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519 ベルファスト絶命


 拾い上げたモーゼルで虚空を狙う。


 シャネルの頭上、その場には誰もいない。


 だが――。


 タイミングを。


 狙いすまして。


 撃ち込む!


 飛び出していった弾丸。その先にベルファストは現れる。


 当たった!


 俺はそう確信した。


 だが、だが事態は俺の想像とは違う状況にいたる。


 ベルファストの体、それが先程まであった場所。しかしいまは消え去った右半身。そこを俺が撃った弾丸は通り過ぎっていった。


「なっ――」


 運が悪い!


 そうとしか言いようがない。


 ベルファストは笑っている。


 そのままやつはシャネルの方へ落下をはじめる。


 だがそこにティンバイが反応する。シャネルの頭上にいるベルファストに向けて魔弾を数発撃ち込んだ。


 だがそれはベルファストも想定済みだったのだろう。


 また消えた。


 消えたと思ったら俺の方に現れた。


 左腕が俺の方に伸びてくる。そのまま俺は肩を掴まれ、そしてギリギリと握られ。


 痛みよりなによりも、このまま殺されるのではという恐怖がまさる。


 至近距離からモーゼルを乱射して、叫び声をあげる。


 だがそのときにはすでにベルファストは消えており、俺の頭上へと。


 爪の弾丸が放たれる。


 1、2、3、4、5。


 5発の弾丸は次々と魔法陣により防がれていく。


 そこで打ち止めだ。ベルファストは右半身が消え去っているので、とうぜん右腕もないのだ。


 だがこちらもベルファストのことをとらえることはできないのだ。


 一瞬で消えて、消えて、消えて。


 分かっているのだ、このままでは勝てないと。


 ジリ貧だ。


 どうあがいてもベルファストに攻撃をくらわせることはできない。


 その方法があるとすれば――。


 ただ1つ。


 師匠に教わった『水の教え』しかない。


 だがそのためには心を静める必要がある。


 どうしてそれができない?


 簡単だ。俺には『武芸百般EX』のスキルがないからで。


 本当にそうだろうか?


 俺は師匠のことを思い出す。あの人は強かった。俺がどれだけ強くても、その上を行く力を持っていた。精神的にも、だ。


 そしてあの人は武芸を極めるためのスキルを持っていなかった。


 まさかスキルがないから、才能がないから『水の教え』を使えないなんてそんなことない。


 やれるのだ、いまの俺でも。


 やるしかないのだ。


 だがそのためには雑念があってはいけない。水はなにも考えないからこそ、自己も他者もなくただ流れることができるのだ。


 振り返る。


 シャネルを見る。


 ――お好きにどうぞ。


 目が言っている。


 自分のことを構わなくてもいいと。俺の好きなようにやれと。


 貴方のやりたいことを私もやりたいのよ、と。


 小さく頷き、俺はゆっくりと息を吐く。


 そして左手にモーゼルを持ち、右手で刀を抜いた。


 すでに周りは見えていない。


 ゆっくり、ゆっくりと深呼吸を繰り返し気持ちを整える。


 あがっていた息が整う。体中の痛みがひいていく。そして世界から音が消える。


 流れる水のようにただ静かに。


 思えば俺はいろいろなことをこれまで考えすぎてきた。


 無駄なことをたくさん。


 そのせいで恥をかいてきたのかもしれない。考えすぎるのは悪い癖。考えても分からないことはほうっておくくせに、少し考えれば分かることも分からずに。ずっとずっと考えて。


 思考の袋小路であーだこーだと悩む。


 そんなこと、もうやめてしまいたい。


 ――恥の多い生涯を送ってきました。


 ああ、まただ。また考えている。


「情けない姿だ」


 だれかが呟いたのが聞こえた。


 感覚が研ぎ澄まされているのを感じる。俺の五感が明瞭になる。五感、と言ってもそのうちの1つはシックス・センスだが。


「笑っちゃダメですよ。お兄さんも頑張ってるんですから」


 どこかで聞いたことのある声が、また聞こえた。


 誰の声だ? と、思ったがすぐに考えないことにする。


 誰かが俺たちを見ているのは理解できた。


 だが、どうも敵ではなさそうだ。


 俺の心はすでにそんなものに惑わされていない。


 ベルファストが出現した。


 最後くらいは正々堂々か、俺の前だ。


 俺は滑らかな動作でモーゼルを持ち上げて、ベルファストに撃ち込む。


 弾丸はベルファストの首元を貫通した。


 だがそれで絶命しなかったのだろう、ベルファストはもういちど空間を跳躍する。


 そして俺の背後へと回る。


 それすらも俺は驚くことはなく、ただ当然のこととして受け入れて、振り向きざまににばっさりと刀で切りつけた。


「バッ――」


 バカな、とでも言おうとしたのだろう。


 だがベルファストはすでに首から下が残っていなかった。


 すぐに死ぬ、そう思った。


 だが、やつはまだ喋れるようだった。魔族だからだろうか?


 首から下がバラバラにされても、俺を見て笑っている。


「ふぉっふぉっふぉ……やりますネ」


「………………」


 俺はなにも答えない。


 心はなにも感じていなかった。


「だがどうせ貴方はお終いですよ。この場所にはすでにロッドン中から魔族が集まってきておりまス。まさか宮殿にまで来られると思わなかったので、ここの警備は手薄ですがネ」


「言いたいことは、それだけか?」


 さっさと引導を渡してやろう。


「来るのは私と同じ魔王軍四天王の――」


「いったい何人いるんだよ?」


 俺が会っただけですでに5人だぞ。まだ増えるのかよ。


 まあどうでもいいけど。


 俺の心はいでいた。静かだった。


 俺は刀でベルファストの頭部を突き刺そうとした。だがその必要はなかった。


 ベルファストはすでに事切れていた。


 突然だった。普通の人間だったらまだなにかあるだろうに。まるで機械が突然壊れて電源が入らなくなってしまったようだった。


「ふうっ……」


 と、俺はため息を付いて武器をしまう。


「シンク、お疲れさま」


 シャネルがねぎらいの言葉をかけてくれる。


「ああ。でも急ごう、なんかここに魔族が集まってるらしい」


 ベルファストはやはり時間を稼いでいたのだろう。


「兄弟、大丈夫かよ」


「うん。だいじょ、う……ぶ?」


 いや、大丈夫じゃなかった。


 俺はその場に倒れる。いきなり足に力が入らなくなった。


 さっきの『グローリィ・スラッシュ』のせいだろう。


 バタン、と倒れたらその瞬間に俺の心は乱れた。


 あばばばば。『水の教え』がまたどっかにいった!?


「おい、お前大丈夫かよ!」


「いや、これ大丈夫じゃねえわ」


 慌てて立ち上がろうとするが、また倒れた。


「シンク!」


 みんなが心配してくれる。なんか恥ずかしいぞ。


 じゃなくてさ!


「いや、それより早く宮殿の中へ行こう!」


「無茶じゃねえのかよ」


「な、なんか新しい敵も来るらしくて」


 俺は確実に慌てている。


 この状況でベルファストと同じ程度の敵が来ればかなり厳しい。


 俺は動けず、ティンバイは万全の状態ではない。シャネルは個人対個人の戦いには向かない燃費の悪さで、ローマはまあまあやれるだろうが魔族みたいな無茶苦茶な相手には火力不足だ。


「逃げた方が良いんじゃないか」と、ローマ。


「ダメだ、ここで前に進むんだ!」


 俺は自分でもかなり無理なことを言っていると思うが、それしかないと信じていた。


 だが動けないのも確かで。


 そしていると、なにかがポーンと飛んできた。


 最初それはサッカーボールのようななにかかと思った。


 だがそれは倒れた俺の前に落ちる。


 そして、俺と目があった。


「ぎゃあっ!」


 と俺は叫ぶ。


 とんできたのは、生首だった。


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