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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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416 「夏の資源行脚(1)」

「あれ、今回は2機で行くんだ」


 主に子供達が大きな旅客用大型飛行艇『白鳳』をポカンと見上げている中、私にとっての感想はそれだけだった。


 場所はもちろん羽田空港。そのうち、鳳が区画を占有している形の飛行艇区画。海辺にある大きな格納庫からはコンクリート製のスロープが海へと伸びている。

 そして目の前には、既に格納庫を出て準備中の大きな飛行艇が1機ではなく2機いた。旅の準備はエドワードに任せていたので、イケメンパツキンの姿を視線で探そうとする。けどその必要もなく、斜め後ろの視界の隅に目的のイケメンパツキンのエドワードが軽くお辞儀をする。


「お嬢様、今回は旅路が長いので、飛行中の万が一の故障に備えて2機用意致しました」


「空の上で故障って、シャレにならないわね」


「空の上で突然エンジン全てが止まる事態でない限りは大丈夫ですし、そのような事例は今まで一度もございません。ですが、中継地に降りてその翌朝すぐ飛べないという可能性は皆無ではないので、その備えとお考え下さい」


「そういう事ね。了解。けど、見かけない人が多くない?」


「空の旅の中継地で活躍してもらう整備士達です」


「現地にいないの?」


「サイパンとパラオには鳳航空輸送の者が常駐しておりますが、目的地のオーストラリアには、この機体を見る事のできる者がおりません。それにこの機体を見る事のできる整備士は貴重で、船で現地に先行させるのも時間的に無駄ですので、今回のような措置と致しました」


「なるほど。そりゃあそうよね。それで、どう分乗するの? 危険分散で、私達はバラバラに?」


「そうさせて頂ければ幸いです」


「うん。じゃあ任せて良い?」


「勿論です」


 そんなやり取りの後、エドワードの言われるまま飛行艇に乗り込むと、春に乗ったやつとは内装が違っていた。



「随分豪華ね」


「貴賓仕様です。イギリスでもラウンジを持つ大型飛行艇があり、アメリカでも似たような機体を製作中との情報もあり、対抗上用意したそうです。それにこの機体、日本でも上流階級の方には好評を頂いております」


「まあ、日本じゃあ他にないわよね。と言うより、これだけ詰め込める大きな飛行機はないか」


「はい。鳳の自慢の機体との事です」


「2機用意したのは、乗れる人数が減るのも理由?」


「空いている機体がこれだけだそうです」


「上流階級が乗ると言っても、常に使う人がいるわけもないか。あっちは普通なの?」


「はい。あちらは通常型です」


「それじゃあ、悪い事したわね。帰りは交代しましょう」


「畏まりました。それではお席に」


 そう促されて座った機体は、要するにVIP仕様。まだ日本には、存在しないブルジョア趣味の内装が施されている。重い家具とかは流石にないけど、全体的に前に乗った機体より贅沢だ。

 何より乗客室の前半分がラウンジになっている。

 後ろの乗客数は16席。うち4人用はベッドにも使えるロングソファー仕様。この飛行艇の航続距離的に丸一日飛べたりはしないし、この時代は夜間飛行なんてしないけど、昼寝くらいは出来るだろう。


「ウワッ! なにこれ、一等車みたい!」


 私が席に落ち着いたところで聞こえてきた元気な声はサラさんだ。私のように先に乗り込んだ人達も一様に驚いていたけど、サラさんの声が一番目立った。そしてサラさんが乗り込んできたように、こっちは女子率高め。

 瑤子ちゃんと勝次郎くんもこっちの組。エドワードを込みでVIPはこっちが5人、向こうが玄太郎くん、虎士郎くん、それにマイさん夫婦の4人になるから、貴賓の頭割りはこんなもんだけど、私付きのシズ達は必然的にこっちに多くなるから、女子が多めになってしまう。


 それに向こうの方が乗れる数が多いから、使用人、護衛、側近、商事や総研の社員、それに整備士は向こうが多い。

 そして今回の旅の総数は、船で先発した者を除いた飛行艇組は、46名。うち貴賓が9名。貴賓の年長はエドワードが一応一番だけど、20代半ばなので涼太さん、マイさんとそう変わらない。

 そんな人たちのうち16人がこちらで、みんなが座って落ち着いた辺りで機長のご挨拶。

 

「皆様、本日は鳳航空輸送にご利用いただき、誠にありがとうございます。本機は東京羽田空港を離陸致しますと、約9時間の飛行でサイパン島へ到着いたします」


 お決まりの言葉を頂いて、皆さんシートベルトを締めていざ離陸。そして飛行艇が海に出て海から飛び立ち、そして大きく横旋回しつつ高度を一定程度まで上げると、南下を開始する。

 そしてその段階で、斜め後ろに同じ白い大きな飛行艇が位置する。



「編隊飛行とは、鳳は相変わらずブルジョア趣味だな」


「合理的と言って。それに三菱に言われたくなーい」


「確かに三菱は大財閥だが、山崎家は鳳家より、何と言うか地味だと思うぞ」


「アハハハ。確かに鳳って、他と比べると派手よね」


 水平飛行に入ったので、せっかくだからとみんなを誘ってラウンジでの歓談。私、瑤子ちゃん、勝次郎くん、サラさん、それにエドワードも。流石にまだ軽食や飲み物は早いので、ただ駄弁るだけ。


「でもエドワードさん、向こうの飛行艇の中身は地味なんでしょう?」


「ええ、瑤子お嬢様。あちらは全て通常座席になっています」


「だから帰りは、飛行艇を入れ替えよ」


「1日8時間も同じ椅子に座りっぱなしだと、入れ替えないと不公平ね」


「そうなんだな。両方同じと思ってた」


「三菱の人は、うちの飛行艇には乗ってくれてないの?」


「社の者は、遠方への移動には使っていると聞いている。日本航空輸送を始め、他の航空会社の飛行機は小さいし、一度に遠くまで行けないからな。だが、この豪華な機体は知らなかった」


「三菱は鳳みたいに飛行機を自前で持たないの?」


 知ってかしらずかサラさんが気楽に質問すると、勝次郎くんに小さめの苦笑が浮かぶ。きっと私が軽くディスられる前兆だ。


「日本航空輸送には出資していますが、三菱は飛行艇も旅客機も作っていませんからね。玲子の先見の明には、いつもながら脱帽です」


「今からしないの? 三菱の財力と技術力なら作れるでしょうに」


「玲子よ、言っては悪いが、これは無駄とは言わんが使い過ぎの投資だ。三菱では通らないに決まっているだろ」


 結局、勝次郎くんには、めっちゃ呆れた声で返された。


「先行投資と言ってよ。それにイギリスの会社が、2機ほど買ってくれたわよ」


「よく海軍が許したな」


「世界中から飛行機や飛行艇を買い集めて、その技術解析をさせて、私が旅客機作ってって出資したのよ。海軍が文句言えるわけないでしょ。しかも海軍は、この飛行艇とか、私が買った海外機の技術を間接的にタダで手に入れるんだから、言ってきたら代金要求してやるわよ」


「……海軍にそこまで言えるのは、日本中で陛下と玲子くらいだぞ。恐れを知らないやつだ」


 ワガママと文句ばっかり言う海軍の担当者を思い出しつつポンポンと口にしたら、勝次郎くんにまた呆れ顔をされてしまった。けど、気にしたら負けだ。


「そうなの? 確か海軍って、三菱が自分の言うこと聞かないから、うちが囲っていた川西を乗っ取ろうとしたのよ」


「海軍は無茶な要求をよく出したりするから、その点では反発もする。三菱の技術者達には、矜持があるからな。玲子とは、理由が少し違うぞ」


「私、軍の要求とか知りませんからねー」


「そうなのか? 新型の重戦車は、玲子の発案を形にしたと龍一から聞いたが」


「素人の思いつきを言っただけよ。試しに作った虎三郎も、これは売れんだろうって言ってたくらいだし」


「だが鳴り物入りだと聞いた。性能も従来のものとは桁違いだから、諸外国には可能な限り伏せる機密扱いだとも」


「機密ってのは初耳。けどまあ、生産する前の試作型が、3対1でも現行機種が歯が立たなかったって言ってたから、そんなものなのかもね」


 言ってから、これは少しまずいかもと思った。

 何せ勝次郎くんは、三菱の人間だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 子供たちにもとうとう大人たちのうわさ経由でなく 実際にお嬢の規格外な一面を見せるのか 確かに子供って年齢ではなくなりつつあるから 鳳財閥の力の源泉を知るのにちょうどいいかな
[一言] 量産設計の研究に三菱とになるやつかな?
[良い点] 未来知識込みで無惨な結果に終わるフラグがビンビンに立ってますものね(三菱製二代目国産機MRJの末路を見ながら)。 [一言] 戦車はなー、元にしたガワのやつはアメリカじゃ普通に作れて量産出来…
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