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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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368 「路線変更」

 勝次郎くんの誕生日の夜、私はお父様な祖父の鳳麒一郎に、ハルトさんは鳳虎三郎に決意を告げた。

 私が告げた場所は、和風建築の離れの居間。以前は曾お爺様とよく話していた部屋だ。そして曾お爺様の時がそうであるように、私とお父様な祖父の麒一郎だけ。

 他はいない。お父様な祖父の筆頭執事にもなった芳賀とシズは、少し離れた部屋で控えている。



「なんだ、もう意図に気づいたのか。まだ三ヶ月なのになあ」


 一通り仮説込みで話すと、開口一番、軽口で返された。

 けれど、付き合いは長いので照れ隠しというのが分かるから、笑みがこぼれるのを自覚する。


「偽装を建前に親密にさせようとしたのが三ヶ月前でも、ずっと前から考えていたんでしょう」


「ああ、そうだ。玲子、お前は同世代とも仲はいいが、年上好きだろ」


「……そう見える?」


「見える。小さい頃から、龍也に甘えて紅龍と仲良くしていただろ。最初は父親がいないからだと思ったが、違うだろ。しかも一方で、玄二みたいな考えの甘いやつとは相性が悪いときた。正直、頭を抱えたよ」


「な、なにも、頭まで抱えなくても」


「抱えるさ。そりゃあ、一応は当主として、親として、お前の相手は決めないといけない。しかも可能な限り早くな。だが、鳳の血には、人の好悪が激しい奴がいる。俺も人の事は言えんが、お前もそうだ。それでも、少しでも良い相手と一緒にさせてやりたい。……まあ、この辺りが諸々の理由だ」


「そっか。色々と考えてくれて有難う」


「お礼を言われるって事は、決まりで良いんだな。龍一や玄太郎、虎士郎、それに山崎の御曹司でなくても良いんだな?」


 少し強めに言葉を積み重ねられた。

 名前を言われるたびに、その重みを感じる。けど、その目はもうない。そう思って言葉を返す。


「勝次郎くんの目は、鳳に鈴木を飲み込ませた時点で完全に消えているでしょう」


「玲子が婚約か結婚までに、鳳が傾くか倒れない限りな」


「もうその可能性は、天地がひっくり返りでもしない限りあり得ないわ」


「そうだな。だからお前の相手は、一族の誰かだ。遠すぎず近すぎず、くだらん野心がなく、鳳を守り育ててくれる奴じゃないとダメだ。何しろ今現在で、本家筋の生き残りは俺とお前だけだからな。財産の多さも考えると、他の家からは迎えられない」


「ハルトさんは、お父様達の御眼鏡にかなったのね」


 そう口にしつつ、当人の顔を思い浮かべる。

 玄太郎くんと、どっちが次代の鳳グループを率いるに相応しいだろうか、と。


「ハーバードを出て、一応軍のお勤めもして、外の会社でも2年間1人で十分やってきた。人格も見てくれも良い。100点満点とは言わないが、現時点で晴虎以上となると龍也しかいない」


 お兄様が比較対象とかハードル高すぎだろと思うけど、違う言葉を口にする。


「龍也叔父様は既婚者でしょう」


「最悪、離婚させる手だってある。一族を守るのが最優先だからな」


 そこまで考えていたのは、流石にドン引きだ。けど、武家に近い感覚を持っていれば、それくらい考えるものなのだろう。自身の甘さを痛感させられてしまう。


「それにお前の良すぎる頭を考えたら、龍也が一番だろう。玄太郎や龍一も将来性はあるが、5年ならともかく10年は待てん。俺は一度結核を患っているから、普通より先は短いだろうからな」


「私じゃあ、龍也叔父様を受け止めきれないわよ。龍也叔父様を、深く優しく受け止められる人じゃないと」


「ああ。幸子を得たのは、望外の幸運だった。そして、あいつらと同じく、晴虎ならお前を受け止められそうだなとも思った」


「ハハハハ、私が受け止められる側なんだ」


 思わず乾いた笑いが漏れてしまう。顔もすごい事になっていると思う。

 お父様な祖父は、してやったりと笑みを浮かべている。


「少しは自覚しろ。それに、話を聞く限り仲は良いそうじゃないか。こればかりは、正直ホッとしたよ」


「ハルトさんは素敵な人よ。私には勿体無い人」


「まあ、そう言うな。もらってやれ」


「お見合い以上の事をしてくれたしね」


「まあその辺は、過去の失敗もあるからな。俺達の代だと、夫婦仲が円満なのは恋愛婚の虎三郎達だけだしな」


「そうなのね。その反省もあるから、龍也叔父様達の代はどこも仲良いの?」


「ああ、出来る限りはした。満点とはいかなかったがな。ずいぶん前にも話したと思うが、お前の父母の麒一と希子も仲は良かったぞ」


 色々な表情を見せつつ、言葉を重ねていく。その表情は、過ごしてきた月日の長さと年齢の年輪を感じさせる。


「そうだったわね。それで私達の今後の予定は?」


 後半で言葉を切り替えると、お父様な祖父もいつもの昼行灯を引っ込める。


「厳密にはまだ決めてないが、お前が15になったら婚約発表、晴虎の年を考えると18までに結婚が順当な線だな」


「そうなるわよね」


「……大学行きたいなら、待っても良いぞ」


「早く次の長子を産む方が良いでしょう。それに、大学で学びたい事って特にないのよね」


「助かるが、そう言うところは達観しすぎだ。突然尼になったりするなよ」


「尼ねえ。させてもらえるの? 私巫女なんでしょう」


「そういえば巫女だったな。まあ、子供を作った後は、多少は好きにしろ。何なら神社でも作ってやる」


「私はそこでお告げをするわけ?」


 「本格的で良いじゃないか」と言ってカラカラと笑う。けど、シャレになってないので、私はジト目で見返してやった。


「冗談は顔だけにして。それで、正式発表は?」


「そうだな、逆にいつが良い? 俺としては15の誕生日か、すぐ後の鳳懇親会の辺りと考えている。どのみちそこで誰かとの婚約発表予定だったから、ちょうど良いだろ。ただし結納は、結婚式の近くでする。だから婚約発表はツバつけみたいなもんだ」


「なにがちょうど良いのか分からないけど、開き過ぎない?」


 そう返しつつも、ゲーム『黄昏の一族』で悪役令嬢である鳳凰院玲華と山崎勝次郎の婚約発表が、設定上でゲーム開始1年前の鳳園遊会とされていたのを思い出す。

 それ以前に、鳳一族は15歳で一人前扱いだ。婚約発表としては妥当な線だろう。


「数え年だともう15だから近いうちでも良いが、晴虎は鳳に戻ったばかりだろ」


「あっ、そうか。一年くらい空けた方がいいわね」


「だろ。それで、玲子からは何かあるか?」


「なにって? ご祝儀でもくれるの?」


「おうっ。できる限りはしてやる」


「そうねぇ……」


 考えてはみるけど、物的に欲しいものは何もない。なにせ私は、日本一の金持ちも同然だ。金で買えるものなら、何でも手に入る。

 だから、金で手に入らないものに考えを巡らせる。


(欲しいものねえ。個人的な幸せは自分で何とかするとして、やっぱり人かな? あっ、そうだ)


「私が18で結婚するなら、私の代わりに大学に行く女の子を増やしてよ。出来るだけ沢山」


「一種の代償行為ってやつだな。それで良いなら構わんぞ。篤志家気取りで、別の奨学金でも作るか?」


「そうねぇ、予科生以上の成績優秀者の女子を、書生として抱えるのはどう? 大学はどこでも良し。卒業後に鳳グループに入るのが大前提だけど、師範学校や士官学校みたいに学費だけじゃなくて給与を出す。鳳で一定期間働かない場合は、その金は貸付金として返済義務を負わせる」


「女学校の支援を、大学全般までに拡大するわけか。良いんじゃないか。人も集められるし、篤志家としての宣伝にもなる。合わせて寮も拡充するか」


「うん。基本はそれで」


「ん? 基本以外は?」


「特に優秀な人を、お芳ちゃん達みたいに、この屋敷での書生にするの」


「競争意識を煽り、忠誠心を養うわけか。そして、お前の代わりに働く奴を増やすわけだな。良いだろう。特待奨学生とか大げさな名前にして、各年代1人か2人ってところだな」


「そんな感じで」


「分かった。だがその案、男子にも採用するぞ。女子ばかりでは、世間の目もあるからな」


「別に良いわよ」


「決まりだな。だが、そんなもので良いのか。もっと強烈な事を言ってくるのかと思った」


「私を何だと思っているのよ。それに、今更欲しいものなんてないわよ」


「欲しいのは人だけか」


「あとは、欲しくても叶わないものばかりよ」


「……そういうのは、流石に勘弁してくれ」


「だから欲しいって言わないわよ。それに、少しは自力で手に入れられそうだし」


「是非そうあって欲しいな」


「うん」


 少ししんみりと話が済んだけど、これで姫乃ちゃんを鳳の屋敷に入れる体制を少しは整えられた。

 あとは姫乃ちゃん次第だ。

 私の立ち位置は勝次郎くんの婚約者じゃなくなるけど、それは鈴木を飲み込んだ時に無理ゲーになっているから、違う人で勘弁して欲しい。


 そして私は、姫乃ちゃんが鳳や私の目的を潰そうとしてきたら、正面から叩き潰す役割を果たせばいいだろう。


(そういえば、鳳の状態が良いパターンって、ゲームにも一切ないのよね。どうなるんだろ?)


 日本の歴史もそうだけど、鳳の行く末も未知の領域に完全に舵を切ったと言えそうだ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] そもそも最初からゲームと違うエンディングを目指して散々歴史をねじ曲げてるのに、いつまでもゲーム舞台に拘るお嬢様の矛盾。 [一言] 現状でわざわざヒロインちゃんを鳳中枢に引き込むリスクを…
[良い点] これを機会に結婚してたり妊娠してても通えれる学校を作っていけば現代みたく、妊娠したから産みたいなら退学ね、就職先?ねーから極貧生活してな!な状況を変えれるかもですな。 [一言] 金山見つけ…
[一言] 石原慎太郎の奥様である典子さんは、 17歳で結婚して、4人の子を育てて、 子育てがひと段落ついた30歳前後に 慶応大に入学したので、そのルートもあるのかな? あと、 姫乃ちゃんをわざわざ鳳家…
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