508 「最後の夢枕?(3)」
「そうねえ。会社の人、側近達、使用人の事かな?」
あまり聞く気は無かったけど、次の質問を練る間の箸休め的に聞いてみた。
「会社に関しては、あなたと違って善吉に任せておりましたので、存じません。使用人は興味ございませんので、あまり覚えてもおりませんわね」
「シズの事もそうなのよね。私的には、第二の乳母とか家族みたいに身近なんだけど」
「5歳から仕えていれば、そうでしょうね。それと、側近はあまり印象に残ってませんわね」
「お芳ちゃんも? アルビノで見た目のインパクトも強烈でしょう」
「見た目はね。ですけれど、反対意見ばかりなので、年々話さなくなりましたわね」
「ちゃんと諫言を言ってくれる身近な人は大切にしないと。だからあなた破滅したのよ」
私にとってお芳ちゃんは大切だから、思わず強く言ってしまった。けど、彼女から強い反発はなかった。
「……ああ言う、ズケズケと言ってくる手合いは苦手ですの。それでも最初の時以外は、わたくしも歩み寄ろうとはしましたのよ。それで少しは状況も良くできましたし」
「そうなんだ。じゃあ次の周回で出会ったら、もっと重用してあげて。あなたの為にもね。他の2人は?」
「2人は長子の護衛でしょう。ですけど、女子の方とは世間話くらいはしたし、あの娘が一番話しやすい相手でしたわね。男の方は無口で陰気でしたので、事務的な事以外話した事ありませんわ」
(まあ、表面的に付き合えば、そんなもんか。乙女ゲーム目線で見るから輝男くんは重要なのであって、悪役令嬢抜きにして見ても、ただの使用人よね)
「何か?」
「輝男くんを書生にしたけど、優秀よ彼」
「そのようですわね。次は重用したいと思いますわ。有能な側近が必要なのは3周して痛感しましたし、今回のあなたを見ていても分かりました。ですけれど、こうして第三の目線から見るという事の大切さを思い知らされますわね」
「それは何より。次の周回は、良い人生送ってね」
「もとより、そのつもりですわ。それで、質問はこれでおしまいかしら?」
「本当なら、これから起きる事件や戦争についても聞きたいけどね。けど、どんな事件が起きるのか、いつ戦争になるかとか、どこと戦うとかは教えてくれないのよね?」
「ええ、と言いたいところですが、3周とも同じでしたし、言うまでも御座いませんでしょう。それに、あなた歴史にお詳しいようですし、聞くまでも御座いませんでしょう」
「違いが知りたいのよ。それじゃあねえ、各国のトップは? 日本の首相は前に答えてくれたわよね」
「それも変わりありませんわよ」
「けど、3周目のアメリカはルーズベルト大統領? この人、1932年に暗殺されてない?」
「いいえ。他国の為政者は、3周全て同じでしたわ。2周目の最後のあたりは存じませんけれどね」
「暗殺未遂もない?」
「存じませんわね。ですが暗殺未遂といえば、ドイツのヒットラー総統が毎度暗殺未遂に遭っていらしたわね」
「ああ、ワルキューレね」
「なんですの? 歌劇の題名にもございますけど、関係がありますの?」
「ヒトラー暗殺とクーデターの作戦名よ。けど、死んでないんでしょう」
「ええ。2周目は存じませんが、他は日本より早くドイツは負けていましたわね。ヒットラー総統も二度ともベルリンと運命を共にした、というような報道だったと思いますわ」
「まあ、3周しているのはあなただけで、他の人はみんな1回しか経験してないだろうけどね」
「そうでないと、戦死される方などは堪りませんわね。それで、質問はおしまいかしら? まだ答えられましてよ」
「そうだなあ。3周目に日本が本土決戦するまで降伏しなかった理由が分からないのよね。違いは、首相が永田さんってだけだし」
「確か「げんばく」でしたかしら? それがないのでしたわね」
「それもあるけど、ソ連が攻め込んできて、ポツダム宣言も出されていたら、普通は降伏するんだけどなあ。日本国内でクーデターとか起きてない? 鈴木貫太郎が『二・二六事件』で殺されたのも3周目?」
「そうですわね」
「そっか。多分、本土決戦までいった原因の一つは、日本側で確定でしょうね。解せないのは原爆開発なのよね。ルーズベルト生存&大統領以外に、どこにフラグがあるんだろ? まあ、もうアメリカとの戦争の危険性は低いから、気にしなくても良いとは思うけど。それに知らなさそうだしなあ」
「何をブツブツおっしゃっているの? 用がないなら、これで失礼させて頂きますわよ。こうして出てくるのも、力が必要なのですから」
「あー、ごめんごめん。それとね、一つ質問というか疑問というか仮説があるんだけど」
「何ですの、もったいぶって?」
「うん。あなたは、3回人生をやり直した。私は、別の時代や少し違う世界からやって来た。そして今回も、また同じ時間をやり直している。つまり、流れが1つながりじゃないわよね。サイエンスフィクションの言葉に並行世界、パラレルワールドって言葉もあったりするけど、一つじゃない証拠とか分からない?」
「……そんなこと考えた事も御座いませんが、ありませんわね。それに何度繰り返そうが、私にとっては1つですわよ。単に人生を、それぞれ途中までとはいえ繰り返しただけ。わたくしの視点では、並行ではなく一直線ですわ。あなたについては、存じませんけれどね」
「ということは、あなたはループなのかもね」
「ループ?」
「うん。輪っかじゃなくて、繰り返し。お約束だと、抜け出す為の何か違う事をしないと抜け出せない、次に進めない状態ね」
「抜け出すも何も、わたくしが望む未来を掴む為に繰り返しているのですから、その解釈は違うのではなくて?」
「そうかもね。あくまで仮定の一つだし。けど、望む未来が天寿を全うしても得られなかったら、また繰り返すの?」
「そこまで考えた事は御座いませんわね。とにかく、この先の理不尽な未来を乗り越え、戦争で全てを失わない状態になってみないことには、考えることすら難しいですわ」
「それもそうか。私も、とりあえず3年後を乗り越えられるように頑張らないとね」
「ええ。せいぜい足掻いて下さいな。わたくしも参考にさせて頂きますので」
「いやいや、主旨が変わっているでしょ。勝負であって、お手本じゃないでしょ。だいたい、状況が全然違うのに」
「それでも参考になる事は、今までも沢山御座いましたわよ。ただ、一つお聞きしても宜しいかしら?」
「なに? 改まって」
「自分を押し殺してまでして周りの人とお付き合いして、心は疲れませんの? 時折、酷く不自然に思えて仕方ありませんわ」
「我儘一杯過ごしたから、あなた破滅したんでしょう。それに1周目以外は、あなたも色々としたんじゃないの?」
「色々は致しましたが、自分を偽る事はしておりませんわよ。自分を偽るくらいなら、破滅も大いに結構とすら思ってしまいますわね」
(悪役令嬢らしい心意気だなあ。元がモブの私には無理だけど)
「私はモブだから、前世は妥協と諦めばっかり。それに比べたら、今の方が余程好き勝手しているわよ」
「晴虎さんとの婚約もですか?」
「ロミオとジュリエットみたいに、熱烈な恋愛感情がないのは自覚してる。けど、見合い婚以上に婚前にお付き合いしているし、結婚してからも時間は幾らでもあるんだから、二人の距離はゆっくり寄り添って詰めていけば良いだけでしょう」
「……そうかもしれませんわね。わたくしも政略結婚だったせいで、つい余計な事をお聞きしました。さて、質問がないようでしたら、そろそろお暇させて頂きたく思いますわ。3年後に現れる為にもね」
「うん。それじゃあ3年後の今日に、また」
「ええ。3年後にお会いいたしましょう。どのような結末か、楽しみにしておりますわ」
そう言って、最後に「オーッホッホッホッ!」とお嬢様笑いをして消えていった。
演出好きというかノリの良い人だ。




