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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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429 「相沢事件(2)」

(ちょっと、話が始まる前に整理しとこうか)


 夕食後、お兄様がまだ陸軍省から戻らないので、少し時間ができた。けど待つ側としては、部屋に戻るわけにもいかないので、居間でくつろぎつつ頭の中で情報の整理をする。


(相沢事件が史実と真逆なくらい違うけど、多分日時は同じなんだろうな)


(けど、そもそも皇道派と呼ばれるグループは形成されてない。精神論者、天皇親政を唱える急進派、急進派青年将校、こんなあたりの呼び方よね。派と呼ばれるほどの派閥はなし)


(それになあ、『二・二六事件』を起こす磯部浅一、村中孝次は、統制派の謀略で嵌められて軍を追われてないしなあ。そもそも殺された真崎甚三郎が教育総監を罷免されてないし、相沢中佐がなんでこんな事したのか本気で分からないっての)


(……誰かがいらん事を吹き込んだのかな? 永田鉄山殺害の時も、相沢が慕っている青年将校の一人の言葉が最後の引き金だったみたいな俗説もあったしなあ)


(いや、確か天皇親政を掲げた連中の妙な怪文書を読んだのが発端だったような)


(けどなあ、統帥権干犯問題もまだまだ小さいし、そもそも議会政治が続いているから、書かれたとしても、あれを真に受けたりするバカは、流石に陸軍将校にはいないでしょ)


(けど、実際いるから、相沢中佐もその類だったのかなあ)


(……いやいや、そもそも何で真崎大将を殺さなきゃいけないの? 白昼堂々)



「答えは出たか?」


「さっぱり。謎は深まるばかり」


「だよなあ。まあ、龍也待ちだな。証拠を残せない類のネタがあるんだろ」


 お父様な祖父も分からない以上、本当に答えを待つしかない。部屋に控えている時田にも視線を向けたけど、その目は「分かりませんな」って感じだった。


「お芳ちゃんは?」


「ご当主様、お嬢が分からないものが、私に分かるわけないでしょ。多分だけど、当人しか理由は知らないと思うよ。ねえ、輝男」


「……そう、ですね」


(おっ、脈ありな奴がこんなところに!)


 推論でも何か考えがあるというので、部屋中の視線が扉の側で控えていた輝男くんに集中する。

 だから「続けて」と促す。


「以前お聞きしたお嬢様からのお話から考えて、相沢と言う方は自己犠牲精神の強い方です」


「つまりこれも自己犠牲の形?」


「はい。彼一人が責任を負う形で、元凶、いや違うな、旗頭となる方を事前に排除したのでは、と考えました。私が相沢という方なら、そうします」


 ある意味、輝男くんらしい答えだ。

 確かにゲームの輝男くんと相沢中佐は、全体のために自分を犠牲にすると言う点で行動パターンが似ている。

 ただ、相沢中佐の動機が分からない。


「輝男くんは、相沢中佐が何に対して自己犠牲を発揮したと考えるの?」


「尊皇精神の強い方と聞きますので、国そのものに対して。ですがこの場合は、陸軍の破滅を救う為ではないでしょうか。それに副次的ですが、彼が慕うという青年将校達も。

 真崎大将という旗頭がなければ、君側の奸を排除して天皇親政を行なって頂こうと考える急進的な若手将校達は、事後を託す相手を失って決起できなくなります」


「なるほどな。輝男、よく考えたな。俺もそこまでは考えが及ばなかった。筋も通っているし、的を射ていると思うぞ」


 お父様な祖父が、強く感心している。部屋にいる大人達も同様だ。私も、輝男くんがここまでとは思わなかった。

 だからそのまま、スルリと言葉が出た。


「大したものね。私も脱帽。……ねえ輝男くん、輝男くんなら勉強すれば鳳の高校で一番取れるわよね」


「はい。誓って必ず」


「うん。じゃあ、勉強時間をあげるから、鳳の特待奨学生になってちょうだい。勿論、実力で。そうしたら、この屋敷に余計な男子を入れなくて済むから」


「ご命令、謹んでお受けします」


 全く躊躇なく、慇懃にそして深々と頭を下げる。

 そんな輝男くんには、少しばかり罪悪感を感じなくもない。


「ごめんなさいね。帝大も楽々行けるのに」


「私の役目は、お嬢様のお側に仕える事です。それに拾っていただいた時より、私はお嬢様のもので御座います」


「ありがとう。それじゃあ、これからも宜しくね」


「勿体無いお言葉です」


 そう返事する輝男くんに強く頷き返す。詳しい話を聞く前なのに、何か喉に引っかかった小骨が取れたような心境だ。

 そう思いつつ周囲を見渡すと、一人まだご不満なお嬢さんがいた。


「お芳ちゃんは何か別の意見が?」


「うん、じゃなくて、はい。なんて言うのか、クレバーすぎる選択だなって」


「クレバーすぎる?」


 お父様な祖父も興味を持った。勿論、私もだ。


「快刀乱麻を断つじゃないけど、今後起きる大きな問題が片付いたように思えるから。その相沢って人、よく言えば生真面目、悪く言えば愚直な人だよね」


「裏に誰かいるって? 何か吹き込んだ輩が?」


「そこまでは言わないけど、何か影響されたんじゃないかな、とは思う。思います」


「奴が耳を貸すとなると、血の気の多いケツの青い餓鬼の将校どもだが、そんな切れる頭はないし、真崎閣下を排除するという言葉を吹き込むわけがないな。確かに、その点は答え待ちだな」


 お父様な祖父の言葉が、結局のところの現状だった。クレバーな考えを聞いたところで、所詮、今しているのは床屋談義に近い。

 そして、その答えが夜遅くやってきた。




(お前か! お前なのかっ! いや、お前なら、ありえるよな!)


 夜も遅く『答え』を聞いて、眠気も気だるい気持ちも全部一気に吹き飛んだ。それどころか、怒鳴り散らすのを全力で抑え込むのに必死になった。

 おかげで、私はしばらく相手に対してリアクションを取ったり話しかける事すら出来なかった。

 そして私の前には、お兄様が連れてきた軍服姿の西田税がいた。



「ただいま帰宅致しました、ご当主」


「夜分遅く失礼いたします」


 夜10時を回った頃、お兄様が西田税を連れて鳳の本邸に帰宅した。そしてそのまま本館へとやって来る。当然二人は軍服姿のままだ。

 そして夕食もロクに食べていないとの事なので、簡単な食事を取らせ、さらにシャワーも浴びさせた。そして居間に現れた二人は、軍服姿のままだった。普段のお兄様なら、別館の家ではもっと寛いだ格好をするのだけれど、西田がいるからか、それとも気を緩めない為か軍服に戻っていた。

 そして上座のすぐ横、私の前にお兄様と西田が座る。部屋には、鳳の本邸に住む大人達と鳳グループの危機管理担当の人々が集まっていた。


 そんな中で、まずは現状で分かった事の経緯の説明があった。ただし内容は、夕方聞いた話を少し詳しくしただけでしかない。追加情報としては、相沢中佐が憲兵隊に身柄を拘束されたというくらいだ。


 もちろん教育総監部にも、一夕会が実務職の幹部職を多くを牛耳っているし、お兄様や西田の直接の知己もある。ただ、事件が起きて、陸軍省、参謀本部に情報が伝わると箝口令状態となり、事件に近くで出くわした者と接触が難しかった。


 当人の情報となると、極めて限られている。

 だから永田鉄山もお兄様も、なぜ事件が起きたのか、何がどうなっているのか混乱したのだそうだ。

 そうしたところで、昼休みに西田がお兄様に接触してきた。


「私は、龍也先輩と伯爵令嬢から、かなり前に相沢三郎中佐殿の可能性についてお聞きしておりました。ですから、間違った行いに向かわぬよう、何度か話をしております」


「そのうち一度は俺も立ち会い、相沢中佐殿とは一定の共通認識を得られたと考えていたのだがな」


 お兄様が、言葉の最後に苦い笑を添える。

 そしてその表情を西田が否定する。


「共通認識が得られたのは確かだったと、自分も考えます。ただ相沢中佐殿は、こう言ってはなんですが、あくまで陛下を皇太子時代にお守りした龍也先輩に尊敬と憧憬の念があったから、言葉にも耳を傾けたのかと」


「耳を傾けただけ、という事か?」


「今日の事から考えると、そうだったとしか」


「それで西田君、お前さんは何を吹き込んだ?」


 お父様な祖父は、まるっとお見通しらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり西田は特大の地雷だったか
[良い点] あー、西田が黒幕なんですか。やるな、流石はテロリストになるために生まれた男。奴が主人公側の立ち位置に居ることに未だに違和感しかないんですけど笑 [気になる点] 尊皇をキメすぎた相沢中佐なの…
[一言] どうせ事件を起こすなら別人になすりつけようぜ! が大成功したわけか。
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