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659 問題だらけ(酔っ払い)


「ほい、ワイン」


「やったぁ、ですわ!」


「もう少ないからな、大切に飲もう」


「最初はワインから入って、少し酔ってきたら日本酒ですわ。ちなみに朋輩はどちらがお好き?」


「そうねえ……どっちも嫌いじゃないけど。まあ強いて言うならワインかな」


 飲みやすいし。


「ああ、そうですの。じゃあこれ、7割くらいは朋輩が飲んで良いですわよ」


「え、いいの? ありがとう。優しいな」


「えへへ、そうですわ。わたくしは優しい女神様ですわ」


 外は夕暮れ。


 薄っすらと暗くなってくる黄昏時。


 こういう時間はわけもなく悲しくなるので嫌いだ。


 シャネルはまだ帰ってきていない。まだ澤ちゃんのことを慰めているのだろう。


「俺さあ、アイラルン」


「なんですの、辛気臭い顔をして」


「ほっとけ、元々だ」


「そうでしたわね」


 いや、そこは否定してよ。


 ゴホン、と咳をして仕切り直す。


「俺さ、澤ちゃんに謝ろうと思うんだけど」


「あら、なにを」


「いや、そりゃあさ。いろいろとだよ。これまで迷惑もたくさんかけたしさ。それにタケちゃんが死んだのだって俺のせいだ」


「およしなさいな」


「ダメ?」


「それを謝られたところで、あの方も困ってしまうだけですわ。許せと言って許せるものでもありませんでしょうし。それでいい気分になるのは朋輩だけですわ」


「なるほど……」


「謝るよりも態度で示すべきです」


「その通りだな」


「ああ、ただ一言。やっぱり謝罪があった方が心象的には良いですわね」


「だよな、そうだよな!」


「でも酔っ払って謝るのは論外ですわ。そんな謝罪されれば普通の人ならグーで殴りますわよ」


「グーで?」


「はい。もしくはパーでひっぱたきますわ」


「それは、嫌だな」


「でしょう、それならキチンとした身なりを整えてしっかりと謝るべきですわ」


 なるほどね、と俺は頷いた。


 さすが女神、たまには良いことを言う。


「たまに、は余計ですわ」


「人の思考を読まないでくれ」


「じつはそんな読んでませんわよ、ただ朋輩が分かりやすいだけですわ」


「俺ってそんなに分かりやすい性格してるか?」


「まあ、そうですわね」


 ワインを一口飲んだ。


 ドレンスの味。まさかこのジャポネでワインなんてものは作られないから、あっちから持ってきた分がなくなれば当分の間は飲めなくなる。


「それで朋輩、お悩みごとがありそうですわね」


「まあ、そうだな」


「シャネルさんには相談しましたの?」


「いいや、まだ」


 少しだけ気分が落ち込んでいるが、たぶんシャネルに慰めてもらうことではないんだろうなとなんとなく思っているのだ。


 そんなおりに、澤ちゃんのこともあって。シャネルはそっちにかかりきり、になってもらった方が良いはずだと思った。


「つまり俺は俺の悩みを自分で解決するべきだ、たまにはね」


「なるほどですわ。それで、お悩みって?」


「いまの俺の話、聞いてた? 自分で解決するって言ってんの」


「朋輩、なにか勘違いしておりませんか!」


「なにが?」


 いきなり大声だよね、アイラルンさん。


「わたくしはただの一言も朋輩の悩み相談を聞くとは言っておりませんわ!」


「いや、だって知りたがってるじゃん」


 チッチッチ、とアイラルンは自分の口の前で指を振った。


 ちがうんだな~とでも言いたげに。


「お悩みの相談というのは、つまるところその解決までをセットにしているものですわ。どこの世界に解決できるか分からないけど相談にだけは乗るよ、なんて言う人がいますの?」


「いやぁ? いると思うけどそういう人」


「いますわね、そういう人」


 ちょっと自分の意見をくつがえすの早くないですか?


「でもそういう人はたいていヤリもくですわ!」


「ヤリ目ってなに?」


「界門網目、科連属節!」


「え、怖い……なにその意味不明な呪文」


「生物学の階級のことですわ!」


「ああ、そういうことね。ヒト科ヒト属ってやつだ」


「そうですわ。そしてヤリ目とはその中の分類でヤリ目ヒト科ヒト属の人間のことですわ!」


「なあ、アイラルン」


「なんですの?」


「適当言い過ぎでしょ」


「バレましたか」


「そりゃあね。途中からおかしいなって思ったよ」


「まあ、そうですわね。で、ヤリ目ってあれですわ。ヤリ目的、つまり女性とエッ! なことをやることを目的として手段をつくすような男性につけられる蔑称べっしょうのことですわね」


「はー、なるほどね。そういうことをヤルのが目的だからヤリ目か。たしかにそれなら耳障りの良いことを言うよね」


「ですわ」


「え、つまりアイラルンもそういう目的? いやあ、困るなぁ。俺ちゃんほら、いちおうシャネルっていう心に決めた相手がいるわけだしさ」


「なに言ってますの?」


「いや、普通に答えないでよ。そこは冗談なんだから」


「つまんねーですわ!」


「ひでえ……ま、いいか。それでなんの話だったか?」


「朋輩のお悩みについてですわ」


「ああ、そうだった。いや、言わないからね」


「えー、教えて欲しいですわ」


「い、や、だ!」


「そこをなんとか!」


「なんでそんなに知りたいの?」


「知的好奇心からですわ!」


「知的……? アイラルン、ちょっとお前意味を辞書で調べてこいよ」


「ああ言えばこう言う!」


「べつにお前に言ってもしょうがねえだろ」


「お前って言わないでくださいませ!」


「はいはい、アイラルン様に言ってもしょうがないでしょう?」


「ムキーッ! バカにしくさって!」


「や~い、や~い、邪神女神~」


「邪神と女神で意味が重複してますわ! 小学校からやり直した方がよろしいですわよ!」


「ふと思ったが、俺ってもしかして中卒なのか?」


「いきなり365度くらい話が変わりましたわ」


「それ変わってるの実質5度分じゃねえか? アイラルン、1年365日とごっちゃになってるだろ。そもそも360度で一周だし」


「ああ言えばこう言う!」


「話しがループしそうだな……」


「ですわね。とりあえず朋輩、ワイン飲んで飲んで。ついであげますわよ」


「おう、ありがとう」


「イッキ、イッキ!」


「コールしないでもらえる?」


「ちょっと良いとこ見てみたい!」


「本当に女神かよ、こいつ」


「わたくしも飲みますわ!」


「あんまり飲みすぎるなよ」


「朋輩こそ!」


 そんなこんなと。


 酔っ払いたちはアホな会話をしながら、夜もふけていく。


 そのうちに自分たちがなんの会話をしているのかも分からなくなっていくのだった。


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