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515 誰もいない城


 誰もいない町をシャネルと2人で歩く。


 まるでこの世界には俺たちしかいないよう……。


「こうしているとね、この世界に私たちだけって思っちゃわない?」


「うぐっ!」


 まさかシャネルも同じようなことを思っているとは。


 なんだかこれ恥ずかしいぞ。


「そしたらね、私たちすっごい貴重な人間よね。だってこの世界に私たちだけなのだもの。私たちに世界の命運がかかってるわ」


 なに言ってんだ、この子は?


 けれどシャネルのキラキラした目は本気のようで、俺はちょっと引いてしまう。


 それともこれはシャネル一流の冗談なのだろうか。


 俺たちは町の中心にある城を目指していた。城下町の方には誰もいないかもしれないけど、城の中には誰かいるかも、と思ったからだ。


 大きな道をたどっていけば、自動的に城についた。


 けれど城の中にも、どうやら誰もいないように見えた。どこもかしこも薄汚れていて、城へと続く道には枯れ葉が散乱していた。


「なんかこう汚れてると掃除でもしたいわね」


「それで綺麗にしたあとに自分たちで居座るつもりか?」


「いやよ、だってそれだと毎日掃除しなくちゃならないし。私はね、小さな家が好きなのよ。直ぐ側に貴方のぬくもりを感じられるような」


「お、おう」


 なんだろう、これ。プレッシャー?


 なんというか、そういうことを言われると怖いんだよな。こう……結婚みたいなことを言われてるみたいで。いちおう俺ちゃん童貞だからね?


 枯れ葉を踏みしだいて城の中へと入っていく。


 門は閉じてあったが、シャネルが平然と開けてみせた。小さな爆発を起こして、門を壊したのだ。大丈夫かな、と思うのだが文句を言う相手もたぶんいないだろう。


 中に入っても、やっぱり誰もいない。


 いまの爆発で出てくる人もいない。


「とりあえず、どうしましょうか」


「財宝でも探すか?」


「……それ、もしかして冗談?」


 そのつもりだったのだが、つまらなかったらしい。シャネルは薄く笑った。


「忘れてくれ」


 城の中の廊下を歩く。


 どうにも寂しい。この場所にも昔は誰か人がいて。その人が生活をしていて。でもそれはすでに過去の話で。


「ねえシンク、ここ。本当に誰もいないのかしら?」


「え?」


「ここらへん、ちょっと前に掃除されたんじゃないかしら?」


 シャネルが廊下にしゃがみ込む。


 見ればたしかに掃除の後があった。ホコリがあまり落ちていないのだ。


「ほんとうだな。よく気づいた」


「まあ、いつも掃除をする人としない人の違いかしら」


 むっ、いまそれとなく批判された気がする。


「今度から俺もやるよ」


「あら、いいのよ? 私、好きだもの掃除」


 本当だろうか。


 ほら、女の子の「良い」は「ダメ」という意味だと聞いたことがあるし。


 俺たちはいろいろな部屋を当てもなく回る。べつに本当に泥棒しているわけではないけれど。ただなにか良いものがあれば、と思ったのは確かだ。


 そしてある部屋で良いものを見つけた。


 そこはどうやら使用人の部屋のようで。洋服ダンスにメイド服が入っていたのだ。


「おおっ……これは……」


 メイドさんが好きである。


「なにか見つけたの?」


 タンスからメイド服を引っ張り出す。


 なかなかにクラシカルなスタイルのメイド服だ。


 これがけっこう難しいところなのだが、古風な正統派のメイド服とチャラチャラしたサブカル風のメイド服。どちらが良いか、というのは甲乙つけがたく。


 言ってしまえばその日の気分で変わるのだ。


「今日はこっちの気分かも」と、俺。


「なにが? あんまり可愛くないわよそれ」


「こういうのも良いんだって」


 そういえばエルグランドの家のメイド服はどっちかというとフリフリしていたな。だからこそシャネルも気に入ったようだが。


 とにかく趣味の悪い男だ、エルグランドは。なのであのメイド服も当主であるエルグランドの趣味だろう。


「閉まっておきなさいよ」


「えー、着てくれないの?」


「着てほしいの?」


 ………………はい。


 しかしここで着て欲しいと言うことができない俺。恥ずかしがり屋だと自分でも思うけど。


 泣く泣くタンスにメイド服をもどした。


「ぐぬぬ」


「こっちの方が可愛いでしょ?」


 シャネルは自分のゴスロリを誇らしげに見せてくるが。何度も言うようだが俺はあまり好みじゃないのだ。あしからず。


「それよりシンク、私もいいもの見つけたわよ」


「なんだよ」


「はい、これ」


 そう言って俺は小瓶を渡される。


 中にはとてもケミカルな色をした液体が入っていた。なんだこれ……緑色?


「これは飲み物か?」


「まあ、飲み物といえばそうだけど。それポーションよ」


「ああ、なるほど!」


 ポーションか。


 いやあ、それにしても久しぶりに見たな。これ、とにかく不味いってイメージしかないんだよな。できれば飲みたくないものだ。


「それ、あの男の人に飲ませてあげなさい」


「ティンバイにな。ちゃんと治癒の魔法もかけてやれよ」


「シンク意外にやるのは嫌なのだけど。まあ、貴方が言うのであれば」


 よしよし、これさえあれば。


 ――ガタッ。


 ふと、音がした気がした。


 シャネルは気づいていないようだが。


「誰かいる」


「え? そうなの、私は感じなかったけど」


「たぶんこの城の中だ。どうする?」


 探すか、それとも素知らぬ顔で城から出るか。


 シャネルは貴方の好きなように、と肩をすくめてみせた。


 ならば、と俺は探すことを選択する。


 気になっているのことがあったのだ、この町のこと。なぜ人がいないのか。人狩りにあった、ということだろうが。それにしたって老若男女全員というのはおかしいだろ。


「注意しろよ、シャネル」


「ええ、分かったわよ」


 たぶんあっちだ、と音のした方に俺たちは歩きはじめた。


明日更新お休みします、すいません。

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