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553 ギルドにて再開、そして


 ゆっくりと振り返る。


 俺の後ろには2人の男が立っていた。1人は長身で、1人はチビ。長身の方はまさに筋骨隆々で、背中に大きな斧をかついている。銃刀法違反ですよ!


 もう1人の小さい方は半人だ。冒険者としては少々頼り無さそうな気弱な表情で俺を見ている。

「お久しぶりです、隊長」と、こちらも俺のことを隊長と呼んだ。


「ああ、ルークスにデイズくん。久しぶり」


 さてはて、これは少しばかり問題かもしれない。


 なにせこの2人、俺が榎本シンクだと知っているのだ。俺が一時指揮していた部隊で一緒だったからな。いうなれば戦友だ。


「隊長もクエストですか?」


 と、デイズくん。


「隊長はやめてくれ」俺は声を小さくする。「もうただの冒険者だ」


「あ、そうだ。一緒に組みましょうよ。隊長がいりゃあ百人力だ」


「一緒に? うーん、まあそれも良いかな」


 1人で受けられるクエストには限りがある。


 けれど3人とパーティーとなれば受けられるクエストの幅がぐっと広がるのだ。


「せっかくだし討伐系にしましょうよ!」


 ルークスは大乗り気でクエストを物色する。


 この異世界ではそれなりに身長の高い俺よりも、さらに身長の高いルークスだ。高い場所に貼られているクエストの紙も取りやすそうだね。


「ルークスは『Aランク』だし、隊長は『Sランク』だから。どんなクエストでも受けられるよね。あの、それで隊長……」


「どうした?」


「そっちの人は?」


 デイズくんの疑問ももっともだ。2人はアイラルンとは面識がないからな。


 俺の隣にシャネルがいるのは見慣れていても、アイラルンがいるのは不思議だろう。


 そのアイラルンさん、セクシーな金髪を手でつまんで「気分を変えて縛ってみましょうか」なんて言っている。それ、いま言うことなの?


 なんだかなあ、アイラルンってわざとバカっぽいことをしてる気がする。それはただの勘だけど、俺の勘はよく当たるのだ。


 けれどなんでわざわざバカなふりをしているのだろう、この女神?


「朋輩、ブロンドジョークという言葉をご存知ですか?」


「なにそれ」


 っていうかこいつ、また俺の思考を勝手に覗き見したな。怖いからやめてって!


「金髪の女性はあまり頭が良くないと、という固定観念を利用したジョークですわ。ときに朋輩、ジョークと差別の違いはご存知ですか?」


「さあ、知らないけど」


「聞いた人が笑えるか、笑えないかですわ。簡単ですわね」


 いったいなんの話だったんだ……?


 全力で解釈すると、バカって言われるのは嫌だからやめてって、そういうことだろうか。


「まあ、いいや」と、俺はアイラルンの話を流した。「こいつはアイって言って、まあ友達だ」


「朋輩ですわ!」


「ちなみに冒険者じゃないから、人足には入らない」


 手伝ってもらうことはできるけど、アイラルンの分の報酬は受け取れないのだ。


「そうなんですか、よろしくおねがいします。アイさん」


 デイズは深々と頭を下げた。


 まるで素直な臣下のようにも見える。


「あらおチビちゃん、礼儀ただしいようで。よきにはからえ、ですわ」


 それに満足したのか、アイラルンは嬉しそうだ。


 というわけで顔合わせが済んだ。


「隊長、このクエストなんてどうです?」


「おー? どれどれ」


 ルークスが選んだのは討伐系のクエスト。ジャイアントタイガーを10匹討伐してほしいとのこと。それでいて、死体は保存しておかなければいけない。どうやら皮が必要らしい。


「虎は死して皮を残す、ですわね。朋輩、よろしいんではないですか?」


 アイラルンはそう言うが。


「いや、これはパス。時間がかかりそうだ。それに死体を保存しておくってのが面倒」


「そうっすか。じゃあ大物を一匹討伐するようなのにしますか?」


「そうだな、なんかそういうのないかな?」


「パリィの周辺はそもそもモンスターがいませんからね」


 そうなのか……。


 なかば諦める俺。ならちょっと本腰を入れて何日かかかるクエストをしようかな。それならシャネルも呼んでこようかな。

 

なんて思っていると、奇跡的に良さそうなクエストが見つかった。


「隊長、これ良いですよ!」と、ルークス。「ジャイアント大ナメクジの討伐!」


「1匹だけ?」


「そうですね」


 ほうほう、ならそれにするか。


 ただちょっと言わせてくれ。


 ネーミングセンスどうなの? お前らみんな『ジャイアント』じゃん。他の名前ないのかよ。


 まあ良いんだけどね。


 いや、よくない。


 なんだよ、ジャイアント大ナメクジって!


『ジャイアン』


と、


『大』


がかぶってるって! どっちかで良いよ!


 はあ……はあ……。


 口には出さないけどツッコミ終了。


「朋輩、それを言えないから貴方は気弱なのですわ」


「うるさいやい」


「まあっ! 女の子にだけ強く出る! 最低なDV彼氏ですわ!」


「女の子? どこにいるの、そんなの。あと彼氏じゃねえだろ」


 アイラルンはきゃあきゃあと笑っている。


 そのせいか知らないが「いい気なもんだぜ」なんて陰口が聞こえてきた。分かるよその気持ち、俺だって彼女がいなけりゃギルドで女と騒いでるやついれば腹もたつ。


 アイラルンはどうせうるさいし、俺たちは2人で外に出ていようかと思った。クエストの受注はルークスとデイズくんに任せて。


 けどそうならなかった。


 ルークスがクエストの書かれていた用紙を手に取ろうとした瞬間、横から伸びる手が。


「あっ……」


 と、俺が言う間に横から出てきた男はクエストの紙を引ったくるようにして取っている。


 横入り!


「おい! それは俺たちが取ろうとしてたクエストだぞ!」


 ルークスがいかにも喧嘩腰で横入りしてきた男に言う。


「はあ? もう受注したのかよ。早いもの勝ちだろ」


 その声を聞いて、俺はその男がさきほど俺とアイラルンに文句を言ったやつだと気づいた。


 やれやれ、これだから冒険者ってのは。マナーが悪い。


「テメエ、その紙をよこせ!」


「はあ? なんでだよ、お前らがもう受注したのかよ」


 まあ、してないね。


 この紙をギルドのカウンターに持っていって、ギルドカードを見せて、そした正式にクエストを受注になるんだ。


 ん?


 ギルドカード?


「どうしました、朋輩?」


「いや、あの、あはは」


 やってしまったぜ俺ちゃん。ギルドカード持ってきてない。そういうのは全てシャネルに預けてあるのだ。


 これはクエストの受注、そもそもできないな。


「ルークス、やめとこう」


 俺はここを穏便に済まそうとする。


 あまり意地を張り合ってもそれこそケンカになるだけだし。そのケンカで勝ったとしても俺がギルドカードを忘れたという失態をさらすだけだ。


「でも隊長――」


「まあまあ、クエストはこんなにたくさんあるじゃないか」


 わあっ!


 俺ってばなんて大人。


 なにごとも意地を通せば窮屈なものだ。とかくに人の世は住みにくいってね。


「なんだなんだ、女連れの坊っちゃんはビビリまくってんのか?」


 カチンときた。


「なんですって、ドタマに来ましたわ!」


 けれど俺の横でアイラルンが子供みたいに地団駄を踏み出したので冷静になれた。


「お前ら、隊長のことをバカにすんじゃねえ!」


「なんだよ、お前も女連れかよ」


 横入りしてきた冒険者の男が下世話に笑う。嫌な笑いだった。


「なんのことだ」と、ルークス。


「そっちの半人、お前の『これ』だろ」


 そう言って横入りしてきた男は下品なハンドサインをみせた。それはそれは下品な。


 デイズくんは顔を真っ赤にして反論しようとする。が、その前にルークスがキレた。


「てめえ!」


 つかみかかるルークス。


「お、なんだてめえ。やるのか?」


「おお、やってやろうじゃねえか!」


 あーあ、これダメだ。


 ケンカになる。


 こうなれば諦めるしかないな。


 俺はアイラルンとデイズくんに言う。


「下がってな。俺とルークスでやる」


 デイズくんはあまり戦闘ができるタイプではない。アイラルンはまあ、足手まといである。


「朋輩、わたくしもやりますわ!」


 しかしなぜかやる気まんまんのアイラルン。


「いや、下がってろって」


「そんな! わたくしの必殺のドロップキックであんなやつ瞬殺してやります!」


「やめなさい!」


 こいつ、マジでとんでもないことばっかり言うな。


 安易なパロディネタはやめましょう。


「おいおい、どうしたよ。揉めてんのかよ」


 横入りしてきた冒険者の仲間だろう。3人の男たちがぞろぞろと出てくる。


「そうなんだよ。こいつらがイチャモンつけてきやがって」


「先にケンカを売ったのはそっちだろ!」


 横入りしてきた男はルークスの手を払うと、「な? こいつら酷いだろ?」と自分の仲間たちに言う。それでやつらはドッと笑った。


 俺たちをバカにするように。


 俺は自分が穏便な人間だと思っている。あるいはヘタレと言っても良い。


 けれど、許せないことがある。


 人数にかこつけて他人をさげすむイジメのような行為だ!


「ルークス、お灸をすえてやるぞ」


「了解です、隊長」


 俺は刀を抜こうとしたが、思いとどまる。ギルドの中でのケンカは禁止だ。


「お、やるのか? じゃあ外にでろや」


 相手も同じことを思ったのか、そう言ってくる。


「上等だ!」


 ルークスがいきりたち、率先して外へと行こうとした。


 そのときだった。


 相手のパーティーの1人が外に出ていこうとするルークスに後ろから襲いかかった。


 原始的な棍棒のような武器で、急所である頭を潰そうとする。


「ルークス!」


 俺は叫ぶ。


 だが遅かった。


 相手の棍棒は、後ろからしたたかにルークスの頭を叩いた。


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