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771 ドラゴンとの戦い


 爆発は、ドラゴンの首元で起こった。


 その爆発を見た瞬間、俺はそれが魔法によって引き起こされたことだということに気づく。


 誰かがドラゴンを攻撃しているのだ!


「よし、やったぞ!」


 そういう声が聞こえてきた。


 見れば先日の二人組が立っていた。


 道具屋で俺たちにからんできたゴリラのような冒険者二人組だ。


 なるほど、今朝の音はこいつらだったのか。


 バカなやつら、そういうのはフラグっていうんだ。


 もうもうと立ち込める土煙で、ドラゴンの姿は見えなくなる。それと同時にランティスの姿も。だが、次の瞬間だった。


 煙の上空が、いきなり掻き消えた。


 と、思ったらそこから巨大な体がこちらに向かって降ってきた。


 ドラゴンの巨体で、一瞬あたりが全て陰になる。


「逃げろ!」


 と、俺は叫んでいた。


 冒険者二人は俺の存在にそれで気が付いたらしい。


「なんでお前が!」と、叫ぶ。


「うるせえ、さっさと逃げるんだよ!」


 俺の言葉でやっとドラゴンが飛び上がっていることに気づいたらしい。悲鳴をあげて一目散に逃げだした。


 そしてドラゴンは俺たちの間に割って入るように着地。


 地面が揺れた。


 当然のように無傷のようだ。


「だろうね!」


 だが考えてみれば好都合だ。


 ドラゴンがこちらに来てくれればランティスからは離れることになる。


 それだけランティス安全になるというものだ。


 俺は刀を抜き放つ。


「クソ、クソ、クソ!」


 ゴリラの1人が、やたらに魔法を連発する。


 だがそのどれも、ドラゴンを怒らせるだけでダメージにはならない。


 もう1人のゴリラは肉弾戦が得意のようだが、こちらはドラゴン相手にはまったく意味をなさないだろう。


 まったく、どうして来たんだか。


 ドラゴン相手に勝てると思ったのか? 死ぬだけだぞ。


 俺に迷いはなかった。


 たしかにこの2人はいけ好かないやつかもしれない。けれど恨みはない。ならば見殺しにすることはできなかった。


「下がってろ!」


 俺は二人とドラゴンの間に割って入る。


 ドラゴンが右腕を持ち上げて、俺をつぶそうとしてきた。


 俺はその腕が振り下ろされる瞬間に、刀で切り裂く。


 魔力のこもった刀は、ドラゴンの堅い皮膚さえも平気で切り裂いてみせた。


 緑色の血が流れた。


 そうか、ドラゴンの血はこんな色をしているのか。


 血を浴びながら、俺はのんきにそんなことを思う。


 ドラゴンは切り裂かれた右腕を引いて、警戒するように少しだけ下がった。と、思った瞬間にそれがフェイントだということが判明する。


 いきなり横合いからドラゴンの尻尾がしなりながらこちらを向かってきた。


 よく見れば尻尾の先には球体状の何かがついている。ハンマーのような武器だろうか、それが俺の体を粉々にしようと向かってくる。


 だが、見えているものをよけるのは造作もなかった。


 俺は身をかわし、ドラゴンの尻尾を横目で見ながら前進する。


「グギャアアッ!!!」


 奇妙な鳴き声。


 それは空気をぶるぶると振動させる。


 しかし俺は足を止めない。


 一度通り過ぎたドラゴンの尻尾が、振り子のように戻ってきた。


 それに対して俺は刀を立てて受ける。人の体を優に超す太さを持つドラゴンの尻尾だったが、いっきに斬れた。分離された尻尾は慣性でそのまま飛んでいき、山頂付近に重たそうな音をたてて落ちる。


 ドラゴンの目が赤くなった。


 どうやら本格的に怒ったらしい。


 だからどうした?


 いまさら両生類だか爬虫類だか分からないモンスターに負けるような俺ではない。


 そのまま一気に距離をつめて、ドラゴンの皮膚に刃をたてる。


 ぐっ、と刃はドラゴンの皮膚に刺さった。が、内部まで斬ることができない。どうやら皮膚よりもその中の方が硬いらしい。


 ドラゴンが暴れ出す。それと同時に俺は吹き飛ばされた。


 空中で体勢を整えて着地。


 傷はない。


 対してドラゴンの方は右腕からは血を流し、尻尾は切れている。


 とはいえ、その程度で死ぬことはないのだろう。


 ならば、と俺は刀をいったん鞘に納めた。


 ここで一気に、と俺はそう思った。


 けれど、誰かが俺の横を通り抜ける。


 まさかと思ったら、そのまさかだった。ゴリラのような顔をした冒険者が大剣を手にドラゴンに向かっていったのだ。


「うおおっ、俺もやるぞ!」


 そういってドラゴンに切りかかる。


 だが、


 ガンッ!


 まるで金属を叩いたかのような音が響く。


「な、なんでだ!」


「バカ野郎!」


 たぶん俺の刀がドラゴンを切り裂いたのを見て、皮膚がそこまで硬くないと思ったのだろう。だけどそれは勘違いだ。俺は刀に魔力を込めているのでなんでも斬れるだけなのだ。


 ドラゴンは小うるさいハエを払うかのように左手でゴリラのような冒険者を薙ぎ払う。


 吹き飛んだ男。


 そのまま地面に落ちてはやばいと思い、俺は慌てて男をキャッチした。


 クソ、手間をかけさせる。


「おい、大丈夫か!」


「ううっ……」


 良かった、どうやら生きているらしい。


 だが意識は朦朧としているようだ。


 俺はもう一人の男の方へといき、そいつを渡した。


「頼むから離れててくれ!」


「お、俺たちも手伝いたくて……」


「大丈夫だから!」


 そうこうしているうちにドラゴンは俺たちから離れて、またあのすり鉢状の山頂へと戻ろうとする。


 まずい、と思った。


 そっちにはランティスがいるのだ。


 ドラゴンはその巨体に似合わぬ俊敏さで逃げていく。


 俺もそれを追う。


 そして。


 ランティスはすり鉢状の空間のちょうど真ん中。最初にドラゴンがいた位置で何かをしていた。


「ブギャアッ!」


 ドラゴンが吠える。


 それで驚いたようにランティスがこちらを見た。


 ドラゴンは何か怒っているようだった。いっきにランティスをつぶそうと跳躍した。


 まずい、と俺は思った。


 もうこうするしかない。


 俺は魔力を思いっきり刀に込める。


「隠者一閃!」


 そして、刀を引き抜く。


「『グローリィ・スラッシュ』」


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