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653 白玉爆弾


「なんてもん持ってるんだよ、お前。それ銃か?」


「見たままだ」


 俺は右手に刀を、左手にモーゼルを持つ。近・中距離において攻防どちらにもバランスのよい武器たち。強いて言うならば使いこなすことが難しいのと、刀を片手で持つためにどうしても腕が疲れやすく、また両手持ちの場合より威力が落ちるということ。


 しかしそこは魔力をまとった刀の切れ味でカバーできる。疲れについてはアドレナリンさん頑張ってください!


「なんだよ、この世界にそんな小型の銃があったのかよ……こうか?」


 こうか、という言葉と共にシワスの手にはモーゼルによく似た小型の銃が握られていた。


「あはは、できたできた!」


「ゲームかよ」


 と、俺は思ったままのことを口にする。


「はぁ?」


 腹がたつ。


 シワスが首を傾げている動作がいかにも俺のかんに障る。


「新しい武器手に入れて喜んで、遊びのつもりかよ。お前はいままでそんなふうに人を殺してきたのか」


「遊びだよ、違うのかい榎本は」


 本当に分からないというような顔をしていた、シワスは。


 決定的に違うと思った。俺とこいつは。


 俺はゲーム感覚でなんて人を殺せない。だって俺は生きているから。生きている人間が生きている人間を殺すとき、そこには覚悟がいるのだ。


 その覚悟もないのに人斬りなんて呼ばれているこの男は――おそらくなにも分かっていない。


 自分が死ぬかも知れないということも。


「俺は真剣だ、遊びでやってんじゃねえ」


「そうかい、でも俺の遊びにつきあってね!」


 シワスが銃口を俺に向けた。


 ダダンッ、と音が3発。


 それは全て俺には当たらない。すでに当たる場所にはいないのだ。


 それでも果敢にシワスは銃を撃ってくる。俺はその銃弾を刀で切り裂いた。そのまま前に進みシワスを斬りつけようとする。


「無茶苦茶なやつ!」


 いいや、違うな。これくらいなら誰でもできる。


 おそらく目の前のシワスにだって。


 しかしやろうとしないだろうな、このシワスという男は。


 死中に活を求めることや、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれということを知らない男なのだ。


 つまりは――


「気迫が違う」


 このまま接近して、切り捨てるつもりだった。


 だが、俺の足元になにかが転がってきた。それはぜんざいに入っている白玉のようだった。しかし白玉よりもでかい。テニスボール大の球だ。


 嫌な予感がしたので俺は飛び退く。これは明確に避けた。


 その白玉自体は俺には当たらない。しかしその白玉が起こす副作用を警戒したのだ。


 はたしてその白玉は爆弾だった。


 爆竹みたいなものならまだ可愛い。しかしその白玉の爆発の威力はかなりのものだ。地面に半円状の穴が開いた。大きさは人が1人、そこで寝転がれそうなほどのものだ。


「なんだ?」


 その白玉爆弾はいくつも俺の方に転がってくる。いや、なかにはバウンドするものもあり、また一直線に飛んでくるものもあった。


 爆弾を作り出す魔法? その白玉はクリスが出現させているようだった。


 1つ1つが人間相手ならば致命傷を与えるほどの威力を持つ。


 それらが呪文の詠唱もなしにどんどん、どんどん増えていく。


「考えたな」


 俺に攻撃が当たらないなら、物量で攻める。単純だが効果的だ。


 いかに無敵に見える『水の教え』でも、さすがに物理的に回避不能な攻撃は必然として避けられないのだ。


 ならば『5銭の力+』で無理やりにでも突破するか?


 いや、それは最後の手段だ。


 俺はざっと白玉爆弾を数えた。この一瞬で30個ほどが出た。


 そしてそれはどんどん増えていく。


 地面を、空を、視界を埋め尽くさんばかりのいきおいだ。


「これでどうだ――」


 俺はモーゼルを撃つ。


 俺はこのままいけば自分にあたりそうな分の白玉爆弾をあらかじめ潰しておく。モーゼルの弾で撃たれた爆弾はその場でぜて周囲の爆弾にも誘爆していく。


 その場から一歩も動かずに対処してみせる。


「加勢する、クリス!」


 白玉爆弾の他にシワスが銃弾を俺に打ち出してくる。


 なるほど良い腕だ、銃弾はまっすぐ俺の急所にとんでくる。だからこそ、読みやすい。


 銃弾を刀で斬る。それをしながらも爆弾をモーゼルで撃ち落とす。


 2対1もなんのその、どちらも俺に傷一つつけられない。


 その場にとどまらず、俺は銃弾と爆弾の雨あられの中を前に出た。


「まずい」


 クリスのつぶやくような声。


 それと同時にまたしても突風が俺に向かって吹き荒れる。


「くっ――」


 これでは近づけない。


 だがしかし、それと同時に白玉爆弾は全て消えてしまった。


「シワス、ここは一度撤退しましょう」


「嫌だよクリス! こんなやつに負けたくない!」


 2人の会話は風にのるように、俺にも聞こえていた。


「……男の子ですね。でしたら良いでしょう、最後に少しだけ。ただし、私がダメだと思ったら一度引きますよ」


 シワスは嫌そうな顔をする。


 ここで俺を殺すつもりなのだ。


「俺が負けるってそういうのかよ」


「いいえ、そんなこと思ってないわ。けれど私の大事な貴方が傷つくのが許せないの」


 顔を赤らめるシワスは、なんだか童貞臭い。そういうの、分かっちゃうんだ俺。同じ童貞ですからね。


「分かったよ」


 シワスは小銃を放り投げた。


 そして、


「『武具錬成』」


 新たに2本の剣を作り出す。


 その剣はどちらも黄金のごとくまばゆく光り輝いていた。


「行くぞ、榎本。今度は本気で、殺す!」


 来いよ、とは言わない。


 俺はこいつのことをなんとも思っていない。


 だからどうしても殺さなければならないという意思もない。


 それでも、それでもなぜか――こいつのことを嫌いだと思えた。


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