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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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311 「後輩達の入学式」

 新年度が始まったわけだけど、世界情勢はともかく日本国内は昭和三陸地震の復興事業以外は、比較的順調だ。

 一方で、私の周りはそれなりに忙しい。

 虎三郎家の長女のマイさんを私の秘書兼専属運転手にしたわけだけど、他にも以前から話していた通り、リズ、エリザベス・ノルマンがアメリカの王様達との契約を終えて、そのまま私の本当のメイドになってくれた。


「リズ。改めて宜しくね」


「はい、お嬢様。宜しくお願い致します」


 もう完全に日本語の会話だ。3年間日本にいたので、日本語も十分以上にマスターしていた。当人曰く「上流階級のクソな英語より上手くなった」そうだ。

 言われてみれば、流暢を超えて自然な日本語になっている。それに生活スタイルなども日本人じみてきた気がする。

 非番の時に、屋敷の中を寝巻きにどてらの姿で歩いているのを、女中頭の麻里に見つかって怒られていたのもこの冬の事だ。


 なお、リズだけど、私の元に来た時点でまだ16だった。だから3年経っても成人していない。アメリカの王様達も、なるべく私に年齢の近い者を寄越そうと努力した結果なのだろう。

 ただちゃんと調べてみると、必要な事は詰め込まれていたけど、大都会の野生児だけに義務教育はロクに受けていないのが分かった。だから、改めて私のメイドになったこれからは、もう少し一般知識を備えてもらうべく、暇を見て教育してもらう予定だ。


 そして鳳は、リズのような境遇の子供の教育は手慣れたものだし、リズには勉強して身につけた分だけ給金出すって条件で、納得してもらっている。

 毎日の送り迎えの間などに、学校の一室で講義を受けていたりするそうだ。また、シズも良くしているけど、鳳の本邸など安全が確保されている場所では、私の側で待機状態の時に本を読んで勉強していたりもする。

 だから当人曰く、「必要な事は学ぶ価値があるけど、義務教育は私にとってクソなのがよく分かった」との事だった。ついでに学校に通っても良いと言ったら、私には学校タイプの集団生活は絶対無理との返答。

 大都会の野生児は、どこまでも野生児らしい。



 そうして新たな配置が済んだ私の最初の外出は、いつもの鳳の学校。と言っても、女学校2年目の私の始業式は8日から。今日、2日は学園の入学式。虎士郎くんが鳳の中学へ、瑤子ちゃんが女学校に入学する日だ。


「二人ともかわい〜っ!!」


「あの、ボクも可愛いなの?」


「ウンッ! 学ランも似合い過ぎるくらい可愛いわ!」


「あ、アハハ……玲子ちゃんには敵わないなぁ」


「玲子ちゃん、日本語になってないって」


「瑤子ちゃんもすごく似合っているわね!」


「そう? でも、もうちょっと背が欲しいわね。鳳のセーラー服って、舞さん達みたいに背が高い方が映えるから」


 そう言って軽くスカートの裾を摘む。


「十分可愛いですよ、瑤子様」


「ん? 舞さん、私に丁寧語なんていいですよ」


「使い分けていると、どこかでボロを出すので、仕事中はしばらく丁寧語で通すつもりです。崩れていたら、注意して下さい」


「そっか。もう、玲子ちゃんの送り迎えも、お仕事なんですね。ちょっと複雑な気分」


「そうよね。お父様は、言葉に気を取られ過ぎるなって言ってたし、難しいのよね」


「出来るだけ短期間で、自然に使い分けが出来るようにします。そうなれば、玲子様みたいに使い分けてお話しするようにしますので、少しの間お待ち下さい」


「うん。けど、綺麗な言葉遣いの舞さんも素敵です。その服と合わせると、格好良さも倍増です。特にその革手袋、格好良すぎ!」


「有難うございます。では、そろそろお時間です」


「ハーイ」


 そうして車何台かに分乗して、入学式に向かう。

 何しろ玄二叔父さん家の虎士郎くんとお兄様の家の瑤子ちゃんの二人が、今年の新入生。龍一くんは昨日から幼年学校なので、今日は本当に二人だけだ。だから玄二叔父さん一家も、お兄様一家も入学式に参列する。

 お父様な祖父は行かないけど、その代わり私が出向く。と言っても一族の名代としてで、在校生代表などではない。在校生代表はもっと上級生が行なってくれる。


 そして私の車だけど、マイさんの自家用車の赤いデューセンバーグのタイプJじゃなくて、今日は鳳の本邸にある黒い防弾仕様の同じ車を運転する。

 来年には、特注したデューセンバーグの新型が何台もアメリカからやって来るけど、それまではこの車を主に使う。


 なお、他の防弾車は、リンカーンの新型が2台ある。皇室はメルセデスを使っているけど、防弾用は馬力のあるエンジンを積んだ高級車じゃないと重さに負けて速度が全然出ないから、防弾仕様の車はこの時代限られた車種しかないのだそうだ。

 何年か前に、皇室用の御料車はロールスロイスだったけど、通常の車だったのを防弾用にしようとしたらパワー不足で無理というので、次の御料車が馬力のあるメルセデスになったという話がある。

 ただ、内装などの出来栄えは、ロールスロイスが一番らしい。


 他は、アル・カポネも愛用したキャデラックや、うちも使うリンカーンの新型が普通だ。デューセンバーグの防弾仕様は、デューセンバーグの生産数が異常に少ない事もあって、うちしか持っていないという噂だ。

 ただメーカーが情報を公開していないし、1台1台の受注生産だから何台か防弾仕様はあると言われている。

 そもそも、日本でデューセンバーグを複数持っているのは、鳳だけらしい。それ以前に複数持つのが、お値段など色々な面からおかしい。流石は機械バカの虎三郎。目の付けどころが、斜め上を行っている。


 そして日本の朝の道路には、うち以外の高級車は走っていない。朝じゃなくても、見かけたらSSR並みのレア度だ。私の乗る車なんて、確実に1台しかない激レアものだ。

 それでも道を走る車は去年より増えた気がするので、私は満足しつつ車窓を楽しむ。


 こうして通学や鳳ツインビルに行く時の車窓からの景色は、私に日本のと言っても帝都限定だけど、それでも今の姿を教えてくれる貴重な機会だ。

 そして見ていると、徐々に主に前世の子供の頃に見た覚えのある建物が増えているのが分かるし、街角の雰囲気も戦前の日本というよりは、高度経済成長期や昭和後半の記録映像などに近く思える。


 そうして30分ほどで到着した鳳の学園も、ここ数年で大きく姿を変えた場所の一つ。もっとも、毎日見ているから、変わったという感覚は乏しい。

 そして去年から人も大幅に増えたから、今年の景色は去年と似通っている。



「それじゃあ虎士郎くんとはここまでね。また後で落ち合いましょう」


「うん。でも、学ランになったせいか、見える景色が新鮮だね!」


「本当にそうよね。私も、女学校は今まで遠くから見るだけだったのに、全然違って見えてくるわ」


「私、去年こんなだったのかなあ。マイさんはどうでした?」


「どうだったでしょうか。でも、瑤子様のお気持ちは良く分かります」


「そっか。シズは?」


「そうですね、私のような者が女学校などに通って良いものかと、少し戸惑いがありました」


「そ、そう」


 気軽に卒業生達に聞いてみたら、シズは流石に重かった。それは天然で答えたシズ以外も感じていたけど、この場に居るのは私以上の陽キャばかりだ。

 そして陽キャ以上が、まだすぐ隣にいる。


「ところで、玲子ちゃんは女学院の入学式で何をするの?」


 やっぱりこういう時は、虎士郎くんに限る。私も安心して言葉を返せるというものだ。


「出席するだけよ。2年は別に式典関係ないし、紅家の見せ場を取ったら大変でしょう」


「なーんだ。在校生代表かと思った」


「それをするとしたら、女学校の最後の年ね」


「もう決まってるんだ」


「成績以前に、鳳の者がいたらするみたいですよ。紅家の子もしていましたし、私も沙羅もしましたから」


「えーっ、じゃあ私も?」


「入学前からそんな心配しないしない。さあ、二人とも会場に行きましょうか」


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