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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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482 「昭和11年度鳳凰会(1)」

 今年の鳳社長会の『鳳凰会』は4月19日。

 世の中は衆議院議員総選挙一色。地方から東京に出てくる社員などは、投票を諦めていた。


 ただし、この時代にも不在者投票制度はある。1925年の普通選挙法が出来た時に、衆議院議員選挙法改正の改正で導入されていた。ただこの制度、本来は船舶、鉄道に乗務しているか、本来の場所にいない軍人に限られている。


 だから21世紀の期日前投票のような事は出来ない。

 財閥の力を使ってズルできなくもないけど、後で不正だとか言われたくもないので諦めた。だからだろうけど、数年前から出している、瀬戸内を巡って横浜へと入る鳳の高速クルーザーでのんびりとやって来る人も多い。


 勿論、どうしても選挙に投票したいという人もゼロじゃないので、そういう人で出席資格のある人は、今回の社長会に代理を立てたりしている。

 また、社長会に参加可能で投票できる人には、可能な限り行かせていた。この為、遠方の者の為に飛行艇や飛行機を多数チャーターした。


 それにしてもこの時代の衆議院議員総選挙は、投票率が高い。どの選挙でも8割くらいある。

 普通選挙と言っても25歳以上の男子だけが対象なのも理由だろうけど、21世紀の5割、6割程度と比べるべくもない。

 そして社長会も、雑談となると未曾有の好景気、クーデター未遂を押しのけて、選挙の話題で持ちきりだ。投票に行かなくても、やっぱり気になる総選挙、って感じだ。


 選挙はともかく、社長会自体は去年と比べると大きな変化はない。

 私達の周りでの変化は、虎士郎くんが音楽のゲストだけではなく、正式に社長会に参加するようになる。瑤子ちゃんも年齢はクリアするけど、普通女子は参加しない。マイさんのように、仕事に就いている場合が例外なだけだ。


 それ以外となると、会場の隅っこにはいつも私の側近達の席があるけど、そこに鳳の書生となった姫乃ちゃんの席も用意した。

 ただし側近の護衛担当の6名は、去年からメイドか執事服でお仕事になっているから、同じ席には頭脳担当と姫乃ちゃんと同じく鳳の書生扱いとなった輝男くんが座っているだけになる。


 勿論私は、例年通り鳳伯爵家当主鳳麒一郎の名代として参加する。加えて、去年と違い私とハルトさんの婚約が発表されているから、この席に疑問を持つ者はいない。

 だから今年も、上座の一角の私のテーブルはハルトさんとセバスチャンで席に着く。


 他は去年とほぼ変わらず。ただし、第一線から一歩退いている時田と金子さんの机には、去年ふらりと顔を出したお父様な祖父は、去年の一回限りらしく今年は出席していない。

 けど、その代わりとばかりにゲストが来ている。お父様な祖父の軍人時代の友人の南次郎元大将と、『二・二六事件』で予備役に追いやられたばかりの阿部信行元大将だ。


 南さんの方は職歴に傷が付いたので、しばらくは政府の大きな役職も回ってくる事はない。とばっちりで、極めて短期間で陸軍大臣の職を追われた阿部信行は、東亜同文会の理事長という話があったらしいけど、宇垣さんの紹介でうちの大きな席を用意出来ないかという話になった。お父様の3期後輩だから、仕事の世話をするという形だ。

 そして二人とも「宇垣閥」の人だし陸軍大将まで上り詰めた人なので、生半可な椅子では済まない。


 そこでどちらか片方は、鳴り物入りで設立予定の鳳警備保障の初代社長になるだろうと言われていた。漏れた片方も、拡大著しい鳳グループのどこか大きな会社の社長職を数年務めるだろう、というのが周りの一般評だ。

 実際、私は既に聞いているけど、後輩の阿部信行が鳳警備保障の初代社長に内定している。

 南さんの方は先にドロップアウトしたので、既に別の会社の名誉社長職をしていたから、改めて別の席を用意する予定だ。



「それでは、昭和11年度鳳凰会を開催します!」


 かくして、恒例の言葉で鳳の社長会が始まる。

 そしてまずはご飯。昨日から様々な場所で会議や会合、晩餐会までが行われているけど、メインイベントはみんなで晩御飯。プラス、タバコまたはスイーツタイムを挟んでの、立食形式のパーティーとなる。


 そうして始まった最初の食事会は、鳳グループのトップとグループに関わる財閥一族の顔を見せる事が目的の一つだけど、最大の目的はグループ内での序列を視覚的に見せる事。これにより序列、上下関係を知らしめると同時に、競争意欲を煽る。


 鳳グループは短期間で拡大に次ぐ拡大を続けている財閥だから、競争意識が高い。

 それにこの時代は、役人や軍人と違って終身雇用なご時世じゃないから、減点主義よりも加点主義。特に鳳グループは、加点主義の比重が高い。

 しかも学閥は重視せず、個々の能力重視という事になっている。ある会社では、露骨に帝大系の学閥を作った幹部を左遷して、学閥ごと叩き潰した事があったほどだ。



「今年は、選挙のおかげで注目されなくて良いわね」


「うん。煩わしくなくて良いね」


「一部は、異常なほど注目しておりますがな」


「それは選挙運動していた昨日まで。今日はのんびり出来るだろうね」


「ご近所は大変そうですがな」


「違いないわね」


 そう言って笑い合う。

 国内の事件で最悪フラグの一つ『二・二六事件』は辛うじて許容範囲で抑えたし、連動した選挙と軍部の動きも酷い事になる気配は今の所ない。世の中は、日本は未曾有の好景気。外交関係も良好。

 一族、財閥も絶好調。すでに、私個人の破滅フラグは、どこにも見えない。

 笑顔にもなろうと言うものだ。て言うか、これだけグッドフラグを立てて笑顔になれなかったら、かなり問題だ。


 ご近所というのは、衆議院選挙に関わる人たち。昨日までは鳳も、支持政党である政友会に大量の金額の献金をしたり、応援に協力したりと忙しかったけど、今日は投票日だから後は結果を待つだけだ。

 もっとも、予定を変更せずに社長会を実施した鳳グループは、鳳を快く思わない人達からは、結果が出る前から祝勝会をしていると言われていた。


 とはいえ、選挙で政友会が勝利するのはほぼ確定だから、そこまで大きな声や非難にはなっていない。

 何しろ政友会は、今の好景気と外交を牽引してきた。民政党は、特に景気に関してはマイナスが大きい。そしてこのところ政権が取れていない事もあり、党内のタカ派が分離して「国民同盟」と言う政党を作っていた。

 だから、ただでさえ不利な民政党は、政友会が総崩れにでもなるか、大分裂でもしない限り勝ち目はなかった。


 そんな状況だから、私達の関心は選挙に対して薄い。それよりも現状の経済状況、今後の計画に関心が高かった。


「政友会の勝ちは動かないだろうから、鳳としては『列島改造』『所得倍増』を、どこに持って行かせるかが問題でしょうな」


「うちが推してた何度目かの国鉄の標準軌変更運動って、別の計画になったんだっけ?」


「はい。まだ仮称ですらありませんが、鉄道省が『弾丸列車計画』というものを立てました。要するに、日本列島に満鉄の「あじあ」のような特急列車を全くの新線で通す事で、鉄道輸送力を大幅に強化しようという案だそうです」


(要するに新幹線か。確か前世の歴史でも、戦前に計画されたのよね)


 あじあ号と前世に乗った新幹線を思い浮かべつつ、短期間では難しいという結論がすぐにも頭に浮かんでしまう。

 何せ日本列島は、山あり谷あり。満鉄みたいに真っ直ぐじゃない。


「それって、実働するの? 本年度予算には無かったと思うけど?」


「調査費は計上されているよ」


 セバスチャンではなく、ハルトさんの答え。ホールディングスの重役だから、お金の動きにはアンテナが高い。

 その言葉に、セバスチャンも頷く。


「昨年12月に「鉄道幹線調査分科会」が設立されております。早ければ、今年夏にも具体化するでしょう。どうも、去年の夏に東京がオリンピック開催で落選したので、東京万博に力を入れる方向になりました、その目玉商品の一つにしたいようです」


「政治家も大変ね。けど、国鉄自体の軌道変更は、やっぱり無理なの?」


「過去に何度も話は出ていますが、無理でしょう。あの原敬も昔反対したほどです」


「原さんがねえ。あの人、我田引鉄の権化じゃなかったっけ?」


「だからこそです。標準軌、線路幅が広い方が引くのに金がかかり、日本の隅々まで走らせるとなると不利ですからな」


「あー、納得。それで弾丸列車計画は、いつ動くの?」


「順調に進んだとしても、まずは用地買収と地形などの調査です。実際の工事開始は2、3年先でしょうな」


「まあ、そんなもんか。そうなると、うちとしては道路整備を推すしかないわね」


「はい。国防道路という名は、陸軍にも受けが良いですな。各所での計画も、順調に進んでおります。一番手の京阪神と名古屋を結ぶ道路工事も、既に道半ば。来年には開通できるでしょう。横浜=名古屋間の計画も、滞りなく進んでおります」


「その前に、一般道の舗装化よね。雨でトラックが走れないとか、うちのトラック販売の天敵だもの」


「まさに。ですが日本各所の舗装道路は、順調、かつ急速に敷設されております。その道路を、鳳の車が埋め尽くす日も遠くはないでしょう」


「遠くないというけど、当分先の光景ね。むしろ問題は、他の自動車とトラックの会社が不甲斐なさすぎる事でしょうね。こんなに弱いとは思ってなかったわ」


「仕方ないよ、玲子さん。トラほどのフォード仕込みは、日本に他にいない。それに生産管理で上野さん達が脇を固めている。

 しかも鳳は、急拡大した影響で熟練工は少ないけど、逆に大量生産向きの生産体制を作る事、それに最初から組み込まれていく工員ばかりな事と、利点の方がずっと多い。

 これに勝つには、それこそフォードさんを連れてこないとね」


「本当にそうですね。虎三郎のお陰だと思います。けど、三菱と日産は似たような事していますし、うちも虎三郎に甘えてばかりだとじゃダメですね」


「国内だけじゃなくて、フォード、GMもいるしね。トラも自動車はまだまだだと言っていたよ。あっ、そうだ、6月に自動車競争の大会があるんだけど、行かないかい? 鳳もワークスを作って車を出すんだ」


 目がキラキラしている。技術系の人じゃないけど、自分でもデューセンバーグとか速度の出る車を乗り回すだけあって、こういうのが大好きだ。

 これは私に拒否権なさそうだ。


「喜んで。ちなみにどこで?」


『弾丸列車計画』:

1938年12月に予備計画が動き始めている。

日中戦争による輸送力の増大も、計画が動いた要因の一つ。

この世界では、日本経済の拡大が史実より少し早いので、数年早く計画の具体化が始まっている。



国防道路:

要するに高速道路。

作中の言葉通り、その前に一般道の舗装が先。

列強の道路舗装率が30%から40%の時代、1%未満という体たらくだった。



熟練工は少ない:

日本の熟練工は、もちろん本当に熟練した人が多いが、単に長年勤めていただけで技術の低い人も少なくなかった。

しかもそうした人はフォード式の生産体制に否定的で、教育という名目で新入りを虐めるのが一般的なので、フォード式の大量生産体制を途中から導入する障害になりかねない。

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― 新着の感想 ―
この時代に線路の幅を広げておかないと、 時間がたってからじゃ無理。
[良い点] 阿部さんきちゃあ!!!
[一言] >ただこの制度、本来は船舶、鉄道に乗務しているか、本来の場所にいない軍人に限られている。 戦前、現役軍人には選挙権/被選挙権とも無かった筈なので、この世界線でその点が改められたのであれば、経…
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