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533 エピローグ2


 アルコールを浴びるほど飲んだフェルメーラは倒れてしまい、それに重なるようにしてエルグランドが倒れ込んだ。これで2人目の脱落者である。


「シンク、ああはなっちゃダメよ」


「もちろん」


 シャネルが注意してくる。


 が、俺も限界が近い。


 大広間にはすでに客の数は少なくなっていた。宴もたけなわ。あれ、たけなわってどういう意味だったか。昔シャネルに聞いた気がするけど……。


「さて、兄弟」


 珍しく酒を飲むティンバイが俺に言う。


「うん?」


「俺様はそろそろ帰らせてもらうぜ」


「宿に?」


 分かっているんだろう、とティンバイが微笑んだ。


 もちろん察している。


 いつまでも枯れは俺に手助けしてくれるわけではないのだ。


「ありがとう」


 俺は酔いの回った頭でティンバイに手を差し出した。


 それをティンバイは握り返す。


「兄弟、あの星を見な」


「星って……」


 ここは室内だぞ。


「あの星のように俺様はいつでもお前のことを見守っている。なにかあれば、言いな。翔ぶが如く駆けつけて馳せ参じよう」


「ティンバイ……」


「よせや、礼なんて。照れくさい」


「いや、お前酔ってるだろ?」


 もともとくさいセリフを言うようなやつだったが、ここまでとは。


 まるで口説き文句じゃないか。


「違いねえな。おおい、ワンさんよぉ!」


 ティンバイは少し離れた場所にいる王を呼びつけた。


「なんだ」


「俺様はルオに帰る。あんたはどうする? もしもついてくるならそれ相応のポストを用意してやる、いまのあんたならルオでもやっていけるぜ」


 しかし王は即答する。


「いや、けっこうだ。俺はもう少しこの世界を見てまわる。世直しというのも案外悪くない」


「そうかよ。いつでも帰ってこい、俺様の元に来れば食い扶持ぶちくらいはあてがってやるぞ」


「そうだな」


「あー、じゃあ私が行きましょうか?」


 シノアリスちゃんが手を挙げる。


「なんだ、この乳臭い女は。まあ良いぞ、来る者拒まずだ」


「どうしましょうかね~」


 シノアリスちゃんはちらっと王を見た。勝手にしろ、と王は目をそらす。


 おやおや?


 なんというかこの2人。案外いい雰囲気では?


「あ、お兄さん」


 シノアリスちゃんがこちらを見る。


「どうした?」


「勘違いしないでくださいね。私が好きなのはお兄さんだけですからね」


 シャネルがゆっくりと杖を抜く。


「冗談! 冗談だよな、シノアリスちゃん!」


「うふふ」と、シノアリスちゃん。からかっている。


「うふふ」と、シャネル。こっちは本気だ。


「私は因業いんごうな人間の味方ですよ。ですから、東に不幸な人間がいれば行って慰め、西に不幸な人間がいれば行って笑い飛ばしてやる。そういう人間です、シノン・アイリスは」


 つまりどういうことだろうか。


 王と一緒に世直しの旅を続けるということか。


 良いな、と俺は思った。


 シノアリスちゃんにも、王にもやることがあるんだ。もちろんティンバイにも。


 あとはあっちで寝転がってるエルグランドもフェルメーラも職業軍人だし。


 俺だけか。やることないのは。


 これが、これが荷おろし症候群であるか!


 アルコールが入っているせいかもしれないが、どうにも変な考えになってしまう。不安というか、なんというか。


 うーん、と悩んでいるとこちらも職業軍人であるリーザーさんが声をかけてきた。


「榎本殿」


「あ、リーザーさん」


 アメリア軍のリーザーさんは半人だ。人間とトカゲが混ざったような姿をしている。


 どうもアメリアにはこういう人が多いらしい。


「うちのアイドルから話があるようです」


「アイドル?」


 ああ、なるほどと納得する。ミラノちゃんだ。


「シンクさん」


「どうしたの? もう遅い時間だよ、寝たほうが良いんじゃない?」


「はい、そろそろ私たちも帰ります。あの……それでシンクさん。あの、提案というかお願いというか、お誘いなんですけど……」


「なに?」


「私たちと一緒にアメリアに行きませんか? そしたらローマも喜びますよ」


「ほう……」


 ローマは周りのテーブルに残った料理を集めている。それをなにやら箱にいれて明日のご飯にするつもりらしい。


「あ、もちろんシャネルさんも一緒に!」


「兄弟、モテモテだな」


「からかうなよティンバイ」


 にしてもアメリア行きか……まあ、ありっちゃありだな。


 どうせやることなどないのだ。


 俺は頷こうかどうしようか迷った。しかしシャネルにも意見をきかなければならない。


「私はなんでも良いわよ、貴方と一緒ならね」


「だろうね」


 そう言うと思っていた。


 さてはて、どうしようかね。


 なんて思っていると、意外な人物が現れた。


「それは少々困りますね」


 恰幅の良い体に、脂ぎった顔。


 ずっと浮かない顔をしていたところしか見ていなかったが、いまは満面の笑みをたたえている。この国の執政官、つまりはトップ。ガングー13世だ。


「彼は我がドレンスにおける大事な人材ですからね」


「いえ、ガングー執政官殿。我々はなにも榎本殿をヘッドハンティングしようとしているわけではなくてちょっとした旅行にでもと言っているんです」


「あっはっは、そうでしたか。しかし榎本さん――」


「なんですか?」


「貴方の力を期待して、頼っているのは本当ですよ」


「あはは」


 そんなこと言われてもねえ。


 俺はいままでのような戦いをできるわけじゃないだろう?


 もう復讐相手は1人もいないのだ。


 なんだか変な感じだ。きっと5人を殺せばそれだけで俺は次に進めると思っていた。


 けれどどうやら違うらしい。


 長い旅路の後にはまだ扉があって。


 それを開ければ解決するのか、それともまた長い道が続いてくのか。それすら分からないのだ。俺は……どうするべきか。


「あの……シンクさんは大変忙しいみたいで……」


「あ、いや」


 なんというか話の腰を折られた感じだな。


 アメリア行き、どうするか。


「ん、なんだお前。アメリアへ来るのか?」


 ローマも話に加わってくる。


「あ、いや。どうしようか」


 まだ決まっていない。


 こうしてみればなんだかな、俺はいままで流されて生きてきたのだな。自分ではなんにも決められないような男なのだ。


 流れるだけ……。


 おいおい。


 冷や汗が流れてきた。


 これが仮にも復讐を終えた男か?


 分からなかった。


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