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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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496 「親族の帰国」

 夏休み直前の日曜日、横浜港に1隻の豪華客船が入港した。

 「エンプレス・オブ・ジャパン号」。

 日本語にすると「日本の女帝号」よりは「日本の皇后号」とでも呼ぶべきだろうけど、日本の船じゃない。

 カナダ、というより大英帝国が、北太平洋航路に就役させている豪華客船だ。しかも太平洋上で最大最速を誇っており、日米の客船を上回っていた。北太平洋でさらに巨大な豪華客船を多数運行しているイギリスの面目躍如と言ったところだろう。


「けど、日本でも『浅間丸』の後継の船の計画が進んでいるのよね」


「はい、お嬢様。船は15年から20年程度で次世代に引き継ぐものですので、1940年頃には次世代の船が就役するという情報です」


 岸壁での私の問いにセバスチャンが答える。

 こういう場だと、白人を連れていても違和感がない。


「これより大きい船?」


「恐らくは。本船で約2万6000総トン、最高速力22ノットですので、3万トン、25ノット以上を狙うという噂もあります。何しろ、アメリカも似たような計画を持っておりますので」


「かの大英帝国にとっては北太平洋航路は片手間だけど、日米は沽券に関わるものね」


「日本政府も助成金を建造費の3分の1程度出して、複数の高速大型客船を1940年頃に就役させたいようです」


「あー、エキスポの客を運ぶ為か」


「左様です。オリンピックは逃しましたがエキスポは決まりましたので、欧米からの客に日本の威信を見せる為にも、大きな新造船が欲しいようですな」


「エキスポはそれでいいけど、他の運行どうするのよ。フラッグにする2隻程度ならいいけど、通常の運行は赤字間違いなしよ。日本郵船は作るの?」


「既存の船は就航してまだ5、6年ですので、作りたくないのが本音ですな。それに、政府の言いなりで作りたくはないようです」


「そりゃあそうか。けど、政府というか海軍は、大型船を作ってもらわないと困るものね」


「有事に空母への改装が大前提ですからな。それなら、現在増産している海軍の補給艦や各種母艦をもう少し増やす方が、効率的だと思うのですが」


「改装したとしても、全部小型の空母にしかならないでしょう。だから海軍は、中型空母くらいに使える大型のガワが欲しいのよ。何処かの国が、まだ怖いらしいから」


「現状の国際環境からは考え難い思い込みですな」


「日露戦争が終わってからずっと、海の向こうだけを見てきた人達だからね。今更変えられないんでしょう。過激な人、大きな戦艦が作りたい人は特にね」


「今の国際環境などいつ変化するとも限らない、変化した時に対処出来ずして何の為の国防か。何の為の海軍か、でしたかな」


「自分達の新しいオモチャが欲しくて、軍縮条約をぶち壊そうとした奴らが、何言ってんだか」


「全く。ですが最近の海軍は、客船への助成金に消極的という話もあります」


「なに? 突然、宗旨替えでもしたの?」


「30年代に入って、軍縮条約で主要艦艇を建造できない代わりに、有事に空母に改装できる船を多数整備してきましたが、十分な数を作れたというのが理由の一つ。それともう一つが、今回の軍縮条約です」


「軍縮条約の締結で、行儀良くなったってわけじゃないわよね。日本海軍だし」


「はい。エスカレーター条項です」


「ああ。イタリアが最初から離脱したから、1938年からは好き勝手に作れるようになると踏んだわけだ」


「左様です。現在計画している次の海軍整備計画では、37年からは旧式化した戦艦と軽巡洋艦の代替艦を先行して建造開始。38年1月からは、先に設計と資材収集を済ませた航空母艦を、作れるだけ作ろうと目論んでいるようです。既に、新たな建造施設の計画も実働しています」


「なるほどねー。考えたわね。それでも、条約守るなら良いじゃないの」


「よろしいのですか?」


「うん。私、綺麗な客船が無骨な軍艦に改装される姿なんて見たくないもの。見なさいよ、豪華客船は海の女王よ。改造して空母にするなんて無粋よ」


「確かに、そうですな」


 私の言葉にセバスチャンも満足そうに頷く。

 そして目の前の巨大な客船は、私の言葉を百聞は一見に如かずとばかりに物語ってくれていた。

 そして私とセバスチャンが二人で話しているように、少し離れた場所、というか大勢の人たちはもっと船の近くにいた。別件があって、来るのが少し遅れたせいだ。そして合流するタイミングを図るべく、デブの執事と雑談に興じていたところだった。


 出迎えは、鳳からは虎三郎一家が揃い踏み。何しろ、次男のりょうさんが4年ぶりに帰国する。しかも婚約者とご両親と一緒に来るというので、失礼のないようにお出迎えだ。


 私は長男のハルトさんの婚約者ではあるけど、鳳伯爵家当主の麒一郎名代として来ている。警備は万全にしてあるし、そうそうテロされる危険もないけど、用心深いお父様な祖父は外では私と一緒という事は、余程の時じゃない限りない。


「けど、何でイギリスの船で来たの? 知ってる?」


「ボストンから日本の最短距離を選んだら、カナダの大陸横断鉄道を抜け、この船を使うのが一番だったからです。海路だけでも、他より1日早く着きますからな」


「合理的ね。お付き合いもしやすそうね」


「はい。あちらも、相当人を選んだようです」


「……それだけ、鳳が重要って事か。さあ、私達もご挨拶に行きましょう」


「ハハッ」


 一等、二等用の出入り口が開いたので、私達も虎三郎達へと合流する。




(おーっ、これまた美形一家だ)


 リョウさんと一緒に降りて来る人達を見て、最初の印象がそれだった。

 虎三郎一家は虎三郎以外ゲームと関係ないのに、鳳の家系の影響もあり美男美女ばかりだ。

 涼太さんが比較的フツメンだけど、21世紀に前世の私が出会っていたら普通にイケメン枠に入れるくらいで、他はスタイル込みで偏差値70オーバーばかりだ。


 そしてリョウさんと仲よさそうな婚約者とご両親も、圧倒的な美男美女だ。男性の方は少しアメリカンな胴回りだけど、マイナス点はそれくらいだろう。

 そして私は、既に彼らの素性を色々と情報として知っていた。


「皆様、初めまして。鳳伯爵家当主名代、長子の鳳玲子と申します。まずは、遠路ようこそお越しくださいました。そして長旅お疲れの事と存じます。また、父がお迎え出来ない事、深くお詫びして欲しいとの言葉も預かっております」


 虎三郎一家との挨拶が終わったところで、私が半歩前に出て日本的に丁寧に一礼をする。

 当主が出迎えないのは失礼に当たらなくもないけど、今回はあくまで虎三郎家に嫁ぐのでこの形にした。

 そして幸いと言うべきか、相手方の父親の方は首を横に振る。


「ご丁寧な挨拶ありがとう、玲子嬢。それにも増して、宗家の長子自らのお出迎え、非常に光栄です」


 そんな感じで社交辞令の話が進む。

 ブルジョアの最上層に位置している者同士なので、公の目のあるところで奇矯な事、無礼な事、素っ頓狂な事をしたりはしない。

 ただ、リョウさんの婚約者さんが、やや弱気な仕草なのに興味津々な目でこちら側の人達をチラチラと見てくるのが印象的だった。

 ちょっと小動物っぽい。


助成金を3分の1程度出して:

優秀船舶建造助成施設のこと。造船振興政策だが、大型で高速の貨客船(豪華客船)は特に海軍が助成金を出し、有事に航空母艦に改装する予定で作らせた。

この為、建造時点で軍艦としての構造を盛り込んでいた。動いている様を見たベテラン船員などは、貨客船の状態でも中身が軍艦だと気づいたそうだ。



中型空母くらいに使える大型のガワ:

大型優秀船建造助成施設で計画された『橿原丸』『出雲丸』に当たる。建造中に航空母艦『隼鷹』『飛鷹』となった。

客船建造の時点で、費用の6割を海軍が負担した。

日本郵船は採算割れ確定だから作りたくなく、また海軍を相当恨んだらしいが、建造当初からほぼ軍艦だったと言える。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 好況で人手も材料も高騰してないしすぐ戦時下に入ると決まったわけではないならわざわざ商船改造空母なんて手間かけるよりも初めから雲龍型みたいな快速中型空母を作ったほうがトータルで安く済むと思う…
[気になる点] 対ソの陸軍の時も思いましたが、兵器をオモチャ呼ばわりして備えようとする軍人を馬鹿にするのはイラッとします。 アメリカは同盟国でも無いし、アメリカの仮想敵は日本というの分かってないのかな…
[一言] 遂に500話の大台に乗りましたね!
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