノートのハル長官が頼もしく見えてくるのは、なんとも不思議な気持ちだ。


「まあ、ぼーっと考えてても、下手の考え休むに似たりってやつよね」


 少し早く目覚めたので、目覚まし時計がなる前に体を起こして一日を始める事にした。

 そしてその日のうちに、貪狼司令からちょっとお話があるという事で、ほぼいつものメンツで鳳ビルの地下へと赴く事になった。




「陸海軍が予算編成でゴネ始めた? なんで?」


 総研の地下室で、貪狼司令からの言葉を聞く。今日はギャラリーが少ないせいか、それとも忙しい合間なのか、いつもの黒板がない。

 それでも私の疑問に答えてくれるので、ありがたい話だ。

 ただ、予算審議目前での揉め事は看過できない。しかもお兄様から聞いている限り、陸軍側に問題はなさそうだったので尚更だった。


「最初は、海軍が大規模な軍備計画を行うので、陸軍は少し我慢してもらえないかという話が政府内で出てきました」


「そりゃあ陸軍が怒るわよね。それで陸海軍は、現時点でどれくらいの要求してるの?」


「陸海軍合わせると、21億円を超えます」


「一昔前の国家予算並みね。予算に対する比率は?」


「来年度予算の総額は、恐らく50億円の大台に乗りますので、4割を少し超える程度かと」


「おーっ、50億超えるか! ん? ちょっと待って、経済成長率が本年度も2割超えるの?」


「はい。まだ最終的な数字は出ておりませんが、総研の分析では20%から22%を予測しております。また1931年からだと、200%を超える経済成長という事になります。御目出度うございます、お嬢様」


 そこで貪狼司令が深めの一礼をしたので、部屋にいた数名、と言ってもほぼ身内の、お芳ちゃんとマイさん、涼太さんが拍手してくれた。

 私はちょっと背中を押したくらいにしか思ってないけど、嬉しい結果が出たのは確かだ。


「日本人全員の努力の結果よ。けど、1931年度って経済が落ち込んだ時でしょ。本当に二倍になるのは、あと一年先ね。しかもそれ、名目の国民所得でしょう。

 それに成長が大きい分、インフレも大きいでしょう。実際は3倍くらいにしないと、実質所得では二倍の所得増加にならないのよね。500億円になったら、数字的には一つの通過点ね」


「通過点ですか」


「ええ、そうよ。アメリカ並みとは言わないけど、欧州列強並みの一人当たり国民所得になって、初めて先進国でしょ。そこを目指さないでどうするの?」


 ここで、ちょっとドヤ顔を決めておく。

 けど、先進国の道は遠い。今聞いた数字で、一人当たりの実質GDPでようやくイタリアを超えた程度。経済面での列強として、やっとスタートラインだ。しかも、それまでを考えたら、欧米列強とでは社会資本など資産の蓄積が違う。


 それでも、このまま超高速での経済成長が仮に続けば、5年後には本当の先進国の仲間入りも夢じゃない。けど5年先だと、どう考えても戦争が起きている。

 だからドヤ顔も虚勢みたいなものでしかない。


「確かに。それにしても、お嬢様とこうしてお話をするようになった頃は、半ば夢物語を聞いているようでした。ですが、もはや手が届くところまで来ましたな」


 貪狼司令が、珍しくちょっと遠い目をしている。考えてみると、この人との付き合いも結構長い。このビルが出来てからだから、かれこれ6年以上にもなる。

 もっとも、この人と感傷にふけっても仕方ない。だから、軽く肩を竦めるだけに留めた。


「届くだけじゃダメよ。掴まないと意味ないもの」


「全くですな。おっと、話を戻しますが、海軍が11億円に対して、陸軍が10億を要求。これに対して政府は、海軍10億、陸軍には8億を求めております」


「それでも本年度より多い数字よね」


「ですが陸軍が8億では、去年の1割増程度。予算全体の拡大より小さな上げ幅となってしまいます」


「逆に海軍はそれ以上か。そりゃあ、陸軍も怒るわよね」


「はい。ですが、問題はここからでして」


「聞きたくない話ね」


「左様です。政府は海軍に、建造をもっと諦めろと伝えました」


「それだけなら良い話ね。財布の中を見て買い物出来ないのは、昔から海軍の悪い癖だし」


「はい。ですが海軍は、10億の条件飲んで減らしたと言って反発」


「実に海軍らしいわね。まあ、軍艦ないと意味ないし、久しぶりに新しい戦艦が欲しい気持ちは分からなくはないけど」


「それでも、若干でも海軍は常に優遇しているので、陸軍は納得しません」


「それで、聞きたくない話になるわけね」


「はい。陸海軍がそれならばと、増税が無理なら国債発行を増やせないかと要求して来ました」


「戦時でもないのに、戦時国債を発行しろとでも?」


「いえ、あくまで普通の国債です」


 貪狼司令が言い切った。

 平時なのに、陸海軍は軍事費に法外な国債を出せとのたまったと。




__________________


経済成長:

史実の戦前で最後の健全な経済成長の数字となる1936年度で、名目GDPは178億円。この世界の想定では、326・7億円。約1・8倍の数字。


農業、軽工業は、史実と比べると極端な成長はないので、重工業と土建業が飛躍的に伸びている事になる。景気が非常に良いので、三次産業の伸びも大きい。

なお、一人当たり所得の伸びの実感は、史実と5割ほど違う。


もっとも、東京、大阪など大都市中心部では建設バブル気味なのは確定。成長全体も急速過ぎて、健全とは言い難い。

ただし、これくらいじゃないと、アメリカ、イタリア以外の他の列強に追いつけない。



 ※1937年の史実の予算:

28億7200万円 (要求額30億3900万円)

陸軍費7億2800万円 (要求額と同額)

海軍費6億8300万円 (要求額と同額)

(軍事費割合49・1%)

 ※( )内は提出予算

 ※平時編成予算だが、平時と考えると既に国債マシマシ状態。高橋是清を殺して、陸海軍大軍拡でウッキウキ状態。 

 ※支那事変勃発に伴い、9月に追加で膨大な臨時予算が編成され、平時予算の時代が終わる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 200%成長してるのに軍備国債発行しろとか寝言は寝てからレベル
[良い点] 今までのデイリー更新ありがとうございました [気になる点] ここで宇垣さんと永田さんが対立してしまうのか? おのれ海軍め・・・・
[一言] 率にしろ額にしろ前年実績が当然のように既得権でそこから交渉(恫喝)開始ってヤベーわ
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