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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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515 「鳳戦略研究所発足(2)」

「それでは玲子様への質問を許可いたします。挙手された方から、こちらから指名いたしますので、その方のみ質問して下さい」


 要するに記者会見の要領だ。そして目の前にいるのはブン屋じゃなくて、知性と理性を持つ選ばれたエリート達だ。

 だから口々に何かを言ったりもしない。その代わり数名が挙手したので、マイさんが一人を指名する。


「鳳グループは、重工業を中心として非常に積極的な投資と拡大を行い、軍の意向に沿っていると見る者も少なくありません。鳳グループ自体が中立的と言えるのでしょうか? そしてその鳳グループが主宰する当研究所は、同じ方向性であるべきなのではありませんか?」


「鳳グループに関係なく、当研究所は中立なのが必須です。欲しいのはバイアス、偏りのない情報だからです。偏った視点からの情報は不要どころか、害悪ですらあります」


 少し納得しかねているけど、追撃はなかった。

 だから次の人が指名される。


「当研究所での研究結果は公表されるのでしょうか」


「慈善事業、公共事業ではありません。ただし、有料でお売りする事はあります。うちは商人ですから」


「政府、特に陸海軍が関わっているのですか?」


「現時点では、直接関わっていません。ですが、鳳と親しくする方にお話する事もあるでしょうし、意見を伺う事もあるでしょう」


 互いのやり取りの間、部屋の隅で面白そうに見ている傲岸不遜な男に誰もが視線を向ける。


「特定の組織、団体、主義、思想の評価、批評は行いますか?」


「しません。公正で中立的に研究、分析された結果を、鳳グループの経営戦略の為に使うのが主な目的です。情報としての評価以上はしません。他者を批評してどうするのですか?」


 色んな場所にいた人達から、色んな質問が飛んでくる。批評とか言ってるおバカさんも、メンバーじゃなかったけど昭和研究会に関わっていた人だ。

 少し口調強めに質問返しをしたけど、言葉に詰まって返事もない。


 こういう輩は、大抵相手を言葉で殴り慣れているけど、自分が殴られ慣れていないから御し易い。

 自覚がある場合は黙るか、自説と思い込んでいる言葉を空虚に並べ立てる場合が多い。


 昭和研究会は、私の前世の世界では、確か革新とか新体制とか新秩序とか、全体主義な事が湧いてくる温床の一つだった。

 去年示された根本方針も、ロクでもなかった。共産主義と全体主義が、似通っているという良い例でもある。


 そして、そう言った考え方の強い人達が多い事を思い知らされる。他にも、思ったより左巻きが多い。そして逆に右をキメた奴も。

 ここに至るまでの書類と面接で選んでこれだから、応募者の大半がどんな連中だったのかもう考えたくもない。


 戦略とかいう言葉に、自分の願望を盛り込んで時流に乗りたいだけの連中が多かったと聞いている。

 給与目的の人間の方が百倍マシだし、良い仕事をしてくれる事だろう。


 というより、私の見るところ勘違いしている者が大半だった。応募要項をもっと明確に書けば良かったと後悔させられる。

 そしてここでも、強めに言葉を付け加える事にした。そして強く言う為に、もう一度立ち上がる。


「何か勘違いされている方がまだいらっしゃるようですので、いま一度言わせていただきます。一片でも何らかの主義、思想を持ち込む方は、今すぐこの場から出て行って下さい。そんな方には、全く用がありません。お給金を出す気もありません。仮に途中で判明しても、その場で追い出させて頂きます」


 今度は目にも強い力を込めたので、言いながら見渡すと誰も反論ができないでいた。けど数名、何か言いたげな人がいる。

 日本のそこかしこに、全体主義か共産主義、社会主義、また逆に国粋主義などが浸透している証拠なのだろう。

 中には流行り物だから染まっている人もいるだろうけど、そんな連中にはもっと分かりやすく言った方が良いらしい。

 出て行け。ひさしすら貸す気はない、と。


「私が皆さんにしてもらうのは、子供にも分かるように言えば『戦争ごっこ』です。

 今後の国内外の情勢はどうなるのか。日本がどれくらい戦えるのか。戦う相手は誰になるのか。戦ったらどうなるのか。その結果は? その為に、あらゆる資料、情報を集めて徹底的にシミュレーション、机上演習もしくは兵棋演習をして頂きます。これで分かっていただけましたか?」


 言い終えると、もう一度部屋を見渡してからゆっくりと着席する。同じことを二度もする羽目になるとは思わなかった。

 そして私が座って少しすると、少し騒ついた。そして更にもう少しすると、「申し訳ないが、私は辞退させて頂く」と言って一人立った。そうすると数名がバラバラと席を立つ。

 何人かは、求めもしていないのに一言コメントが付いていた。


 最初の一人のようなまともな断りの言葉が約半数。残りは負け犬の遠吠え同然の、ありきたりな言葉が並んだ。まさに、モブな雑魚敵の言葉ばかりだった。

 「女子供の下で働けるか」「所詮軍の犬か」「こんな茶番に付き合えるか」など。物凄い目で見てきた人もいた。密かに何かしらの主義をキメた人なんだろう。


 そして4分の1くらいがいなくなり、席が少しまばらになった。

 私は状況がひと段落したところで再び立ち上がり、南さんに頭を深めに下げる。

 

「南様、大変申し訳ありませんでした。開所式から我儘勝手を行い、心より謝罪申し上げます」


「いや、構わないよ。私も主義とかは苦手でね。でも、戦争ごっこは良いね。面白そうだ」


 そう言って破顔してくれた。流石の大人物だし、大らかな人柄で良かった。そして南さんのお陰で雰囲気も少し和らいだので、そのまま残った人に語りかける。


「残られた皆様もそうだと宜しいのですが。改めて、ご質問があればお受けいたします」


 仕切り直しでそう呼び水を流すと、数名の挙手があった。

 同じようにマイさんが指名する。

 最初の一人は、静かな感じの若い学者か年かさの書生を思わせる人だ。


「つまり我々は、世界という盤、そこで使う駒を自分達で作り、囲碁や将棋のような事をすると考えて良いのでしょうか?」


「分かりやすく言えば、そうなります。時間が許せば、何度も違う条件で行ってみたいと思っています」


「分かりました。それは盤と駒作りが大変そうだ」


 微笑しつつそんな感想が出てきた。ちゃんと分かっている人もいて、こちらもホッとさせられる。

 そしてその人の質問で、雰囲気がさらに和らいだ。

 次の人も、リラックスした感じで質問してくる。広いひたいの頭髪七三分けで丸メガネのいかにも頭がキレそうな人。


「戦略研究所という事ですが、今のお話を伺う限り陸軍が言う所の総力戦の研究と考えて宜しいでしょうか?」


「確かに総力戦も含みますが、全般的な戦略の研究が中心です。今後起こりうる国内外の情勢も、想定、予測、分析などして頂きます。総力戦は、どちらかと言えば余禄、戦争ごっこの部分になりますね」


「なるほど。では、重ねてお尋ねしますが、陸軍の一部で流布している総力戦の研究との関連はないのですか?」


「ありません。ですが面白い結果が出れば、軍人の叔父や、そこに居る方などに話して聞かせる事もあるでしょう」


「なるほど、ありがとうございました」


 そうして深めに頭を下げた。そう言えば、退出前に質問してきた人の何人かは、お礼や頭をさげるといった事をロクにしていない人もいた。

 次の人は、挙手を当てられると元気よく起立して一礼してから大きな声で質問してきた。体育会系インテリって感じだ。


「机上演習という事ですが、その際は研究員同士が二つの陣営に分かれ、盤面の戦争をなぞっていくのでしょうか?」


「そうですね。青と赤に分かれ、間に裁定者も入れて本格的に行いたいと考えています。それ以前に、机上演習の前提条件を作るための国際情勢の流れを追います。その際は、模擬的な内閣を皆さんで編成した上での、内閣の机上演習も行う事になります」


「その際の赤軍、違うな日本以外は誰が担当を?」


「戦争の机上演習と同様に、皆様が行います。ただし、世界情勢、戦争には突発事態も起こり得ますので、そういう場合にのみ私どもが用意した課題を消化して頂く形になるでしょう」


「想定情況や課題が出されるのでしょうか?」


「私どもが出す場合もありますが、基本的には研究所の盤と駒を用意する人たちが用意する事になります。ですから、その駒を動かす人とは別にした方が良いかもしれません。そうした基礎的なところから、最初は研究して頂く事にもなると考えております」


「なるほど、手探りの面もあるわけですね。了解しました。ありがとうございます」


 大きめに下げた頭を見つつ、そこで一息かと思ったけどまた挙手が上がる。

 今の質疑を受けてって感じだ。今度は神経質そうな感じがする人だ。


「想定は何通りほどするのでしょうか?」


「特に決めていません。可能性の高いものから順に時間の許す限り」


「時間の許す限り? 既に時間切れがあると予測されているわけですか?」


「鳳総研は、時間切れがある可能性が高いと予測しています」


「その分析情報も頂けるのでしょうか?」


「はい。情報収集と分析にばかり時間を取られるわけにもいきませんから、渡せる限りのものはお渡しします」


「時間が限られているというのなら、そうして頂けると助かります。では最後に一つ。総力戦という事は、遠くない未来に世界規模の戦争が起こり、日本も全面的に参加せざるを得ない状況が来ると予測されているのでしょうか?」


 その通りなだけに苦笑して返す。


「そう言った事態が起こりうるかを研究、分析して頂くのも、皆様のお仕事だと考えております」


「あっ、いや、全くその通りです。申し訳ありません」


「いいえ。ですけれど、世界情勢が逼迫しつつあるのは自明です。ならなければ良いと心の底から思いますが、備える必要があると鳳は考えております。杞憂で済めば良いのですが」


「全くですね」


 そう言ってやっとその人との質疑が終わった。

 そうして見渡すと、多分最後だろう人が小さく挙手していた。なんともふてぶてしい感じの人だ。


「こんな研究を大人数と金を突っ込んでさせて、鳳財閥は何をなさるので? 政府や軍ではないから、戦争をするわけじゃない。となると、戦争で大儲けですかな?」


「ええ、大儲けです。ですが戦争なんてものは、予測もつかない時に突然終わり、商人の多くは突然終わった戦争によって大損するものです。

 昨日まであった巨大な発注が突然全て消え、工場は止まってしまいます。戦争のために作った巨大な工場は、明日から作るものがなくなり、従業員にどうやって給料を渡すのか考えないといけません。昨日まで戦車や大砲を作っていたラインを民需用に変更するのに、一体どれだけの手間暇がかかるのか途方にくれないといけません。

 しかもお上は、戦争で散財した分を商人から取り立てていきます。このまま民需主導の好景気が続く方が、どれほど良いか」


「全くその通りですな。それでも備えをなさると?」


「はい。民と国があってこそ、商いも出来ようと言うもの。皆様にはその商いのお手伝いをしていただきますよう、宜しくお願い申し上げます」


「承りました。どこまで出来るのかはまだ見えませんが、戦争ごっこを存分に楽しませて頂くとしましょう」


 そう返した男性の言葉が、私の煽りにもめげずに残ってくれた男達の総意だった。


 もっとも、一人そうでもなさそうな奴がいた。


「相変わらずだな。だが面白そうだ。商人どもの総力戦、とくと拝見させて頂こう。休みの日に、暇そうな奴も連れてちょくちょく遊びに来させてもらう」


「それでしたら、ご助言もして下さい」


「それが見物料の代わりという事か。心得た。所員に煙たがられん程度に、差し出口を挟まさせて頂こう」


「程々にお願いします」


 余計な事を言ってしまったけど、石原莞爾は暇さえあれば入り浸っていそうな雰囲気だった。


昭和研究会:

去年の根本方針:


1、現行憲法の範囲内で国内改革

2、既成政党を排撃

3、ファシズムに反対する


近衛文麿の研究会だけに、アカ、共産主義と言われても仕方ない方針だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 背中を見せて捨て台詞吐いて逃げ出した連中が外で騒いで足を引っ張らないように新聞使って追い詰めなきゃ!
[良い点] 礼儀のある人が残ったことと、時間の許す限りというキーワードにピンと来た人がいたこと そしてシメの石原莞爾 [気になる点] この後の石原莞爾の補職、軍内での地位 (永田様のとりなしで、東條英…
[一言] 石原はどう引っ掻き回すのかあるいはそれがミスリードなのか…
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