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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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355 「鳳パーティー1934」

「今回も盛況だね」


「本当にそうですね。ハルトさんが一緒で助かりました。私、このパーティーでは一人でいる事が多いんだけど、今回一人だったら方々から言い寄られていたと思います」


「そうなんだ。鳳も長子となると大変だな。今回は、僕がエスコートするから安心して」


「ハイ。お願いしますね、ハルトさん」


 そんな感じの会話を、周りの人にあえて聞こえるようにしながら、会場内をなるべく二人で回る。勝次郎くんと瑤子ちゃんも似た感じだ。

 今日は鳳一族のパーティーなので、マイさんは家族と一緒にいる。既に彼氏さんとの噂は広まって随分経つし、言い含められている者も多いから、突撃するバカもいない。


 虎士郎くんは、楽団と楽しげに演奏中。さらにご年配から幼女に至るまで、その天使の表情で虜にしてしまっている。

 今回割りを食っているのは、玄太郎くんだろう。龍一くんは、幼年学校の学友を数名連れてきているから、家族か一人で過ごしている事が多い。そして隙を見つけられて、鳳一族とお近づきになりたい人、主に女子とその家族のアタックを受けている。

 そしてサラさんだけど、私の執事の一人となったエドワードと合わせるべくこちらから接触を図る。


「こんにちは、サラさん」


「あっ、玲子ちゃん、楽しんでるー?」


「はい。ハルトさんのお陰で、近寄ってくる男性が少なくて助かっています」


「ハルト兄でも、役に立つ事があるんだねー。それで、そっちの執事さんは新入り? それとも、やっぱりハルト兄が役立たずだから、男避け?」


「違いますよ。マイさんも言ってたと思うけど、新入りのエドワードです」


「エドワード・ウィンザーです。以後お見知りおきを」


 私の後ろで、エドワードが丁寧なお辞儀をするのが分かる。


「沙羅です。よろしくね。どこのご出身? 私、生まれだけはデトロイトなんですよ。と言っても、すぐに日本に来たから、全然何も覚えてないんですけどね」


「そうなんですね。私の生まれ故郷はペンシルヴァニアなので、近いですね」


「アレ? ペンシルヴァニアって、フィラデルフィアのある州ですよね?」


「はい。ですが、州の北西部の一部がエリー湖に面しています。私の故郷も、その辺りなんですよ」


「オーッ、確かに近い。よろしかったら、アメリカのお話とか聞かせてくれませんか? って、お仕事中でしたね。ごめんね、玲子ちゃん」


「いいえ、全然。彼が私のものだと見せて回るのは大体終わっているから、お貸しします。エドワード、サラさんにお話ししてあげて」


「畏まりました、お嬢様」


「ごめんねー、玲子ちゃん」


「いいえ。私もハルトさんと話すのに、後ろに男を置いているより良いですから」


「アハハ、相変わらずねえ。じゃあ、少しお借りするね。……で、こっちもお兄ちゃん貸すわね。ハルト兄、ちゃんとエスコートするのよ!」


「勿論だよ」


 そんな感じで、予定通りダブルカップルを形成して、私はハルトさんと二人で歓談中となった。

 そして去年は多くの年頃の女子とその家族からの総攻撃を受けていた感のハルトさんは、私というとびきりの魔除けを得てのんびりと過ごしている。

 だからハルトさんが私に向ける笑顔は、どちらかというと安堵の微笑みだ。


「けど、虎三郎とジェニファーさんのお子さんへの方針は、恋愛結婚なんですよね」


「そうだったんだけどね。リョウは実質的にはお見合いみたいなものになるだろうし、サラの方は向こうから意中の人が現れたから、もう何でも良いって感じだよ」


「確かにそうですね」


「うん。それに、マイが恋愛してくれたから、両親としてはそれで満足しているみたいでね」


「そうなんですね。初めて聞きます」


「昨日の家族会議で、僕も初めて聞いたよ。でも何だか、肩の荷が降りた気分。だからこうして、玲子さんとも気軽にしていられるんだよ」


「アハハ。それじゃあ、気軽に何か食べますか?」


「そうだね。去年はインスタントラーメンが大人気だったよね。今年もそうみたいだけど、今回は何?」


「カップラーメンです」


「カップ? 百聞は一見に如かず。食べに行こうか」


「はい。その言葉を待っていました。私、こういう時じゃないとジャンクフードって、滅多に食べさせてもらえないんです」


「ジャンク?」


「紅龍先生の研究だと、『栄養価のバランスを著しく欠いた、栄養学的には食べる価値のない食品』って定義だそうです。栄養が偏った食べ物で、砂糖とか油とかばかり使った太りやすい食べ物ですね」


「それは心のご馳走だね。なら、余計に食べてみないと」


「ハイっ!」


 イケメンの多い鳳一族だけあって、ハルトさんの無邪気な笑顔が眩しい。ハーフのイケメンの破壊力をまざまざと感じる。これで今まで特定の彼女がいないとか、アイドルの自己紹介みたいだ。



「今回ご用意したのは試供品用の小さな紙器ですが、商品用はあちらの大きさとなります」


 そんな説明を受けて、二人してようやくカップラーメンにありつく。去年のインスタントラーメン同様に、とても盛況だ。その隣のインスタントラーメンの方も、似た感じで賑わっている。

 市販のインスタントラーメンは、鳳グループ内の食堂や学校で採算度外視で導入し、陸軍にも格安価格で納入。さらに、新聞やニュース映画で紹介したり、試供品を配って歩いた甲斐もあって、徐々に広まりを見せている。

 生産工場も新設して、価格も一気に下がった。それでもまだ8銭。大量普及には、最低でもさらに半値にはしたいところだ。値段はまだ高いから、他の食品会社も研究は進めているけど、販売には程遠い。


 そして新商品のカップラーメンの予定価格は15銭。うどん、そばの1杯の値段より高いくらいする。

 どちらもさらに半値にはしないと、誰でも気軽に食べるという点ではまだ厳しい。


「けど、癖になりそうな味だね。それにお湯さえあれば、どこでも食べられるのはやっぱり便利だ。一人暮らしの人には、もってこいだと思うよ」


「そうなんですけど、お値段がまだ少し高くて」


「景気も良いし、工事現場なんかでも重宝しそうなのにね」


「だと思います。それと、うどん・そばはともかく、ラーメンという食べ物自体が日本では馴染みが薄いのも、普及が今ひとつな理由みたいなんですよね」


「確かに。それにラーメンって言葉も新しいよね」


「はい。日本だと、中華料理屋でも支那そばですからね」


「うん。でも、大陸の言葉をそのまま使うのは、鳳らしいかもね。僕は良いと思う。何か新しい食べ物って感じもするし」


 言いながら、ハルトさんは小さなカップに入ったラーメンを美味しそうにすする。それを見て、去年も同じようにみんなとインスタントラーメンを食べた事を思い出したけど、周りを見れば今年も大した違いはなかった。


「凄いでしょ。3分でできるチャイナのヌードルよ」


「ステイツにもない斬新な簡易食ですね」


 英語で話し合っているサラさんとうちのエドワードをこうして見ると、ただの白人カップル。雰囲気も良さそうだ。

 そして反対側を見ると、勝次郎くんが今年もインスタントラーメンとカップラーメンの両方を精力的に攻略中。

 連れまわされた形の瑤子ちゃんの私への目線が、地味にうんざりげだ。今日は許してやれと、思わず軽く拝んでしまう。


 そうしてさらに視線を巡らせると、輝男くんとみっちゃんがカップラーメンを試食中。仕事柄二人で一緒にいる事も多いせいか、雰囲気も悪くない。

 みっちゃんは、輝男くんが多少なりとも心を許している数少ない女子の一人だ。みっちゃんもまんざらでもなさそうだし、このまま関係が進んでいっても良いんじゃないかと思っている。


(もう、姫乃ちゃんが鳳の屋敷に書生に来る可能性も殆どなさそうだもんね。私も……)


「ん? どうかした、玲子さん」


「いえ、みんな楽しそうだなって」


「お祭りの日だからね。でも、このまま平穏が続いてくれると良いね。何より楽だ」


 そう言って陽キャな満面のスマイル。

 子供達からは同じような笑顔を向けられる事はあるけど、年長者からのこういった無邪気な笑顔は滅多にない。

 だからだろう、心臓の鼓動が一瞬大きく高鳴るのを感じた。同時に、一つの事に思い至った。


(ゲーム『黄昏の一族』、体の主の3回のループと違って、虎三郎の一家が日本にいるのが、状況や人間関係の変化に大きく影響しているのかな?)


 そして一つ思い出した。

 ゲーム上の設定では、1934年の初夏に虎三郎以外の虎三郎一家が日本から離れる事に。


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― 新着の感想 ―
[一言] インスタントラーメンばかり食べていた若者が脚気になる事が1970年代に起きてヴィタミン等を添加するようになったという事があったので、紅龍さんに添加用のヴィタミンとか研究してもらえば現代的サプ…
[一言] 後ろにパツキンイケメンとか置いてたら会場に来てる人達「ハルト?…ああそういえばお嬢様の隣りにいたような…?イケメンのインパクト強くて覚えてない…」とかなりそうですものね。
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