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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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413 「夏の予定」

 6月吉日、鳳虎三郎の長女鳳舞と安曇野涼太が結婚した。

 鳳一族の結婚は数年ぶりで、紅龍先生以来になる。

 蒼家の結婚で見ると、善吉大叔父さんの子供、私の叔父や叔母達が1920年代に式を挙げている。鳳一族全体だと、紅龍先生とベルタさんの結婚など紅家の結婚は他にもあった。

 一族の数がそこそこ多いから、一族だけで結婚式には事欠かない。


 ただ、財閥とも華族とも関係のない所謂一般人の涼太さんがマイさんの婿養子になるので、世間の注目度は低い。上流階級として見ると、鳳と姻戚関係を結ぶ駒が一つ減ったというくらいの注目度でしかない。

 また、マイさんは鳳グループのモデルなど広報活動で人々の前に姿を見せていたけど、映画女優でもないし、何も知らなければモデルの一人でしかない。


 そして世の中の評価としては、他の大きな家ではなく敢えて普通の人を婿養子に迎える事は、鳳一族としての結束強化を重視したのだろうと見られていた。当然、涼太さんは非常に優秀な人材と周りは見ている。

 そして2年後には、私とハルトさんの結婚が待っている。周りから見れば、本家の頭数が減った鳳一族が、虎三郎一家で補う一連の行動と見ている事になる。


 そしてそんな事をする鳳一族は、武家のようで時代に逆行する連中だという評価が一部で見られた。

 一方では、現在噂されている関係だと、国内で三菱と関係強化する動きがあるのは当然として、海外ではアメリカ上流階級との関係強化を画策している事は、どちらかというと白い目で見られていた。

 日本でも、国粋主義、ナショナリズムが高まりつつある影響だ。


 式自体は明治神宮でガッツリしたけど、披露宴は当人たちの希望もあり出来るだけささやかにした。

 と言うよりも、涼太さんの家は普通の家庭。父親はサラリーマンなので、一応この時代のエリート側だけど中流家庭。

 それに引き換え鳳一族は、伯爵家にして今や日本屈指の大財閥。虎三郎の家に限定しても、虎三郎は鳳重工など鳳グループの重工業部門のボスだ。


 それに、以前聞いた事があったけど、涼太さんの家は親戚付き合いが薄いから、結婚式に参加したいという人も少なかった。鳳の財産と地位に擦り寄ってくるお馬鹿さんも、少なくとも表立ってはいなかったそうだ。


 そして私だけど、既に虎三郎家の長男であるハルトさんと婚約しているから、家族枠での参加となった。

 けど、ハルトさんの横で参加しただけ。それ以上は特にしてないない。宗家としてはお父様な祖父も出席していたから、そっちに全部お任せ状態だった。


 だから私は(白無垢のマイさんキレー)、(涼太さんのご両親、確かに普通の人って感じだなあ)、(あっ、妹さんいたんだ。かわいー)などと思いつつ過ごしただけだった。




「けど、良かったんですか?」


「何が?」


「10日ほどしか休まなくて」


「伊勢に新婚旅行に行ったし、十分二人っ切りで過ごせたわよ」


 6月後半の某日、私の仕事部屋には、もうマイさんが復帰していた。話している通り、結婚披露宴のあと伊勢神宮を中心にした新婚旅行に行った。

 この時代だと、上流階級から中産階級くらいまでが新婚旅行を良くするようになり、関東圏の中産階級だと熱海や箱根辺りに行く事が多い。


 マイさん達は伊勢に行ったけど、お伊勢参りをする事で念のため口煩い連中が何か言ってきた場合の配慮でもある。

 ただ、往復の交通を含めても伊勢周辺を一週間は多目だから、半分は熱海の鳳の別荘に滞在していた。

 私が船を貸すから、せめて日本一周くらいしてきたらと提案したら、全力で拒否られた。


「それじゃあ、新しい家の方はどうですか?」


 結婚してからの二人は、鳳の本邸の近くにある「六本木アパート」の、広めの一軒を取り敢えずの住いにしている。

 このアパートは金持ち用のマンションで、1階フロアにはコンシェルジュが常駐したりする本物の高級アパートメントだ。

 コンシェルジュ常駐は、私が前世の知識からさせた演出だけど、好評だし宣伝にもなっていた。


 本来なら多少郊外でも一軒家をと思ったけど、マイさんは私の元に、涼太さんは鳳ビルに通いやすい場所という事と、警備上の都合などもあって選択した。

 なにせこのアパート、鳳グループの幹部も結構住んでいるから、うちの警備も24時間で入っているし、周辺住民も調べてあるから、元から周辺を含めたセキュリティが高い。

 何より二人の通勤に便利だった。


「玲子ちゃん、気にしすぎ。玲子ちゃんの運転手は外させてもらったから、普段もちゃんと夫婦水入らずの時間も過ごしているわよ。とはいえ、涼太が少し落ち着かないみたいだけどね」


「何か問題が?」


「ホラ、私達は使用人やお手伝いがいるのが当たり前だけど、そういうのは中産階級くらいからでしょ。私達は、住み込みじゃないんだけどね」


「家の中に、自分達以外が居るのが落ち着かないんですね。けど虎三郎のお屋敷って、使用人は少ないんですよね」


「ええ。トラとジェニーは、できるだけ自分で出来るようにっていう方針だからね」


「それはそれで、ちょっと羨ましいですね。私が一人の時って、部屋にいる時くらいだし」


「その点は本当に大変よね」


「私の場合、シズ達は家族同然ですから。それはともかく、涼太さんは慣れるしかないですね」


「そうは言っているけどね。私は家の事の大半は使用人任せで、こうして仕事出来るから助かるんだけどね」


「気持ちの持ちようですね。それに、これからの日本は生活道具がますます便利になって、一人暮らしも楽に出来る時代がいずれ来ると思います。その為の道具も、色々とアイデアを伝えて開発もしてもらっていますから。

 けど、女性の社会進出を考えると、家事手伝いや保育の役目の職業化を進めて、高価値産業に従事する女性の労働基盤も整えて行くべきでしょうね。あー、けど、その前に男尊女卑の意識改革かなあ。男どもは度し難いし」


「すごい、玲子ちゃんは相変わらず先を見ているのね。けど女中を家に置くのって、昔のお武家さんと同じだから、高級感があるんじゃないかしら?」


「確かに。うちなんて、使用人というより家臣団ですしね」


「言えてる。お芳ちゃん達も、側近団っていうより近侍っぽいものね」


「私達は書生だけど、おみつや輝男達がそうですね」


 さっきまで書類に目を通していたお芳ちゃんが、少しだけ顔を上げる。同じ机には銭司でず福稲くましろの頭脳担当二人も仕事中なので、私の仕事部屋自体が少し手狭になっている。

 警護担当のみっちゃんや輝男くん達男女6名に、シズ、リズを合わせると、交代でも部屋に1人しか待機させられない。


 けど側近候補の大半は、まだ学生として学び、それ以外でも技術習得に時間を割いている事が多い。

 けど、今年で16になるから、もはや大人扱いだ。だから警備担当はそろそろ連れ歩くべき時期に来ている。

 そしてその機会が、夏にある事を思い出した。


「そう言えばマイさん、夏の予定はありますか? 取り敢えず、お盆前までで」


「お盆前か。お盆休みは二人でゆっくりしたいと思っていたけど、また長期出張の予定よね?」


「はい、オーストラリアに。いつ行くか決めていなかったんですけど、行くとしたら夏休み中が角が立たないかなって」


「それもそうね。仕事だし私は全然構わないわよ。しばらく涼太に会えないくらいで、気を回さなくても良いわよ」


「それなんですけど、大規模な調査をするから、鳳商事だけじゃなくて総研からも人を同行させようかと思ってて」


「涼太も一緒に連れて行ってくれるの? でも総研って、現地で何するの? 情報を集めて分析するのが仕事よね」


「情報を元にした相談、コンサルティングなんかもするでしょう。それを現地でもさせようかと。商事の人ってイケイケドンドンな人が多いけど、私や他の上の人が手綱を引きすぎるのも問題だから、その間に立ってもらう立場で。涼太さんは貪狼司令の副官格になったから、ちょうど良いかなって」


「涼太に務まるの?」


 お芳ちゃん達に視線を向けつつ、返事を返す。


「法律関係は別に連れて行きます。それと、事前に船をオーストラリアの北部に派遣するけど、行くだけで二週間はかかるから、私としては時間がかかりすぎるので」


「飛行艇で行くから、連れて行ける人が限られるのね。だから、少数精鋭で情報提供と調停、相談が出来る人も欲しいってところ?」


「そんな感じです。貪狼司令にはこれから話すけど、多分貸してくれると思います」


「相談役なら、玲子ちゃんの秘書の私とも会って話す機会も多そうね。ご配慮、感謝いたします」


「いえいえ、どういたしまして。仕事ですけど、移動中とか暇な時は旅行気分を味わえると思います」


「一緒に居られる時間が増えるだけで嬉しいわ。旅程は?」


「飛行艇で4日かけて、オーストラリア北西部の鉄鉱石の積み出し港へ。そこから船でオーストラリアの北部沿岸をぐるっと巡って資源探し。北東部の海岸から飛行艇で4日かけて帰国。最短で半月、予備日や不測の事態を込みで3週間の予定です」


「オーストラリアかあ。行った事ないから、楽しみね」


「何もないところしか行きませんけどね」


「ちなみに、どんなところ?」


「岩山、砂漠、荒地、草原、亜熱帯森林、人は殆ど住まず。あ、でも、最後の方でグレートバリアリーフは見れますね」


「大きなサンゴ礁?」


「はい。世界最大、水平線の果てまで続くサンゴ礁。空からの眺めが見ものですよ」


「それは楽しみね。あとは、往復の中継地くらいかしら?」


「中継地は内南洋のサイパン島、パラオ諸島、それに行きはオーストラリアのダーウィンって街に寄ります。どこも、サンゴ礁が精々だと思いますよ」


「内南洋も行った事ないから、見られるだけでも興味深いわね。何か事前準備とかある?」


「夏休み入ってすぐですけど、必要なものは先行する船に積んで行くので、7月までに個人的に必要な大きい荷物とかあったら、用意しておいてください。あとは……マイさんは英語できるし、暇な時に遊ぶ用意くらいかなあ」


「英語かあ。涼太はちょっと不安あるから、仕込んでおくわね」


「そうですね。あ、でも、オーストラリアって訛りが独特だから、私達でも苦労するかもしれませんよ」


「りょーかい。その辺の情報も集めてみるわね」


「それこそ、総研の方が情報あるかもしれません」


「あ、なるほど。涼太に集めさせておくわね」


「お願いしまーす」



 グレートバリアリーフといえば、私の前世の時代だと海外旅行の定番の一つだけど、それくらいプレゼントしても良いだろう。

 何しろ私個人は、マイさん達に結婚のお祝いらしいお祝いができていないのだから。

 

内南洋:

正式には南洋諸島だが、一般にはこう呼ばれた。

西太平洋の赤道より北側のミクロネシア地域。

第一次世界大戦後、日本が国際連盟から委任統治を託された。

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