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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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430 「相沢事件(3)」

 お父様な祖父は昼行灯のままながら、少し目と雰囲気が本気モードで問いかけたが、雰囲気を察した西田も少しばかり居住まいを正す。


「彼のような人物は、一度決めると即座に行動に移りがちです。ただ、親しい者、尊敬する者の意見は多少は聞くでしょう。ですから、龍也先輩に一度会って頂きました。その点は、成功だったと考えます」


「理由は?」


「彼からは、龍也先輩が師と仰ぐ永田鉄山閣下やその周りの方々へご不満を、その後聞いておりません。一方で、国を憂うる青年将校、勿論これは相沢中佐殿の視点ですが、彼らの事を非常に気にかけておいででした。

 そして今の軍閥、重臣閥は、大逆にも匹敵する不逞の輩ではないかと考えているご様子でした。当人は明確には口にされませんでしたが、恐らく間違いありません」


「そう思うように、誘導したんじゃないのか?」


「私自身、龍也先輩から薫陶を受けるまで、青年将校達と考えを同じくする所が少なからずあった事は認めます。ですから、彼の気持ちは大変よく分かるのです。

 ですが、今は分かるだけ。それに相沢中佐殿が何に影響されたのか、それについては多少は聞けたので、そこから推測したまでです」


「それで、奴の気持ちなりを知ってどうした?」


「強く言っても聞く方ではないので、出来うる限り話を聞くに留めました。愚痴を吐き出せば多少でも心は落ち着き、行動に移る事もないだろうし、溢れた言葉から何をする可能性があるのか推測する事も可能ですので」


そそのかしてはいないんだな」


「滅相もありません。ただ、聞かれた事には、分かる範囲で答えました。ですが今思えば、それが影響したのではないかと」


 そう言って話始めたのは、西田が来る前に輝男くんが話した推測とよく似ていた。

 相沢中佐が極端すぎる行動に出た動機は、国と陸軍、青年将校達の3つの破滅を救う、自己犠牲精神の発露ではないか、と。


 また、真崎甚三郎大将殺害の直接の理由は、彼が荒木大将を補佐出来ず、閑院宮載仁親王を蔑ろに、つまり間接的には陛下までも蔑ろにしたに等しいから。しかも荒木大将を補佐出来なかったのは、しなかったからではないかと考えている節がある。


 そして、青年将校達の一部、精神主義的な者達の一部は真崎大将を支持していたけど、ある意味純粋な相沢中佐から見れば、彼を支持する理由が無くなっていた。

 教育総監などにならず参謀次長で軍を勇退していれば潔いのに、地位や権力に執着する他の賊閥と同じ輩に映っていた。


 そしてそんな輩を排除することで、青年将校達は旗頭を失って決起できなくなり、決起がなければ陸軍は破滅せず、国家の危機を未然に防ぐ事が出来る、と考えたのではないか、と言う予測だ。



「そしてお前さんは、永田や龍也に害が及ばないようにする為、血の気の多い連中同士でのいがみ合いになるよう言葉巧みに誘導。その一人が相沢だったわけだな」


「全く弁解のしようもありません」


 結局西田は、最後に全部認めた。私的に元が付くけど、さすがは昭和一の革命男だけのことはある。

 けど、お父様な祖父は、西田に対してむしろ好意的だ。


「いや、悪い手じゃない。ああ言った連中は、外に向かわせず内輪揉めさせるのが一番だ。大抵は自滅してくれるからな。それに、そのまま自然消滅しなくても、分裂して小さくなったやつを最後に排除すれば効率もいいしな」


「ですが、ここまで直接的に動くとは、本当に予測も付きませんでした。いや、伯爵令嬢からのお話を、私自身が信じきっていなかったのが悪いのです」


 話している間はそうでもなかったけど、西田はかなり凹んでいる。私的には、口先一つで最凶テロリストの向かう先を変えたのだから、お父様な祖父と同じく賞賛したいところだ。

 そしてお父様な祖父の賞賛は続く。


「西田君、万が一憲兵に引っ張られて軍を退かねばならない事があったら、うちに来なさい。幾らでも良い席を用意させてもらう」


「お言葉、痛み入ります」


「うん。高度国防国家推進に邪魔な連中を排除する絶好の機会だから、同じ考え方の者だけでなく、相沢と接触した者もとばっちりの可能性があるからな」


「ご当主の懸念は、大丈夫とは思いますけどね」


「抜かりなしか?」


「相沢さんが、俺や西田の名前を言わない限りは。性格から考え、一人で全部背負い込んで誰の名前も言わないのではないかな。不器用な人だ」


 「そうか」と返すと、そこで部屋に沈黙が降りる。少し安堵の沈黙だ。少なくともお兄様、龍也叔父様と周りの影響は小さく済みそうに思えた。

 そしてその空気を感じ取ったお父様な祖父が、軽く咳払いする。


「それで今後の事だが、龍也はどう予測する?」


「陸軍首脳部の、綱紀粛正を理由とした引責辞任は避けられないでしょう。陸軍大臣、陸軍次官、教育総監部の本部長あたりは確定でしょうね」


「参謀副長、それに軍務局長は?」


 参謀総長は殿下なので、何故と聞いたりはしない。


「参謀副長は微妙ですが、陸軍省の不祥事ではないですし、軍務局長は実務職なのでむしろ据え置くでしょう。ただ阿部さんの辞任は、短期間での辞任となるので陸軍全体としては少し痛いですね」


 陸軍大臣、陸軍次官を辞任に追いやるのは、永田さん達へも痛烈な攻撃になっているのは、狙ってのことだったのだろうかと思う。


「阿部さんも、せっかく大臣になれたのに運がないな。で、一方の永田は、しばらく大人しくするのか?」


「多少は。ですが、教育総監の本部長に、同期の小畑さんを持って来ようかと話していました。今、丁度と言うわけじゃあありませんが、陸軍大学校校長で来年春には中将昇進ですから、行けるだろうと」


「合わせて、永田は来年春に陸軍次官か」


「陸軍次官は、1期上の梅津さんが有力と言われていますがね」


「あいつか。妥当なところだな。だがまあ、今はそれはいいか。あとは、同じ考えの連中をどれだけ連座させていくかだな」


「東条さんの考えでは、同じ考えだからと過度に追い詰めず、」


「内輪揉めさせるんだな」


「はい。大きく割れて、上の者ほど転向者が出るのではないかと予測しています」


「一番上が、事実上の内紛で突然消えたようなもんだからな。しかし、それで収まらん連中はどうする?」


「第1師団を満州に派遣して、頭を冷やさせてはと言う案が出ています」


「おいおい、玲子の夢と同じじゃないか。永田や岡村、東条には話してあるんだろ?」


「はい。ですから、知らない者の案です。それに今は、案が出ただけに過ぎません」


「じゃあ、どうする?」


「今のところ、急進的な者は可能な限りそのままにして、玲子の話に出てきた彼らの周りの者を、何らかの理由で東京もしくは関東から遠ざける方向で進んでいます。この点、以前お話しした動きを変化させる予定はありません」


「そうか。何にせよ、今回の一件が落ち着いてからだな。みんな何か意見はあるか? ……じゃあこれで解散だ。ご苦労さん」


 お父様な祖父とお兄様のやりとりがひと段落したけど、こちらとしては特に話せる事はない。みんなも同じだ。

 それを確認したお父様な祖父が、そこで少し笑みを浮かべる。


「そう言えばな、お前達が来る前に、そこの輝男が西田の話を半ば言い当てていたぞ」


「ほぉ」


 西田は目を丸くするだけだったけど、お兄様が素直な感じで感心している。とは言え、それ以上何かを言うでもなかった。

 言ったお父様な祖父も、解散する時に少し気が緩んで雑談をしたくなった程度だろう。



 その後、『相沢事件』に関して全体で集まるという事もなく、それぞれ事後報告を受けたにとどまった。

 事件そのものは、犯人、事件に居合わせた者、関係の深そうな者の事情聴取があり、軍法会議は翌年になって開始されている。


 一方陸軍人事の方は、お兄様の言っていた通りになった。

 陸軍大臣の阿部信行など、陸軍次官、教育総監の本部長が引責辞任。陸軍省ナンバー3の軍務局長と、参謀本部は特にお咎めはなかった。

 そして後釜には、永田さん達とは縁の深くない人が就任する事で、バランスが取られた形になる。


 一方、個人による凶行であった事から、相沢中佐と同じもしくは似た考えの者で普段の言動や行動に問題がある者は、上官に強く釘を刺されたり、場合によっては憲兵から追求された。ただし、処罰まではされなかった。

 やっぱり、軍の中枢や永田さん達は、血の気の多い連中の内輪揉めを期待しているみたいだ。

 なお、西田税に憲兵が声をかけたりする事もなかった。勿論だけど、お兄様に害が及ぶ事も無かった。


 そして、私的には『皇道派』になり損ねた人達だけど、案の定と言うべきか内輪揉めを始め、階級の高い将校から順番に瓦解が始まった。

 その結果、今までの考えを捨てて転向するか、意固地になって先鋭化する二つに分かれた。


 そして一夕会に属していた中堅将校達は、その大半が永田さん達に頭を下げた形になるか、どちらからも離れて中道路線に変えていった。現実を見るようになった、という事なのだろう。

 一方で、より先鋭化したのが血の気の多い青年将校だ。頭数が多ければ、『皇道派』と名付けられた事だろう。


 それにしても、青年将校といっても20代半ばか後半のいい歳した大人なんだから、もう少し現実見ろよと言いたくなる。


(けどまあ、これで『二・二六事件』フラグが減ったのかなあ? 減ったよね。……いや、ここで油断したり慢心したら、歴史の修正力とかで別のフラグが起きるに決まってる。お兄様や西田、それに貪狼司令には、引き続き調査を続けてもらわないと。うん。曾お爺様も、見守っていて下さい。お願いします)


 数日後のお盆のお墓まいりでも、考え祈るのは結局そんな事だった。


梅津さん:

梅津美治郎 (うめづ よしじろう)。

最後の陸軍参謀総長。太平洋戦争での、戦艦ミズーリ艦上の降伏文書調印式に出席したのが有名だろう。

『226事件』後の皇道派粛清から、陛下の信任が厚かった。ノモンハン事件の後でも、関東軍参謀を粛清している。強い。


銀河英雄伝説のオーベルシュタインっぽいイメージがある。(有能で能面で寡黙)

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― 新着の感想 ―
[一言] 一夕会の中でも皇道派やその他の派閥で別れているのか。一夕会の目的がまずは陸軍の中堅実務者達で団結して陸軍を牛耳るってことなら、考えてみれば当然だったけどややこしーな。一夕会の中である程度は意…
[一言] 梅津美治郎閣下は最後まで陸軍の尻ぬぐいをし続けた人だから、不憫で仕方ない。 終戦にむけては阿南惟幾閣下との連携は見事なもの。
[一言] >梅津氏 「それにしても、私も口数が多くなったものだ」 とか、塩沢ボイスで脳内再生すれば良いと
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