表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

436/750

427 「湘南海岸での避暑」

 夏休み、熱海から湘南海岸の鵠沼へ。

 鵠沼の別荘は夏に時折立ち寄るけど、そろそろ別荘は引き払うべきかと言う話が出てきている。私鉄が通ってからと言うもの、鵠沼は別荘地ではなく郊外住宅地として発展しつつあるからだ。


 それに鎌倉を挟んだ反対側の逗子には、立派な別荘がある。ただ逗子の別荘は、善吉大叔父さんの奥さん、私にとって大叔母の佳子けいこさんが殆ど住み着いた状態になっている。

 鳳の本邸に善吉大叔父さんが住むようになったけど、本館にはまだ私がいるし、旧館、別館にも他の一族が住んでいるから、居心地が悪いらしい。


 また、私は鵠沼の別荘は気に入っている。だから塀を高くするとか警備を強化する程度で、そのまま維持するようにお願いしていた。

 私が気に入っているのは、私の体の主の両親、麒一きいち希子きことの記憶の残滓があるから。ただその記憶も、年々薄れている。


 そして何より、江ノ島を近くで見る事が出来る。こちらは、日本の最悪の破滅を避けるという事を忘れない為だ。だから湘南に来たら、必ず江ノ島を見る事にしている。

 


 そして別の理由で、鵠沼の別荘は主に虎三郎一家には好評だ。何しろ横浜居留地から20キロほどしか離れていないから、車で気軽に往復できてしまう。しかも東京から横浜経由での舗装道路も整備されたので、この一家が転がす高級スポーツカーなら、その気になれば数十分で来られてしまえる。

 そしてその高級スポーツカーが生み出す高音が、別荘の辺りに響いていた。



「この景色を製造もとのデューセンバーグの人が見たら、どう思うかしら?」


「喜ぶんじゃない」


 車を出迎える私と瑤子ちゃんが、少し離れた場所で品評する。男子どもは、5歳は若返ったかのようなお子様モードで、高級車に群がっている。

 ちょうど車が2台、入ってきたからだ。


 これで、セダン2台、スポーツカータイプ1台、セダンの防弾仕様が2台。締めてお値段十数万ドル。価値の分かる人が見たら、腰を抜かすかもしれない。

 ただ、この車は殆ど手作りで世界中でも数が少ないから、日本では鳳一族しか保有していない超レアカーで、日本での知名度は凄く低い。市中を走っても、ごく限られた車マニアが気付くかどうかだ。


 もっとも私が興味があるのは、その乗り手。だからこうして、別荘の玄関で出迎えるべく待っている。男子どもみたいに、車まで行くものではない。

 ただ、お嬢様するのも、それなりに面倒臭いってだけの話でもある。



「久しぶり、玲子さん。オーストラリアでは、お疲れ様」


「お久しぶりですハルトさん、それに虎三郎、ジェニファーさん」


「おう、ボーキサイト探しご苦労さん。アルミは色々使い道があるから、楽しみだ」


「トラはいつもそうね。玲子さん、気にしないでね。それにご苦労様でした」


「ありがとうございます。そんな事より中へ」


 こうして虎三郎一家のうち、アメリカ留学中の次男のりょうさん以外が揃った。他は私と同世代の鳳の子供達。

 勝次郎くんが何故かいるけど、他家の別荘なので泊まる予定はない。勝次郎くんは、瑤子ちゃんと過ごすという表向きの理由で、デューセンバーグを見にきただけだ。

 こういう子供っぽさはゲームでも見られたけど、もう私が可愛いとか思っちゃダメなんだろう。


 なお、勝次郎くんは、夏の間は箱根・芦ノ湖畔にある別邸で過ごしている。それが、わざわざ湘南まで遊びに来ている事になる。

 見た目はゲームとほぼ同じ身長になったのに、やっぱり中身はまだまだ子供なところがあって可愛い。

 そして男子どもは、虎士郎くん以外はまだ車を見ているので、先に中へと入ってしまう。


「玲子さんは、お盆後半の予定は?」


 そんな車に群がる男子どもを見ていると、ハルトさんが隣まで来ていた。


「いえ、特には」


「じゃあ、お盆の後半、軽井沢はどうかな? 二人っきりとはいかなくて、僕たち一家と一緒になるんだけど」


「軽井沢の別荘ですか?」


「うん。今は紅龍さん達が滞在しているけど、後半は空いているから確保してあるんだよ」


「そうなんですね。喜んで。私、軽井沢って行った事ないから、楽しみです」


「それは良かった。でも意外だね」


 言葉だけじゃなくて、本当に意外そうな表情。

 お前らと紅龍先生達がいつも占領しているからだよ、って言ったらどういう反応を見せるのか、ちょっと試したくなる相変わらずのイケメンだ。


「巡り合わせが悪いらしくて、使いたいと思った時は先に誰かが予約を入れているんです。だから今回のお誘い、凄く嬉しいです」


「そうなんだ。軽井沢は単に暢んびりするだけじゃなくて、ゴルフ、テニス、乗馬もできるし、それに買い物も楽しめるから、何度行っても飽きはこないと思うよ」


「そうなんですね」


(21世紀と同じなんだ。と言っても、古い建物が同じなだけだろうけど)


 そんなイチャイチャ会話をしているけど、大きなリビングの各所も似たような情景が各所で広がっている。瑤子ちゃんだけがピンだけど、ジェニーさんと談笑中だ。

 虎三郎はどうしたのかと言えば、男子達に心行くまで車の解説をしている。

 そしてしばらくすると、満足げな男どもがリビングへと入ってくる。特に虎三郎が満足げだ。私に説明する時とはえらい違いだ。


「満足した?」


「ああ。三菱もいつの日か、あんな車を作ってもらいたいな」


 勝次郎くんが、すっかり少年の目だ。いや、15歳だから十分に少年だけど。


「じゃあ今度は、鳳のテスト場で全力走行を体験してみたら。面白いわよ」


「玲子は体験したのか?」


「ええ。面白いから、マイさんかハルトさんにねだって何度か。けど、一般道で高速発揮できる場所がないのが、難点よね。日本にもアウトバーンを作るよう、建白書出しているんだけどなあ」


「確か時速200キロ超えだろ。晴虎さんも凄いですね」


 冷や汗気味の勝次郎くんに対して、ハルトさんは涼やかなスマイル。


「運転なら舞が一番だよ。もっとも、舞でも専属テストドライバーには負けるけどね」


「テスト用のデュースがあるんですか?」


「まだSJが1台、テストコースを走っているよ」


「……玲子、鳳はデュースを何台持っているんだ?」


 羨ましさ半分、呆れ半分な目が、私を見据えるように見てくる。


「さあ。虎三郎に聞いたら。私の知る限り、新旧合わせて10台だけど」


「……世界にデュースが何台あるのか知っているか?」


「ええ。こないだデューセンバーグ社のレポートは見たわよ。400台以上、500台未満てところね。いくら超高級車でも、生産台数が少なすぎよね。そのせいか、経営も危ないらしいし。だから虎三郎は、出資か融資しろとか言い出すのよ」


「台数はともかく、それは知らなかった。するのか出資か融資?」


 その言葉には、ハルトさんも興味深げだ。

 けど私の考え、というか鳳の考えは決まっている。


「しない。無駄遣いすぎだもの。虎三郎が、フォード様にお手紙書いただけ。けど、フォードも高級車ならリンカーンのブランドがあるし、大量生産が売りのフォードとデューセンバーグじゃあ、相性悪すぎでしょう」


「アメリカと関わりの深い鳳がしないのなら、三菱では全くダメだろうな。俺があれを買えるようになるまで、なんとか保って欲しいな」


「そのうち三菱で作れば? 三菱なら技術はあるでしょう。虎三郎も、レース用だけど半ば趣味でワークスまで抱えて作っているし」


「陸軍からは、乗用車の試作依頼は来ている。だが三菱には、虎三郎氏のような技術出身の経営者は、少なくとも自動車や車両方面にはいない。ましてや一族内では尚更だ」


「それもそうか。けど鳳も、蒼家の方は善吉大叔父さんと虎三郎以外、社長級の一族はいないわよ」


 勝次郎くんと話すと、どうしても軽い話題から逸れがちになる。だからだろう、ハルトさんが声色明るめにした。


「それより勝次郎君は、ここには今日だけ? 良ければ、お盆までにもう一度来てくれたら、一緒に走らないかい?」


「構わないんですか?!」


「勿論。運転は舞の方が上手いけど、乗るなら男同士の方が気兼ねせずに済むだろ」


「じゃあハルトさんを1日貸してあげるわ」


「あ、ああ、ありがとう」


 私には少しぎこちない笑顔だったけど、まあ男同士で仲良くイチャイチャしてくればいい。

 それに、多分だけど二人で話し合いたいんだろうと思えた。



箱根・芦ノ湖畔にある別邸:

現在の山の上ホテルのルーツ。

1911年、第四代三菱総帥の岩崎小弥太が別邸を造営。



軽井沢:

明治時代に、外国人達が見つけて避暑地としたのが始まり。第一次世界大戦の好景気の頃から、日本人向けの別荘地として発展。この時期に、ほぼ現代に至る原型が形成される。



デューセンバーグ:

オーナーが破産して1937年に倒産。

アメリカの1920年代を伝える車となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ