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504 無人の村でクルマを見つける


 陸地に降り立った俺たちは、シャネルのもつ地図を頼りに近くの村を目指すことにした。


「あっちかしら、こっちかしら?」


 若干不安要素もあるが、俺たちの中でまともに地図を見れそうなのはシャネルだけだったのでしかたがない。


 歩くこと約半日。


 ようやくついた村は――。


 もぬけの殻だった。


「なんだこりゃあ、人っ子一人いねえぞ」


「廃村ってやつか?」


「そうかもしれないわね」


 ローマがすんすんと鼻を鳴らした。いかにも獣っぽい仕草に、俺は少し感動すら覚えてしまう。


「うーん、どうだろう。この感じは」


「どうしたんだよ、ローマ」


「いやあな、少しだけなんというか。生活の気配みたいなのを感じるんだよ。少し前まではこの村、人が住んでたんじゃないかな?」


 そういうものなのか、と俺は思い悪いと思いながらもそこらへんの家の扉を開けた。


 誰もいない。


 いないけど、たしかになるほど。人の住んでいた気配のようなものがあった。


 それはなんとなしの感覚、言ってしまえば勘のようなものだ。


 きちんと言葉にしてみれば、たとえば床にあまりホコリがつもっていなかったり。基本的に家というのは人が住まなければ汚れていくものだ。しかしそれがなかった。


「どういうことだ……」


 考える。


 考えるが、もちろん分からない。


「いやな感じの村だぜ。ここにいて得られるもんなはねえな、さっさと次に行こうぜ兄弟」


「いや、そうはいかんだろ。なんか食料か水くらいは探しておきたい」


「火事場泥棒をするわけだな!」


「ローマ、人聞きが悪いぞ。誰もいなくなった村にものが残っていたら、それを俺たちが有効に活用してやるって言ってるんだ。分かるだろ」


「物は言いようってやつだな」


「そんなに気になるんならコインの1つでも置いておけばいいわ。ローマちゃん、お金もってる?」


「バカにしてるのかよ! ミラノに少しもらってきたよ!」


 俺はその瞬間、なにかを察した。


 なんというか、ローマとミラノちゃんの関係は俺とシャネルの関係に似ている。そんな気がした。


「まあ、なんにせよ散策してみよう。もしかしたら人がいるかもしれないしな」


 ということで、俺たちは30分という時間制限をつけてそれぞれ手分けして村の中を回ってみることにした。


「おじゃまします」


 と、言ってみてそこらへんの家に入ってみる。


 誰もいない。


 当然のように誰もいない。


 べつに家探しして貴重品を探したいわけではない。それでお金ちゃんをほしいわけでもない。


 探しているのは人や食料。


 てきとうに見ると、すぐに次の家に。


 あまり広い村ではない。4人で手分けしているのですぐに終わるだろう。


 と、思ったら――。


 ある家に入った時だった。


「あら、シンク」


 シャネルが他人様の家でサボっていた。


 てきとうに椅子に座り、なにもせずに座っていたのだ。ただ座っていただけだ。


「なにしてるんだよ」


「なにしてるように思える?」


「サボってるだけに見えるけど」


 ちゃんと仕事しろよな、と俺はそこらへんの棚を物色する。ダメだ、口に入っていくようなものはまったくない。


「べつにサボってるわけじゃないのよ」


「そうなのか?」


 俺はうろんな目をシャネルに向ける。


「本当よ。精神を敏感にさせてあたりに人がいないか探ってるの。もし魔力が強い人がいるなら、この方法で分かることもあるから」


「そうなのか。疑ってすまなかった。で、どうなの?」


「いないわね。すぐに分かったわ」


 すぐに、分かった?


 ならいつまでも座ってる必要ないじゃないか?


 やっぱりサボってるような気がする。けれどまあ、なにも言わないでおいた。


「まあいいや」


「それにしてもシンク、この村ってあれね」


「どれだ?」


「私の村を思い出すわ、なんとなくだけど」


 シャネルの村。


 誰もいなかった村。


 シャネルの兄であるココさんが、住民を皆殺しにした。シャネルだけ生きながらえたのはココさんの良心であり、ある意味ではそのおかげで俺たちは出会えた。


「あんまり嫌なことは思い出さないほうがいいぞ」


「ええ、そうするわ」


 俺たちは2人で他人の民家を出た。


 さて、ティンバイとローマはどこにいるのだろうか。あっちもあっちで村の探索をしていると思うのだが――。


 そう思って村の中を回る。するとティンバイとローマは一緒にいた。


「なんだ、こりゃあ」


「え、お前これがなにか知らないのかよ!」


「俺様にも知らねえことはある、教えろ」


「おいおい、それが人にものを教わる態度かよ?」


「べつに俺様はお前に教わるつもりはねえ、教えさせてやるって言ってんだ」


「なんだと!」


「ああっ?」


 なんかケンカしているし。


 2人は古いデザインのクルマの前にいた。クルマ、である。たしかに4つのタイヤがついていて、ハンドルがあって、ついでにいえば屋根のないオープンタイプのクルマ。


 こういうクルマのことをカブリオレと言ったりもするが……。俺はちらっとシャネルを見て、またクルマに目をやった。


「あら、そういえばシンクあれに乗ってみたいって言ってなかった?」


「そういや言ってたかも」


 グリースは科学がそれなりに進んでいた。


 それは金山が俺と同じ異世界からの転移者だからか。やつが主導してこの国の科学技術を進めたのかは知らないが。


 進める――歴史を進める。


 そういう意味では俺よりも金山のほうがアイラルンの目標に近い位置にいるのではないだろうか?


「おう、兄妹! 誰かいたか?」


「いいや、誰も。ちなみにティンバイ、それはクルマと言う」


「クルマ?」


「馬車みたいなもんだな」


「しかし馬がいねえぞ。車輪はあるようだが、どこから引っ張るんだ?」


「違うって、動力は中にあるんだよ。ガソリンとかさ」


 たぶんこれは魔力を使って動くタイプのクルマだろうけど。


「ねえシンク、これを使って首都まで行くんはどうかしら?」


 シャネルが提案する。


「うん?」


 いい考えかもしれない。


 てきとうにそこらへんを歩いて鉄道駅を見つければ良いと思ったのだが。グリースの中に蜘蛛の巣のように張り巡らされた鉄道網。それを利用しない手はないはずだ。


 だがしかし、駅まで行く間ならクルマを使っても良いかもしれない。


 もちろん免許なんて持ってないけど……良いよね!


 なにごとも挑戦である。


「動くのかよ?」と、ティンバイは言いながらも興味津々という感じだ。


「試すしかないな」と、俺もワクワクしている。


 俺は運転席に。


 ティンバイが助手席に。


 そして………………。


 そして?


「エンジンってどこで起動させるんだ?」


「知らねえよ」


 さて、どこだろう。


 なんかイメージだとハンドルの右側くらいにある何か――鍵のようなものをひねっているんだけど。


 と、思ったら。


 なんかボタンみたいなのがある。ちょうどハンドルの右下だ。


 これか? これなのか? まさか自爆ボタンというわけではあるまい。


 ええい、ままよ!


 ボタンを押す。


 その瞬間。


 ――ゴウンッ。


 と、巨大な獣が唸り声をあげるように、クルマが起動した。


「やった!」と、俺。


 しかしその瞬間。


 ブツッ!


 と、なにかが切れた。


「どうした、兄妹?」


「エンストってやつだな」


 エンジンストップだ。


 なにかがダメだったらしい。


「これ壊れてないか?」


 壊れてるよ! 俺はクルマから降りて、タイヤを軽く蹴るのだった。


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