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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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409 「婚約発表直前」 

 5月11日の日曜日。毎年恒例の鳳家の懇親会パーティーが開催される。場所は鳳ホテルの大宴会場。

 基本的には例年通りだ。


 けど、鳳一族にとって、喜ばしい事が幾つもある。

 まずは私とハルトさんの婚約発表。この件は特に伏せる事でもない事から、招待状を出す時点で合わせて通知されていた。それに、以前から噂を流しているから、もう婚約発表されたに等しい。


 また、一ヶ月ほど先の6月にはマイさんと涼太さんの結婚式があるし、サラさんとエドワードとの仲も噂されているから、さらにお祝いムードが高い。

 山崎家の勝次郎くんと瑤子ちゃんの事は特に触れられていないけど、この件はまだ具体的ではないし、両家が知っていれば良いレベルだからだ。

 そして今回は、私とハルトさんの婚約発表を最初にして、最後にマイさんと涼太さんの結婚の前祝い的な事をする。

 とはいえ、どちらも婿養子というのは、少し締まらない気がする。


(それになあ。私、本当にハルトさんと婚約して良いのかな?)


 加えて、この世界に転生してきた私の偽らざる気持ちの一角を占めている。なにしろ、私から見てこの世界は乙女ゲーム『黄昏の一族』の舞台だ。少し状況は違っているけど、存在する人達の多くが重なっている。

 もっとも、ゲームと同じもしくは私の体の主と同じ結末なら、私自身は勿論のこと鳳一族と鳳財閥も破滅する。その破滅を避けるべく今まで色々してきた身としては、もはや今更感があるのも確かだ。

 だからではないけど、『まあ良いか』や『今更考えても仕方ない』と思う気持ちの方がずっと強い。

 それでも周りの情景を見つつ、色々と思いはする。


(まあ、攻略対象達を追いかけるのも追いかけ回されるのも、私じゃなくて姫乃ちゃんだし、別に構わないわよね)


(確か、この手の逆転ものの話だと、悪役令嬢は逆ハーレムを作るらしいけど、常識的に考えれば男妾に出来そうなのは精々輝男くんくらいよね。けど、そんな気もサラサラ起きないっての)


(……それより、私がハルトさんと婚約するって事は、姫乃ちゃんもハルトさんと接触するようになって、もしかしたらハルトさんを狙いに来る? いやいや、そんな事したら、姫乃ちゃん私が知らない間に東京湾でワカメか昆布になっているわよね。お父様も時田も、ついでにセバスチャンも、その辺容赦ないし)


(となると、ゲームのメイン攻略対象になる勝次郎くん狙い? けどそうなったら、悪役令嬢枠の私じゃなくて、女友達枠の瑤子ちゃんと恋愛バトル? うーん、ゲームと違いすぎて想像つかないなあ。それに勝次郎くんの家に、エライ迷惑よね。もしそうなら路線変更させないとなあ)


(けどなあ、私の見る限りの姫乃ちゃん、別に音楽好きじゃないから虎士郎くんが興味持たないよね。輝男くんとは、これからに期待なんだろうけど、私の側近達と色恋沙汰ってのも避けて欲しいわよね)


(となると、玄太郎くんか龍一くんかあ。けど龍一くんは、お兄様と同じくどこかの武家の出の華族か士族の人がお相手って思っているし。一番フリーなのは、浮いた話をしない玄太郎くんか)



「何を考えているんだい?」


「えっ? あの、少し緊張しているみたいで、関係無い事ばかり色々と頭をよぎって」


「アハハ、ちょっと分かるよ。僕も今似た感じだよ。こうして話している方が、気が楽になるよ」


 私的に、姫乃ちゃんの一番無難な将来のお相手のルート選定が見えたと思ったところで、隣にいたハルトさんが少し緊張した面持ちで笑みを浮かべている。

 そして二人して締まりのない笑みを浮かべているのは、会場ではなく控えの間。大人の男子達が宴会前にタバコタイムなので、大人の女子と小さな子供達、10代中心の若手、その他の来賓な感じで、小宴会場を割り振っている。


 そして私が色々と思っているように、この部屋の各所に鳳の子供達と身近な関係者達が、それぞれ談笑したり準備をしている。

 さらに言えば、今年はカップルが多い。私とハルトさん。マイさんと涼太さん。それに瑤子ちゃんと勝次郎くん、サラさんとエドワード。私の護衛担当という事もあり、輝男くんとみっちゃんも執事服とメイド姿で部屋の隅に並んでいるから、カップルに見えなくもない。


 もっとも、数で言えばカップル以外の方が圧倒的に多い。

 私の側近候補のうち、頭脳担当のお芳ちゃん以下3名。鳳女学院の同級生、姫乃ちゃんを含む好成績者数名。鳳中学の成績優秀者の男子数名。龍一くんの幼年学校のご学友数名。勝次郎くん、玄太郎くんの一中のご学友数名と、同世代の子供達も多い。


 そうして私が、虎三郎姉妹の方へと視線を向けていくと、サラさん達ちょうど向こうも私達に視線を向けていたので、視線ががっちんこした。

 サラさんも、兄と姉が気になるみたいだ。


「ハルト兄、緊張しすぎー。玲子ちゃんも」


「初っ端だからな」


「ただ注目集めるだけなら、平気なんですけどね」


 そのまま近寄ってきたサラさんが、私達の肩をポンポンと軽く叩いてくれる。その斜め後ろで、イケメンパツキンのエドワードが小さく会釈する。フォーマルな衣装も仕草も堂にいっている。

 そしてその向こうから、マイさん達も近づいてくる。


「沙羅は他人事だから、気楽でいられるのよ」


「そんな事ないわよ。何年か先は私達の番だし。ねーっ、エドワード」


「ええ、そうですね」


「もうそんなに仲良くなったんですね」


「まあね。ただ、エドワードは、私には勿体なさ過ぎるわ。良いの? 私で?」


「またその話ですか。私はあなたに出逢うために、日本に来たようなものですよ」


 エドワードがアメリカンなゼスチャー付きで断言する。

 (私の監視と王様達とトリアの連絡役はついでか?)というツッコミが無粋な雰囲気に、近づいて来たマイさんも呆れ気味の苦笑だ。先日、ダブルデートをしたと聞いたけど、終始こんな感じだったんだろう。

 ただ、少し気になる事があった。


「二人は、いつぐらいに婚約を?」


「私が今年度で大学出るから来年かな。結婚は……ハルト兄、後がいい先がいい?」


「なんで僕に聞くんだよ。リョウが来年向こうの大学を出るから、そこで婚約。遅くとも2、3年後には結婚したいって手紙にも書いてただろ」


「だから長男の晴虎兄さんが、先に結婚してくれともね」


「おー、そう言えばそうだった。じゃあ私はその次の年かな? 玲子ちゃんはどうなの?」


 兄妹会話なので見ていたら、突然振られた。

 けどまあ、お父様な祖父ともこの辺りは話しているから、特に慌てる事もない。


「今日婚約で、2、3年後に結婚ですね」


「そっか、ハルト兄は30までに結婚だもんね」


「玲子ちゃんが女学校出てすぐが、一番すわりが良いわよね」


「そうなると、今年は舞達。1年開けて再来年は僕達。次に竜で、最後に沙羅達の順かな?」


「同じ年にしたら、慌ただしいもんねー。主にジェニーとトラが」


 そう言って、サラさんがアッケラカンに笑う。それにつられて、主に虎三郎兄妹が笑う。

 ただ、子供が毎年結婚というのも大変だろう。しかも、1組はアメリカだ。


「リョウさんのお付き合いや結婚の話って、私ほとんど聞いてないんですが、順調なんですよね」


「ああ、そうだよ。写真は見た?」


「そういうのは、お父様が話が決まってからって。エドワードも詳細は知らされていないそうですから、全然知らなくて」


「日本と違ってアメリカだから、ちゃんと話が固まるまでは周りが騒がないほうが良いのかもね」


「確かにそうですね。余計な事を聞いてすいません」


「良いよ。同じ一族な上に、義理の……この場合も叔父のままなのかな?」


 ハルトさんが途中で首を捻ってしまった。周りも一瞬どうなるのかと考える。けど、叔父になるとか言っているから、リョウさんは婿養子ではなくお嫁さんをもらう方向なのだろう。

 そうなるとリョウさんが虎三郎の家を継ぐのが順当になるけど、サラさんとエドワードの件もある。


「そう言えばサラさんとエドワードは、どちらが嫁ぐとか方針は決まっているんですか?」


「さあ、どうだろ。エドワード、どうする?」


 私もエドワードに失礼だったけど、サラさんの気にしてないような言葉に、エドワードも一瞬目を丸くする。とりあえず、まだ決めてないらしい。そもそも、婿養子の線もあるという事になる。

 そしてサラさんの言葉に、周囲の視線がエドワードに集まる。


「私は長男ではありません。単純に一族の財力と勢力で言えば、我が一族より鳳一族の方が遥かに上です」


「そういうのは良いから、結論は?」


 理屈立てて真面目に答えようとしているのに、サラさんの前には形無しだ。けどそんな二人は、案外バランスが取れているように見えるから不思議だ。


「あ、ハイ。サラが望むなら、婿養子でも一向に構いません。ただ最低でも、サラが望む場所に家を持ちたいと考えています」


 浮名を流して来たと聞いているけど、サラさん優先すぎるお答え。惚れすぎだろ、と少し心配になりそうだ。


「日本での暮らしに不自由はない?」


「生活も仕事も慣れました。それにサラの一家は半ばアメリカンなので、気にもなりません」


「一応聞くけど、鳳一族は日本人、有色人種でも平気なのね?」


「人種だけで優劣を決めるのは、非合理的です。鳳の皆様も、それを体現してると私は考えております」


「アラ、開明的。アメリカ人がみんなエドワードみたいなら、もっと分かり合えるのにね」


「お嬢様にお褒め頂き、恐悦至極に存じます」


 私とのやり取りなので、執事らしく慇懃なお礼で締めくくられた。けどエドワードは、なんでも出来るタイプの天才肌だけど、確かに人種差別とは無縁だった。


「それじゃあ来年は、二人の婚約発表ね。それまでに、嫁を取るのか婿養子になるのか考えておいて。一応、私の執事だから、報告だけはしっかりお願いね」


「勿論に御座います。お嬢様」


 私自身の事は少しはぐらかした気はするけど、エドワードの慇懃で優雅な一礼で場をしめさせた。

 何しろ、そろそろ会場入りの時間だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 知らずにワカメか昆布にしたら主人公も鳳も日本も破滅するという罠
[良い点] 金はあるからセカンドハウスと言わず、サードハウスにセーフハウスとかあちこちに作っても良いかもですな。 [一言] エドワードカッコつけてるけど、惚れた理由が多分、資料として送られたサラさんの…
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