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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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480 「1936年衆議院議員選挙(2)」

「それで、お前の夢と何がどう違う?」


 一通り配られた資料を読み、解説を聞いた上でのお父様な祖父の言葉。善吉大叔父さん、時田、それに貪狼司令もそこが関心どころらしい。お芳ちゃんばかりか、マイさんも興味深げに私を見てくる。


 将校が兵隊を無断で動員したクーデター未遂事件なんてあったんだから、関心があって当然だろう。

 もっとも、お父様な祖父と時田には、以前から話してある。貪狼司令とお芳ちゃんにも、かなり話してあった。



「前に話した人もいるけど、もうあんまり意味ないわよ」


「それでも、この節目に改めて聞いておきたい。夢で全部見た玲子の考えを含めてな」


 そう言われると、何かを話さないわけにもいかない。私は話を聞きに来ただけだったけど、大人達の目的は別にあったというだけの話しだ。

 だからこそ、貪狼司令も恐らく他を犠牲にして先に話す時間を作ってくれたのだ。

 そして「それじゃあ」と始めたところで、ギャラリーが増えた。


「済まない。遅くなった」


「失礼させていただきますよ」


 部屋に案内されて入ってきたのは、私のお兄様の鳳龍也少佐。それだけなら、まだいい。続いたのは陸軍次官になった永田鉄山中将だ。

 部屋の時計の針を見れば、確かに夕方5時を15分ほど回っているから、お役所の定時は過ぎている。プライベートの体裁を整えて、急いで来たんだろう。


 そして時計を見た時点で改めて気づいたけど、話し合いに用意した部屋は外向けの応接用の会議室の一つだ。単に他が空いてないだけだと思っていたけど、永田鉄山が来るのが最初から決まっていたという事だ。

 知らぬは、話を持ちかけた筈の私ばかりだ。

 けどまあ、正直どうでもいい。内心軽くため息ひとつだけついて諸々の雑多な感情を押し流して、全員を見渡す。


「永田様もいらっしゃいましたが、いつものようにさせて頂きますね」


(そうは言うけど、私の夢だと去年の7月に永田さん斬殺されているのよねー。変な気持ち)


 視界の隅で、お父様な祖父と永田鉄山も頷くのを確認した。


「私の見た夢では、日本の議会政治、民主政治は、1932年5月に現実では大川周明宅での銃撃事件の頃で終焉しています。

 夢の中では、事件を起こした彼らがテロリストとなり、犬養毅を暗殺したからです。以後、政治家が怯えるようになり、軍人は暴走を重ねつつ態度と実際の行動を大きくしていきました」


「現実でも、物騒な事を喚く馬鹿は増えたな」


「そういう輩のうち極端な者は、軍に残っていても可能な限り中央から飛ばしています」


 お父様な祖父とお兄様が続く。


「ですが夢では、軍人達の声は大きくなるばかり。この2月のクーデター未遂、『二・二六事件』が一つのピークになります。そして一気に、日本での軍国主義が進んでいきます」


「一連の話は鳳少佐から聞いたが、皆さんのご尽力もあり大きく食い違ってきている。私も真崎さんの代わりではないが、暗殺されていた、と。

 事前に聞いていれば与太話だと思っただろうが、後から夢と現実の二つの話を合わせて聞くと、恐ろしさすら感じてしまう。色々話を聞く前に伺うが、大きく今後はどうするつもりなのかな?」


 永田鉄山が、そう言葉をくくって私に視線を向け、次にお父様な祖父へも同じように視線を向ける。

 私もお父様な祖父に視線を一度向けると、軽く頷かれただけだった。お父様な祖父が言えば鳳一族の行動方針となるけど、私の口からだと精々が巫女のお告げ、普通なら子供の戯言で済ませられる。


「ドイツとの関係を、可能な限り悪くします。あんな国とは、親密な外交関係は結べません」


「あんな国か。鳳財閥の主な取引相手が英米だからかな?」


「それもありますが、対ソ連、対蒋介石外交で関係を深めるのなら、従来通り英米が最善です。ドイツとの関係強化、ましてやナチス政権との防共協定や軍事同盟は、正気の沙汰じゃありません。それに今のドイツは、早ければ2年、遅くとも3年以内に化けの皮がはがれます。ドイツを礼賛している人達も目を覚ますでしょう」


(とは言え、日独防共協定を不成立にしたら、リッベントロップの地位が上がらないかもだし、まだ分からないけどねー)


 内心で自身の口から出た半ばハッタリに舌を出していたけど、永田鉄山は強めに頷いた。


「軍人が外交に口を挟むという点を横に置けば、その方針には私も賛成だ。陸軍内でも、短期的視野での親ドイツ傾向は、たしなめているところだ。ドイツ自体は、今まで押さえられていた反動はあるだろうが、現状は何もかもが急速すぎて危険だ」


「鳳でも新聞、雑誌などでドイツ礼賛に対する客観的な分析や記事を載せているのですが、一部の人からは厳しいお言葉を良く受けています。統制経済や全体主義が、そんなに良いものでしょうか?」


 自分で言いつつ、その手の人間の愚かさに軽蔑の笑みがこぼれてしまう。だから、相当悪い顔をしていたんだろう、永田鉄山が苦笑する。


「統制経済については、軍人である我々も大好きだけどね」


「永田様は筋を通されています。私どもに意見される方とは、天と地以上に違われていると存じます」


「そう思って頂けているだけでも、動いてきた甲斐があったというものだ。だがね、少しばかり思想が極端化すると、なんでも自分の思い通りにしたくなるものだよ。私も人の事は偉そうに言えない。鳳少佐に何度たしなめられた事か」


「閣下」


「冗談だ。しかし、長い視点での視野を持てない者が増え、そうした者が、以前より幅を利かせるようになったのは事実だ。しかもそういった輩は、声だけが大きく、鼻息だけは荒い。そんな情勢で、今回の選挙うまくいくものだろうか」


「少なくとも、私が見た夢、悪夢と言って良い夢と現実は大きく違っています。何しろ向こう10年で、内閣は改造内閣を含めると10回以上変わります。

 当然ですが、1年と保たない内閣が殆どとなります。しかも軍が、強引に予算を通すためだけに内閣を作ったり、成立しそうな内閣を潰したり、自分の意に沿うような閣僚人事にしたりと、好き放題します」


「確かにそれは悪夢だ。夢の中の私は、そんな惨状を見ずに済んだ分だけ幸せなのかもしれないな」


「夢の中の言葉の多くに、永田様がいれば、と言うものもございました」


「つまり、私もその10人以上の中になる可能性があるのか。では、軍を退いた後は、選挙に出ないといけないな」


 ジョークだと軽く笑うけど、5年後は本当に分からないのが、私的には気軽に笑い返せない。舎弟の東条英機がなるんだから、この人がなれないわけがない。

 けど今は、そんな感想は横に置いて続ける。


「夢の中だと、政党総裁や議員でなくても総理になれますよ。総理の半数は、軍人か元軍人ですから」


「議会政治が崩れ軍部独裁に向かうなら、そうなのだろうな」


「それで玲子、その選挙は夢だとかなり違っているんだったよな」


 雑談混じりの話が多すぎたらしく、お父様な祖父のツッコミ。軌道修正しろって事だ。


「あ、はい。一から話したらキリがありませんので直近だけにしますけど、現実は2年前の夏にしていますけれど、夢の中だとこの時の選挙がありません。前の選挙となると、犬養政権が誕生後にした1932年2月の選挙以来となります」


「つまり、先日のクーデター未遂事件の前に選挙が?」


 再び永田鉄山が私に聞いてくる。


「はい。そうなります。ですから今回の選挙に当たる選挙とは、状況が大きく違います。夢だとその先の選挙は、確か来年の今ぐらいですね」


「なぜそんな中途半端に? 何か事件でも?」


「クーデター未遂の後の内閣は、もう陸軍の言いなりです。あれはダメこの人はダメと言って、広田弘毅様の内閣となります。ですがこの広田内閣で、元軍人にクーデターのシンパがいるからその人達を大臣にしないためという無理筋で、軍部大臣現役武官制を復活します」


「確かに無理筋だな。実際に退役軍人が陸海軍の大臣になった例などないのにな」


「はい。もちろん口実です。そして早速、陸軍は気に入らない事があって大臣辞任をチラつかせたので、その抵抗として総辞職をしたんです。

 もっとも、総辞職の一番の理由は、軍が1937年度予算で法外な要求をしてきていたので、予算案を廃案にするのが目的だったと思います」


「しかし、国民の軍への反発は少ない。むしろ支持は高かったと言えそうだ。何故かな?」


 導入はこれで終わり。永田鉄山も、そろそろ本題かなって雰囲気だ。


1932年2月の選挙以来:

戦前も任期満了は4年。史実でも、『二・二六事件』直前に総選挙をしている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皆貧しくて暴力的な手段でも良いから閉塞感を何とかしてほしいから軍を支持したのかなあ。 暴力的な手段が、自分たちに空襲等の方法で降り掛かって目が覚めた 遅すぎたけど
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